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モノが売れない時代の新たなマインドセット -尾原和啓 著『プロセスエコノミー』-

 書籍の発売前から話題となり、「Amazon 総合ランキング 第1位」の帯も大きくついた、注目の1冊。

 この『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』という本を読んで、SNSが隈なく広がった世界においては、モノの売り方自体も変えていかなくてはいけないんだなと、あらためて感じました。

 以下に、読書を通じて気づいたことや感じたことについて、メモしておきたいと思います。

【Discovery / この本を読んで得られたこと】
 この本がつくられるまでのプロセスを、大きく3つのステップ(【テーマ設定】→【編集】→【普及】)に分けて考えた場合に、それぞれの段階におけるアプローチの仕方がとても巧みだと感じました。

▶︎【STEP①: テーマ設定】アウトプット(完成型としてのモノ)を売る時代から、プロセス(制作過程)を売る時代へ

 生活必需品と呼ばれる商品が多くの人に行き渡った結果、モノが売れない時代になったと言われています。

 そうした何らかの完成型としてのモノを売るビジネスモデルを「アウトプットエコノミー」とした場合、
 その対概念として、そのアウトプットを生み出すに至るまでの制作過程を売るビジネスモデル「プロセスエコノミー」が定義できます。

 この言葉自体は、起業家の古川健介(通称 けんすう)さんが、自身のnoteにてはじめて提唱したものです。

 アウトプットエコノミーの世界では、各商品の品質の差が随分と縮まってきており、競合他者との差別化が難しくなってきています。
 そこで、プロセスによって差別化をはかることが相対的に重要になってきているという指摘は、多くの人の肌感覚としても共感できるものではないでしょうか。

▶︎【STEP②: 編集】既にある現象を寄せ集め、言葉(=プロセスエコノミー)を使いやすくする

 この本の著書の尾原和啓さんは、IT批評家として数々の書籍を執筆されている方。

 AIのビジネス実装について書かれた著書「ダブルハーベスト」や、ネットワーク理論のビジネス分野への応用について書かれた著書「スケールフリーネットワーク」など、
 主にテクノロジー分野の最先端の話題をベースにしながら、その他の分野へも横断的に視野を展開させていく執筆スタイルが特徴的です。

 今回の著書においても、けんすうさんが提唱した「プロセスエコノミー」という新たな言葉を題材に、尾原さんが古今東西の事例を寄せ集め、その定義を体系化していきます。その手さばきは、単なるライターというよりは、むしろ編集者に近いものを感じます。

 この編集作業により、「プロセスエコノミー」という言葉が、より多くの人にとって身近なものと感じられるようになり、言葉そのものが使われやすい環境が整えられていきます。

▶︎【STEP③: 普及】プロセスエコノミー的な、この本の売り出し方

 この本のあとがきにも書かれていますが、この本自体も制作段階からプロセスエコノミーの要素を取り入れた編集作業が行われていたようです。

 また、本の出版が決まって、書店で本が販売開始されるまでの間に、複数のオンラインツール(Zoom、YouTube、Twitter、Clubhouse、Voicy、オンラインサロン など)を使った販促活動が行われました。
 こうした本の存在を普及する段階においては、著書の尾原さんとともに、この本の出版社である幻冬舎の箕輪厚介さんも、編集者の立場で積極的な情報発信をされています。

 箕輪さんいわく、本を売るにあたっては初動(発売開始日)の売り上げが非常に重要な指標となるそうで、ある意味では書店に本が到着した段階でほぼ勝負は決まっているといいます。

 発売開始前日までに全国の書店に本を届け、各書店の店頭で本を平置きにしてもらう(売れそうな本だと思ってもらう)ためには、事前準備にも力を注ぐ必要がある。
 そこで事前予約が始まる段階から、前述した販促活動などを行い、発売日前の予約注文数だけで重版が決定。Amazonの総合ランキングも第1位となり、本の帯にもそうした情報が表記され、さらなるPRへと繋がります。

 この本の売り出し方は、SNSを使ったマーケティングの重要性が高まる昨今においては、ある意味、とても合理的な手法にも思えます。

 モノをつくるプロセスから潜在顧客を巻き込むことで、そのモノを売り出す段階においては当然、購入者の一人となってもらえる可能性も高まります。
 それは一方で、何のプロセスも共有されないモノがいきなり店頭に並んだところで、購入してもらえる可能性は極めて低いということも、同時に示しているのかもしれません。

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 以上、3つのステップにおいて、それぞれに新しい発見がありました。

 現在の自身の活動と照らし合わせてみても、地域住民を巻き込んだまちづくりの取り組みや、今後オープン予定の公共施設の運営方法など、
 持続可能な行政サービスのあり方を考えるうえでも、とても示唆に富む内容だと感じました。

 この本は読者に「モノが売れない時代の新たなマインドセット」を与えてくれる、重要な1冊となるかもしれません。

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