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2023年脇本雄太選手の自力時計一覧(6月19日時点)

ダービーでの課題から振り返る

※前回記事「2023年脇本雄太選手の自力時計一覧(5月7日時点)」
https://note.com/signalright/n/na390c2cef751

前回の記事から富山全プロ記念と岸和田高松宮記念杯分を追加しました。

今年の脇本雄太選手 映像解析ラップ一覧(2022GP含む)

前回の更新時に「まだ残っている課題は航続距離」ということを書きました。昨年末の3ラップ(600m)を全速で駆けてしまったグランプリでの強い脇本を絶好調だとすると、トップスピードはもう完全に復調しているのですが、2ラップまでのレースとなっていて、航続距離が足らないというお話です。

平塚ダービー準決勝で3はラップをお化けみたいな時計(10.9-10.8-10.7)で駆けてます。11秒切ったうえに平均が加速しているとんでもない時計なんですけど、この日は他のレースでも時計がバンバン出ており、その理由として風がバンク内をほぼ全面追い風で回り巻いていました(詳しくは前回記事をどうぞ)。

状況は違いますが競馬でいえば夏の小倉競馬みたいな時計が出やすい状態でしたので、参考外とさせてもらってました。

そして、平塚ダービー決勝では、犬伏の先行を巻き返すことができませんでした。今年に入って犬伏湧也はもう脇本に迫るスピードと航続距離を発揮しています。

これまでは、他の自力と明らかにスピードでは1枚以上の実力差があり、航続距離でも勝負できるのは、過去には清水松浦の二段駆けか、地脚の鬼である新山響平の先行力くらいしかいませんでした。そこへ実力差が小さい犬伏という存在が出てきたことによって、脇本が「展開で負ける」パターンが増えてしまったのです。

「犬伏を決勝に乗せてはいけなかった」

この脇本のコメントが、全てを表しています。

高松宮記念杯決勝 2周先行の意味

岸和田での高松宮記念杯で、脇本は連日捲りでの勝負でした。1走目こをホームカマシで400m戦を10.5-10.6と、やはり400mであれば最強であるのは間違いありません。H-G間では6日間で21.1は全レースでトップの時計です。

ですが、今回の高松宮記念杯では犬伏も含め、もう1人「仕上がった自力」がいました。新山響平です。

まずは、高松宮記念杯全レースでのJ-B間時計ランキングを見てください。

J-B間の時計ランキング

次に、赤板H(R)からゴールまでの2周自力時計ランキングです。

赤板H(R)からゴールまでの2周自力ランキング

とにかく、新山が残り600~800mのロングスパートでハイラップを叩き出しまくっていることがわかります。ただでさえ航続距離だけのお話なら脇本より新山のほうが長いです。そこに、中身が伴っています。

しかし、世間の評価は違いました。「末が甘い」「上がりが平凡」「勝ててない」という評価が節間で並んでいました。

ラップをチェックしている私からしたら、これらの評価をされていることは信じられませんでした。勝負どころのJからBまででこれだけのハイラップを叩き出し、いざとなれば赤板Hからロンスパしてくる先行選手が脅威じゃないわけがありません。別線自力は少なくともBまで何もできないんですよ。こうなると前々に居る選手しか勝負にならないので、後方に置かれたラインは終了なのですが、そんな別線が恐怖を憶える状況を、多くのファンは理解できていません。

極まっていたのは準決勝10Rでの新山でした。

10R準決勝でのラップ

この準決勝、北井佑季が2周駆けを狙って先行します。北井も今や脇本、犬伏、新山に次ぐレベルで自力として力があるラップを出している選手です。JH間を10.9で駆けていました。しかし、新山はこれを10.6で粉砕し、主導権を奪ってしまったのです。

連日2周先行をしていた新山が、こんな早い位置から捲り追込で使うような脚で叩いてしまったのです。普通、11.0を切るようなペースを叩くことは中団からでも10.6以下でないと無理です。半周0.1秒で1車身なのですから。

しかし、新山はそれをやったうえで2着に粘り、決勝に乗ってきてしまいました。

二次予選までは2周先行、準決勝で10.6で叩いた新山です。こんな選手を先に逃してしまったら、いくら脇本でもまくれるかどうかは約束はできません。

しかも、決勝で前受していた脇本は、いつも通り、誘導から青板4角ですでに車間を切っていました。あそこから、そのまま引いて、下げ切るとなると、新山は切ったあと、(松井がさらに切る場合を除いて)Jまでスローで駆けられ、脚を温存できることになります。つまり、600m未満の全速航続距離で新山を駆けさせ、7番手から追いかけなくてはいけないのです。

準決勝での600mで勝負していた新山のラップは
10.6-11.3-11.7
でした。これが、600m未満になるのですから、
10.9-11.1-11.6
にできるものとします。

脇本選手は1走目で10.5-10.6で走っていました。この時計は今の自転車のフレームやギヤ、ルールではもう限界値だと思います。ただ、これがHから出せたとして、どうなるでしょうか?

最終Hで7番手(状況を甘く見て車間が空いてないものとして)は先頭から6車身後ろです。HBを11.1で先行しているとする新山をBで並走まで持ち込むには、0.6秒の短縮が必要です。つまり、10.5ですから、なんとかBで並走まで持ち込めるかどうか、ということになります。

ただ、これは車間が空いていない、番手の牽制がない、外を回るロスを考慮しない、中団からの先捲りの影響を考慮していないものです。あらゆる、悪影響を排除した状態でもBで並走までが限界である、といえます。

つまり、今節の新山はダービーの犬伏のように、脇本からすれば「差のない相手」だったのです。

しかししかし、脇本は、それに気づいていました。ダービー決勝で犬伏にやられた経験も含め、ここで、脇本は脚力ではなく、展開で勝負することにしたわけです。すなわち、突っ張り先行を選択したわけです。

重ね重ね述べておきますが、保たなそうな距離からの先行は自爆行為だと思っている競輪ファンも未だに多いのですが、先行すればバテたとしても、後ろが縺れて逃げ切れる可能性がないわけではありません。先行だけに許された可能性の一つを残すのが早駆けです。

この高松宮記念杯決勝での脇本の先行は、犬伏や新山といった、もう脇本と実力差が小さくなって追いついてきた自力選手たちへの強烈な牽制のメッセージとなったものです。

脇本が弱くなったのではなく、新山や犬伏が追いついてきているなか、今後の競輪界の上位は、彼らが決勝で同乗した際に、ジャンケンをするかのような駆け引きが行われていくことに当面はなるでしょう。予想する側としては難しい状況です。

ですが、ここ数年、脇本一強で、脇本の調子で予想が完結する状況だったことを考えれば「面白い」状態だとも言えます。ファンの予想する力が問われるのが、今年の競輪G1戦線だとも言えるでしょう。

今年後半も脇本選手のラップは計測し続けますが、ぶっちゃけた感想を書くのであれば、犬伏や新山も追ったほうがいいと思ってます。

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