見出し画像

競輪におけるレースラップ集計の方法と課題

※2023.5.13 一旦は更新完了で完成版。今後追記事項あれば更新する予定

<1>現状の映像解析方法

【使用ツール】

・LibreOfficeのCalc(OfficeのExcel系ならなんでもいいと思う)
MPC-BE(動画再生ソフト)

【環境整理】

①CalcなどのExcel系表計算ソフトを使用し、入力セル(例の場合は緑色セル)を5行、算出セル(例の場合は黄色セル)を4行用意する。各セルの「セルの書式設定」を以下に変更する。
カテゴリー:時刻
書式コード:MM:SS.000

入力セル(緑部分)、算出セル(黄部分)すべてのセル書式を上記にする

②算出セルに計測地点ごとの時刻差を引き算で求めるよう、入力セルの引き算となる数式を設定する。(例の場合はJ-RでRJのラップが計算される)

RJ間はJ-Rの数式を設定している。以下同じ

これで、各地点の映像時刻を算出セルに入力するだけで、ラップタイムを得られるCalcが完成する。これをツールとして今後は使用する。

【映像解析手順】

①keirin.jpからレース映像をダウンロードする。方法はいくつかあるが、簡単なのはダイジェストページでダイジェスト映像を右クリックし、「名前を付けて動画を保存」を選択する。セキュリティ面でブラウザから警告が出る場合もあるが許可すればよい。競輪公式が危険なサイトだったら日本が終わってるので。

まあ、画像を保存するのと一緒です。

※動画の格納URLには書式があるのですが、サーバーに負担がかかるような取得方法は勧めません。この意味がわからん人は手動で必要な分だけポチポチしてください。

②ダウンロードしたダイジェスト映像をMPC-BEで再生する。

③計測したい地点で一時停止する。MPC-BEはキーボードやマウスで一時停止地点から1フレームごとのコマ送り、コマ戻しをすることが可能だ。
(参考:MPC-BEプレイヤーで動画のコマ送り・コマ戻しする方法 https://www.teradas.net/archives/35946/

残り2周の先頭通過で一時停止した例

④Ctrl+Gを押下すると「指定位置に移動…」というウインドウが表示される。時間の欄に表示されている数値をコピーする。この数字が、この動画の一時停止時点における再生時間で、100ミリ秒までの時間となっている。

この動画の13秒990だったのですね。これをコピペします。

⑤④でコピーした時間をCalcの該当する算出セルにペーストする。④の例で取得した時間は赤板H先頭通過の時間を取得していたので、R(赤板)欄にペーストした。

コピペっす

⑥そのほかJ地点、H地点、B地点、G地点で③~⑤を繰り返す。

J地点での先頭通過。センターカメラの塔が邪魔だが、なんとか定めている

⑦2地点を計測できていれば、算出セル(黄色部分)には地点間のラップが計算されている。以下の例だと、それぞれ先頭通過を計測したので、赤板HからJまで(RJ)のレースラップが14.944秒であったことがわかる。

RJ=赤板HからJまで

ちなみに例のレースでの場合、全地点の先頭通過を計測したものがこちら。レースラップは赤板Hから200mごとにゴールまで14.999-13.313-11.575-11.012となる。公式の上がりなどは0.1秒単位なので、それに倣えば
14.9-13.3-11.6-11.0
といった感じで、競馬っぽくなる。

先頭通過を取り続ければレースラップになる

これを先頭通過だけではなく仕掛けた先行選手に対して行えば、先行ラップを計測できる。ただし、先行ラップは外から仕掛けていたり、先頭だったりと風圧を避ける前の選手がいない地点からでなければ「自分の脚での時計ではない」ので開始地点には注意が必要だ。

例えばJからHの中間地点あたりで7番手から一気にカマして先行した選手がいた場合、J過ぎまでは前の列に続いて風圧を避けていたため、仕掛けはHより前であったとしてもJH間の時計の半分は「他人の時計」であり、この地点間の時計を求めてそれを自力の脚力評価をするのはおかしいことになる。HBの時計を見ながら、それより100m前から仕掛けていたことを考慮する、といったような形で評価せねばならない。

<2>現状ある問題点の対応策

ただ、現状で競輪のラップを計測するにあたって、競馬のようにはいかない問題点がいくつかあり、それが誤差の原因や、計測が困難なレースがある事象を産んでいる。それらの問題点を正しく理解せずに利用したりSNSなどで公表すると、誤報や誤解となるので、問題点とその対応策を列記する。

【問題点①映像が30fpsと粗い】

keirin.jpのダイジェストやレース中継の映像フレームレートは30fps=1秒間に30枚だ。0.1秒につき3枚、1枚から見れば0.033秒間ということになる。
まずこの時点で言えるのは、秒の計測精度としての有効桁数は小数点下1ケタになる=0.1秒単位までである、ということだ。

