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[禍話リライト]ダンボールの家

 これは、とある大学のサークルに所属する人たちの体験談。
 そのサークルでは一時期、心霊スポット巡りが流行っていた。それはもう行きすぎるほどに。ただ、行きすぎた結果その大学のある地域にある有名な心霊スポットは行き尽くしてしまい、次に行くスポットが無くなってしまっていた。
 そこで、そのサークルのメンバーが考えたのが「地元生に話を聞いて連れて行ってもらう」ということだった。実際に行ってみると、有名なところより不可解なことが起きて怖く感じていたため余計にハマっていった。
 そんなことを続けていたある日。また、新しい心霊スポットに行くことになった。案内人は鈴木君という別のサークルの地元生だった。そんな鈴木君に運転手が
 「今日行くところってどんなところなの?」

と尋ねると、
「ダンボールの家です」
これを聞いたサークルのメンバーは一瞬ホームレスが亡くなった河川敷にでも行くのかな?と思ったが、
「ダンボールがある家なんですよ。まだ時間があるので由来を説明しますね。」
そう言って、説明をしてくれた。

その家がある地域は、山を切り崩して作られた集落だった。そこに新築で家を建てて引っ越してきたのが、若い夫婦と4〜5歳くらいの男の子と女の子の4人家族だった。夫婦が引っ越してすぐに、その地域の町内会長のような立場の老夫婦が挨拶に訪れた。簡単な挨拶だけで帰るつもりだったが、その夫婦が気さくだったのかお茶でもと誘ってきた。断る理由もないので頂くことに。通されたリビングで目に止まったのが、旦那さんの趣味であろう釣りやカメラの本(カメラはお子様の成長記録をうまく撮影する方法、みたいな本だった)と奥さんの趣味であろう軽いスピリチュアルみたいな本(感謝しなさい、みたいな感じ)が陳列された本棚だった。
 その後、お茶が出されて世間話をしていたら、老夫婦が感じたのが「この若夫婦は話がそんなに上手くはないな」ということ。話していて、こちらが補足していかないと言いたいことが分からなかった。その日は、1時間ほど話して老夫婦は帰宅した。

 それから2ヶ月ほど経ったある日、その若夫婦の隣の住民から電話がありどのような話だったか要約すると、「田中さん(若夫婦の仮名)のお子さん一人見かけなくなった。」ということだった。お話を伺っても、容量を得ない感じで何かあるんじゃないか、ということで電話があった。

 その電話から数日後に街で田中さんの旦那にたまたま出会い話の流れでお茶をいただくことになった。家につくと庭先でお子さんが一人遊んでいた。二人で遊んでいるイメージがあったため、もう一人は、と聞くと元気でやってますよ、とはぐらかされた感じがあった。ただ、虐待というより何か病気で言えない事情があるのか、と感じたためあまり踏み込むのも悪いと子供の話をそこまでにした。そのあと、お茶を頂きながら話をしていたらトイレに行きたくなり一言言い借りた。すると、トイレのある廊下の突き当りに和室であろう引き戸があった。戸は開いていて気になったため少し中をのぞくと、部屋の隅にダンボールが置いてあった。ジロジロ見るものでもないので、トイレに行きその後少し話して帰った。

 しかし、気にはなっていた老夫婦の旦那さんは、田中さんの家までを散歩コースにいれて少し見守ることにした。それから数日後、散歩をしていたら田中さんの奥さんが家から出てきて丁度出かけるところだった。専業主婦と聞いていたため買い物かな、と思っていたら今度はもう1人の子供の姿も居なかった。旦那さんが家から出てきていて目が合ったため挨拶をするとまたお茶でも、と誘ってきた。家に入ると子供2人分の靴はあったが、家には旦那さん1人しかいる気配はない。その旦那さんも数日前とは雰囲気が変わっていた。あの後からお風呂にも入っていないんだろうな、という感じで髪の毛が脂でテカり、正直臭かった。少しするとお茶が出てきた。そこでもまた驚かされた。コップが洗っていないんじゃないか、というくらい汚れていたのだ。お茶には手をつけず話を聞いていたら、いつもの如く何を言っているのか分からない。今回はいつも以上に分からない。要約すると

「会社のために身を粉にして頑張ってきたが、病気になりそれを理由にクビになった。しかし、落ち込んでいる時にある人に出会い人生が変わった」

ということだった。ある人とは詳しく聞くと、スピリチュアル系の宗教団体の教祖のようだった。そして、話の中で覚えているのが「その人の教えを身の丈に合わせてカスタマイズしてる」だった。この言葉は、話をしているとよく出てきていたため覚えていた。

