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ビジネスパーソンのための交渉術⑪  上司の言葉を鵜吞みにするより…真に商売を左右する「情報収集の仕方」

こんにちは、ビジネスエッセイを発信している松永隆です。
本記事は、拙著『ビジネスパーソンのための超実践的交渉術 日本人の交渉のやり方』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、編集したものです。
今回は交渉前の準備として不可欠な情報集ノウハウについて触れたいと思います。

■情報の厚みと精度の上昇曲線

情報の厚みと精度が増していく曲線を想像してみましょう。私のイメージでは[図表1]のような感じになります。 

[図表1]

(1)(2)よりも(3)以降の上昇が急こう配になるのです。

ただいくら時間がないからといって、(1)(2)を全くやらないというのは考えものです。(3)においていい聞き出し方ができなくなるからです。最低限の情報を収集して聞き出したい事項、聞き出し方については一通り考えてみるべきです。

人脈=情報の宝庫

もう一つ情報ソースとして常に意識しておくべきは自分の持つ社外の人脈です。

先ほどのヒアリングの対象として自分が持っている人脈を利用するのは有効な手段です。但し、気をつけなければならないのは情報漏洩です。その人物にヒアリングすることによって社外秘の情報が伝わってはいけない人に伝わってしまうリスクを考えたうえでヒアリングしましょう。

その意味ではヒアリングする人物が信頼できる人物であることは勿論ですが、その人が第三者に漏らすモチベーションを持っているのか否かを慎重に見極める必要があります。またこちらの情報が漏れないような巧みな聞き方というものもあるでしょう。

この後の実例の中に出てきますが、この人脈をうまく利用できた場合、時に決定的な情報をゲットできることもありますので、常日頃からそういう人脈を築いて維持しておくという心掛けは大事だと思います。

◆実例集

さて、この情報収集について実際に私が経験した実例を以下にいくつか紹介したいと思います。そこから導き出される情報収集のエッセンスも各実例のサブタイトルに示してありますので参考にして頂ければと思います。

読者の皆さんも実際の仕事でいろいろ経験されているはずですから、ご自身が経験した案件を振り返りながら交渉に必要な情報収集の意味を今一度考えるきっかけにして頂ければと思います。

何を誰から聞き出すのか? ―情報源の選択と聞き出せる内容の整理―

私は20代後半商社でえさ原料の取引を担当していました。

一般の方にはそれほど実感はないかもしれませんが、日本はかなりの規模の畜産国で鶏、豚、牛の飼育農家は相当数あり、国民に消費される鶏肉、豚肉、牛肉、牛乳、乳製品、鶏卵の供給源として日本の食料自給率を維持する大事な産業です。

このような畜産農家のためにえさ(飼料)を配合、袋詰めして供給している配合飼料メーカーが、畜産業が盛んな地域にある輸入港近辺に飼料団地を形成しており、日本の畜産業を支えています。

・現物商品の買い持ち、売り越し取引の経験で習得したもの

私にとって、今でも思い出深いのは、中国での研修を終えて帰国した私が穀物部飼料原料チームという部署に配属され、その頃に担当した海外産肉骨粉の輸入販売取引でした。最初に上司から言われて多少驚いたのは、「この取引の場合、海外の原料メーカーから仕入れて同じタイミングで日本の配合飼料メーカーや問屋さんに売っていたのではトン当たり数ドルは損するよ」と言われたことでした。

その理由は、配合飼料メーカーや大手問屋の数に比べて輸入業者の数が多すぎ、過当競争の中で売るから買値よりも売値が低くなって損が出てしまうとのことでした。それでは何故わざわざ損する商売をするのかと思ったのですが、それは浅はかな考えでした。

上司曰く現物相場の上げ下げを予想して、上がると思えば先に買って上げ相場の中で配合飼料メーカーや大手問屋に売り捌き、下がると思ったら先にお客さんに売って、下げ相場の中で海外から買っていけば利益を出せるとのこと。要は相場観で勝負する商売であるとのことでした。

「はぁ~そういうもんなんだ!」と一応は納得しましたが、いざ商売を始めると全くうまくいきません。というのはお客さんたちも皆情報を収集して相場の上げ下げを予想しながら買い付けのタイミングを考え抜いていたからです。

お客さんは相場が下がると思えば買わずに待ちますし、相場が底を打って上がり始めると一斉に買いに入ってきます。下げ相場で買って下さいとお願いしても誰も相手にしてくれず、相場が反転すると直ぐ買いにきます。我々輸入業者はお客さんが買いたいときに売らなければ、競合他社にシェアを取られてしまいます。

それでお客さんが買いたそうなときに交渉はするのですが、価格が折り合わず、その隙に競合他社がそのお客さんに安めの価格で売ってしまい、それで私が上司に怒られるということを何度も経験しました。上司曰く「お客が買いに来たとき思い切って売らなくてお前どうするんだ?」と詰問されるわけです。

一方売ったら売ったでたいてい既に上昇相場に入っているわけですから、おおかたの配合飼料メーカーはそれに気づき他の商社にも一斉に買いに入るので海外の原料メーカーも気づいて値を上げてきます。翌日は売った価格よりも相場がもう5ドル~10ドル上がっているのです。2日遅れるとさらに20~30ドル上がっていることも珍しくありませんでした。そうなれば大損です。

逆に相場が上がると思って早めに買い持ちしていたにもかかわらず、思惑が外れて相場が動かず、下がり出すこともありました。これは結構悲惨です。買い契約で船積み月が決まっているので私が売れていなくても船が出てしまうのです。そうすると日本に到着する前に損を出して売りきるか、最悪の場合は日本に到着してから保管料を払って倉庫に保管しながら損切り販売をせざるを得ないということもあるわけです。

穀物相場のように先物相場があれば反対売買を先物でしておいて価格変動のリスクを回避できますが、現物相場しかないので選択肢は現物の買い持ちか売り越しのふたつしかないのです。今考えると、昔の商社はよくこのようなリスクの高い商売を20代の若造にやらせていたものだと感心してしまいます。

それでも、何度も失敗して損を出し怒られているうちに、少しずつですが利益を出す術を見つけていきました。要は人よりも先に相場の動きを的確に先読みして他社に気づかれないうちに[ひそかに]売るなら売る、[ひそかに]買うなら買えばいいのです。ただ、一足先に相場を先読みして動き出すには相場を読むための情報収集力が問われます。

まずは[図表2]の取引相関図と矢印で示した情報収集のチャンネル一覧をご覧下さい。次回深堀りしてお伝えしたいと思います。

図表2

※続きに興味のある方は以下のリンクからご購入頂けると幸いです


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