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[脳から考察]後悔のない意志決定できていますか?

こんにちは!SIGNCOSIGNライターの中野です。

人生は選択の連続だ。 

というシェイクスピアの名言にもあるように、私たちは毎日何かしらの意思決定をしながら過ごしています。

一口に意思決定と言っても、今日のランチは何にしようか、という日常的なものから、就職先を決めるといった重大なものまで、決断の重さは様々です。決断のリスクが大きくなればなるだけ、自分の選択に後悔はしたくないですよね。

そこで今回は後悔のない意思決定をするにはどうしたらいいの?という疑問に、脳神経科学の知見をもとに応えていこうと思います。

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1.ヒトが意思決定をするとき、脳では何が起きている?

そもそも、脳神経科学は「意思決定」をどのように捉えているでしょうか。科学の世界では「decision-making」という単語で研究が行われています。研究で扱われる「decision-making」は、私たちが実際に日常で行う意思決定より単純で無機質なものです。

例えば、サルを対象にした実験で「スクリーンに提示された画像が顔なのか家なのかを当てさせる」というものがあります。(Heekeren et al., Nature, 2004)

人の顔と家の画像、それぞれの画像にノイズをかけた画像の計4枚の画像をサルに見せて、画像が顔だったのか家だったのかを選ばせます。この答えが意思決定の結果とみなされます。

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この研究では、fMRI(ヒトおよび動物の脳や脊髄の活動に関連した血流動態を視覚化する方法。血流はニューロンの活動を反映していると考えられています。)で動物の脳活動を記録しています。実験結果は「顔と家に反応する脳領域は異なっている」こと、「より顔(家)に見える画像に対してはより顔(家)に反応する脳領域の活動が高まっている」こと、さらに「脳の活動を見れば、動物がどちらの回答(顔か家か)をするかが予測できる」ことを示しています。

この結果は、脳において「何を決断するか」と「どの脳領域がどのくらい活動するか」がリンクしていることを意味しています。Aという選択肢に反応する脳領域の活動が大きくなれば、Aを選択する確率が上がるということです。

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2.意識が先か、ニューロンの活動が先か?

さて、ここで質問です。みなさんは意思決定をするときに「自分で意識して決めている」と自信を持って言い切れますか?

1.では意思決定に関わって活動する脳領域=ニューロン群が存在することを紹介しました。このニューロンたちの活動は私達が積極的に「意識して」決められるものなのでしょうか?それともニューロンたちの活動が起こってから私達は「意識する」のでしょうか?

2008年に「脳のある領域はヒトが意識する7秒も前にヒトの意思決定を予測している」という内容の論文が発表されています。(Soon et al., Nat. Neurosci., 2008;)

この研究では被験者に「好きなタイミングで左か右のボタンを押す」ように指示し、その最中の脳の活動をfMRIを用いて記録しています。ボタンを押すという動作が意思決定の結果となります。

被験者にはモニターでアルファベットを0.5秒毎に一つずつ見せ、ボタンを押した後に「押そうと意識したとき」に見えたアルファベットを答えてもらうことで、被験者の意識したタイミングも記録します。

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実験の結果、前頭極 (frontopolar cortex)と呼ばれる脳の先端に位置する脳領域の活動パターンから、被験者の意思決定(左右どちらを押すか)を被験者が意識する7秒も前に予測できることが示されました。

つまり、ヒトが「意思決定した」と意識する前に、脳はどんな意思決定をするのかを決めていることになります。意識が脳神経細胞の活動の結果だとすれば、私達の行動や思考は脳に予めプログラムされているということでしょうか。実は、私たちには自由意思はなかったのでしょうか?

いいえ、私の考えでは、恐らくそのような悲しい事実はありません!脳は環境や身体の動きを反映して、常に「今」活動しています。それが少し私達の意識より早いだけです。遺伝子レベルで全ての意思決定が決まるなんてことはありません。

それよりも本当に重要なのは、ここで脳が辿り着く決定があなたにとって良いものか悪いものかであるはずです。

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3.決定の良し悪しは何で決まる?

そもそもあなたにとって「良い決定」とは何か?少し説明的な表現になりますが、言うなればそれは「現在でも納得できる過去の決定」のことです。自分がその決定を現在も「好んでいるかどうか」が、納得できるか否かを大きく左右します。

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そこでヒトの「好み」の形成について、少し掘り下げてみようと思います。
脳神経科学の分野では、「好みとは、不変のものではなく、自らの決定の過程に依存してダイナミックに進展しうるものである」とされています。(Lichtenstein and Slovic, 2006)

また、2019年1月には「2つの等価な選択肢に対して選択を行うと、選んだ方をより好み、選ばなかった方をより低く評価するようになる」という結果とともに、このような好みの変化は「自分が選択したと覚えているものに対してのみ」生じることを示した研究が報告されています。さらに、海馬(短期記憶の場とされている脳領域)の特定の領域の活動を見ることで「好みが変化するかどうか」を予測できるそうです。(Katharina et al., J. Neurosci., 2019; https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1681-18.2018

この研究でもfMRIを用いていて、5段階の実験を行っています。

【1】被験者にスナック菓子の写真を見せ、「このお菓子にいくら払うか(0〜4ドル)?」を決めさせる=評価1
【2】1の結果から評価の差があるもののペアとないもののペアを作り、それぞれを被験者に呈示してどちらかを選ばせる=意思決定1(※)
【3】再びスナック菓子の写真を1枚ずつ見せ、評価させる(0〜4ドル)=評価2
【4】再び2と同様の実験(スナック菓子のペアは2と異なる)=意思決定2
【5】被験者が自分の選択を覚えているかどうかのテスト

※評価の差がないもののペア=2つの等価な選択肢(こちらのペアは当然選ぶのが難しくなります。)

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評価1と評価2を比較してみると、意思決定1で選んだスナック菓子に対して支払う金額が増え、選ばなかった方に対しては減っています

このような内的な変化は「他人に選んでもらうこと」では生じません。自分で選ぶことで、自分の中に「好みの変化」が生じ、一歩「後悔のない意志決定」へと近づけるのではないでしょうか。

蛇足ですが、この研究で面白いのは、選ばなかったという行為のほうが選んだという行為よりも大きく内的な評価に影響することです。自分の拒否したものに対しては評価を下げて「自分の決定に後悔のないようにする仕組み」が、脳の中にはあるのかもしれませんね。

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後悔のない意思決定のために「自分で決める」

後悔のない決断をする、というのは一見難しいように思います。しかし、脳のこのような側面を覗いてみると、案外人間は簡単な生き物なのかもしれません。その日のランチにせよ、就職先にせよ、他人の意見を取り入れつつも、最後には「自分で決める」ことが、後悔のない意志決定を通じて人生を前向きにするための秘訣なんじゃないかなと思います。




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ちなみに、加来さんの公開している「覚悟を持てるネーミングやコピーを共創する方法」では「自分で決める」=「覚悟を持って決定してもらう」というゴールに向けて、「どうやって/何を根拠に自分で決めたらいいか」という決定までのプロセスを支えるテクニックが紹介されています。誰かと対話しながら自分と向き合うことで、自分自身への理解がさらに深まります。このような過程を踏んだ上で最後には自分で決めることで、より納得のいく決定ができるようになるはずです。ぜひ、みなさんも一読してみてください。

イラスト・編集 by ねもとさやか

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