 気持ち悪いと感じたため、一度退席してトイレに行くことにした。すると、突き当りの和室がまた開いていた。また、少し覗いてみると隅にあったダンボールが2つに増えていた。まさか、とそのダンボールを持ってみると子供一人分の重さがしたため慌てて中を見ると、子供ではなかった。中に入っていたのは集めてきたであろう、古新聞だった。どういうことか分からず、気味が悪かったため急いでトイレに行った。トイレに入っている間に奥さんが帰ってきて玄関から入ってきた。大量のダンボールを持って。本格的になにかあるんじゃないか、と感じてその日のうちに警察の知り合いに話して2日後に行くことになった。

 2日後。田中さんの家に行くと、2日前に行ったときよりも静かになっていた。車はあったため、家にはいるのだろう。チャイムを鳴らして声をかけたが、シーンとしていた。声をかけてドアに手をかけたら開いていた。失礼しますよ、と言って中に入ると靴は全員分あった。しかし、人のいる気配が全くしない。少し奥にいくと旦那さんと奥さんのものと思われる財布があった。一緒に行った警察が応援を呼んで調査することになった。

 ここからは、警察の方から聞いた話です。家の中は荒らされた形跡はなく、突然居なくなってしまったような印象を受けたそう。意味が分からないのが、やはり奥にある和室。四隅に4つのダンボールがあり、それぞれにぎゅうぎゅうに古新聞が詰められていた。中でも気味が悪かったのが、和室に落ちていたデジカメに保存されていた写真。和室を写したものだったが、四隅にあるダンボールから家族4人が顔を出してピースしている写真だった。ダンボールはそこまで深いモノではないのに、夫婦はそこから顔を出している。どう撮ったのか、さらにその部屋には三脚がなかったのにも関わらず、誰が家族を撮影したのか。そして、家族がどこに行ってしまったのか、謎のままである。

 こう鈴木君は話してくれた。怖い、と思いながらも非情にもその「ダンボールの家」と呼ばれる家に着いた。その家の周辺も人が住んでいる気配はない。意を決してみんなで家の中に入った。

 家の中は、話を聞いていた印象とは異なり綺麗に掃除されていたため怖さを感じなかった。落書きもなくホコリもない。余談ではあるが、こういう失踪者が居るような家は親戚がいつか帰ってくるかもしれない、と管理費を払い管理しているケースがある。だからであろう。油断していたのは。

 一通り見て怪奇現象はなく怖いことも起こらなかったため余裕が出てきたサークルメンバーは、家の前でいつも通り談笑して明るさを取り戻していた。さて、帰ろうか、という時に1人居ないことに気が付いた。今日初参戦です、と元気よく話していた佐藤君だ。普段の感じからして、ドッキリを仕掛けるような性格ではないし迷うような入り組んだ構造の家でもない。全員で戻り声をかけながら探すと奥の方からボソボソと声が聞こえる。例の和室からである。内心ビクビクしながら入ると隅の方に顔をピッタリとくっつけて話す佐藤君を見つけた。

「えぇ〜そうなんですか。へぇ…ふぅ〜ん……それで………」

誰かと話しているように見えるが、対面しているのは壁である。雰囲気がおかしいのを感じて声をかけた。

「おい、佐藤、もう帰るぞ。何してるんだ?」

「あぁ、今お家の人にお話を伺ってるんですよ。」

「おうちの人って…そこ壁だぞ。いいから帰るぞ!」

「やめて下さい!今お家の人に幸せについて伺っているところなんですよ!!」

何を言っているのか分からない、佐藤君の様子がいつもと違う、ということで無理矢理壁から引き剥がしてみんなで力を合わせて車に連れて帰った。幸いだったのが佐藤君が小柄で力があまりなかったことだ。しかし、帰りの道中

「なんで勝手に連れ帰ろうとしてるんですか。そうやってみんなで足を引っ張り合うようなことをしてるから幸せが訪れないんですよ」

とずっと不満を口にしていた。佐藤君がいつもの感じに戻ることはなく、佐藤君自身が怖かったため早々に家に返してその日はお開きとなった。

 それから夏休みとなりいつも行っていた心霊スポット巡りに集まることもなかった。佐藤君が怖いのもあるが、そのような雰囲気でもなかったからだ。お互いに連絡も取らず夏休みが明けた。

 「ダンボールの家」に行って以来初めてサークルメンバーが集まった。話題はやはり佐藤君のことだった。誰も怖くて連絡は取っていなかった。そう、話していても佐藤君は集まりに来なかった。冗談で亡くなっていないよな?と話していると、「ダンボールの家」のことを全く知らない女の子が来た。

「お疲れ様です。」

「お疲れ様〜、ねぇ、変な事聞くようだけど佐藤君がどうしてるか知らない?」

「佐藤君…?一昨日会いましたよ。」

良かった…と安堵したのも束の間、

「スーパーで見かけました。大量のダンボールを抱えていました」

それから、佐藤君は失踪してしまい行方が分からないままである。

[終]

この話は怖い話のツイキャス"禍話"「禍話第三夜(3)」で話されていた「ダンボールの家」を文章化したものです。


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