そしてもう一つ大事なことは、
計測点で丁度タイヤの先端がかかっている映像がない場合(1コマ前後の間に計測点を通過してしまうもの)、±0.033秒以内の誤差が初点と終点でそれぞれ存在するため、映像解析ラップでは最大で0.066秒程度の計測誤差が生じざるを得ない。ちなみにYoutube等でのレース中継も元中継映像から提供されているもののため、他の映像を使ってもまずfpsが上回ったものを入手できることはない

たった1フレームだが、30fps(フレーム間0.033秒)ではゴール線真上に前輪先頭が乗っておらず、前後で跨いでしまっている場合がよくある。

そのため現状ネット上で入手できるレース映像のフレームレートでは、これ以上の精度でラップを計測することは不可能である。そして0.066秒の誤差というは有効桁数である小数点下一桁にしてしまうと、0.1秒の誤差に拡大する。ただし、本当の誤差は0.1秒未満のため、どうにか下記の対応策を取ることで誤差を抑えることが可能。

【解決策①-1丸め処理の工夫】

フレームレート的にも、発表されている時計や上がりが0.1秒単位であることを考慮しても、小数点1ケタでの切り上げ・切り下げで時計は整理する。そのため四捨五入をする。

ただし、前後のラップ比較で四捨五入時の切り上げ・切り下げ幅を比較して、誤差がトータルで小さくなるように一方を四捨五入ではない処理をする。
(例)
JH11.28⇒
切り上げで11.3(変動+0.02)、切り捨てなら11.2(変動-0.08)
HB11.06⇒
切り上げで11.1(変動+0.04)、切り捨てなら11.0(変動-0.06)
この場合、本来であればともに四捨五入では切り上げになるのだが、トータルでの変動を小さくしたいので、JHは四捨五入切り上げの11.3、HBを切り捨ての11.0とする。
これならば変動幅の合計は
+0.02-0.06=-0.04
となり、単純に四捨五入した場合の
+0.02+0.04=+0.06
より変動幅は小さくなる。

【解決策①-2公式値を優先する】

また、BG(バックからゴール)間は競輪が公式に計測している「上がりタイム」のほうが正確であるため、先行逃げ切りなどの場合はその先行選手の上がりタイムを正として補正する手がある。っていうか、そうしたほうがいい。

余談だが、競輪が公式に行ってる時計計測方法も実は映像解析である。センターカメラからの審判映像を使用しているのだが、この映像のほうがはるかにfpsが細かく、映像にレースタイムも記録されているため、公式が発表しているタイムのほうが正しい。っていうか、審判映像もJRAのパトロールビデオみたく全面公開してください。時計計測においてはそっちのほうがありがたいんです。っていうかいうか、そもそも時計公開してください。競輪の成績情報にはレースラップも存在しているので……

レースライブとしてはつまんないのかもしれないけど、レースを客観的に分析したり、時計を見るのならば審判カメラからの映像のほうが有益で正確だが、競輪では審議部分を一部レース場が公開しているだけで、庶民には手に入らない。

また、赤競.NETでは登録(無料)をすると、マイページ>詳細成績ダウンロードから、赤競が取り扱っていたレースのレース結果をPDFで取得できるが、ここには公式の最終周回時計という、最終周回1周のレースタイムが掲載されている。

1周となっている欄が「最終周回時計」。ちなみに競輪研究にも1周時計が掲載されているが、1着選手の1周時計という意味がない数字なので参考にならない。

最終周回時計はHの先頭通過から、1着選手のゴールまでのタイムのことである。Hから先行した選手が逃げ切っている場合はそのまま先行選手の1周時計になる。もちろん、違う選手が1着だった場合はそうではないが、こちらも審判映像からの計測値で正確性はこちらのほうが高いため、補正をする際には優先するべき値となる。

例えば先行逃げ切りのレースで、
最終周回時計が22.5
1着逃げ切り選手の上がりが11.4
ならば、HBの時計は22.5-11.4=11.1である。

このときHBの計測値が11.2だったとしても、正しいのは11.1であり、計測点のズレなどが発生しているので、JHの時計に補正をかけることを考えることになる。

赤競.NETのレース結果PDFは赤競が扱ってる場の分のみ入手できるが、記念以上の重賞レースは全場扱っているので、重賞の最終周回時計は全部手に入る。ただし、最終日分の更新は当日中に行われないことが多い。どうせ誰も見てないだろうということで後回しにされるようだ。

【解決策①-3最終手段は競輪場へ電話だけど】

因みに競輪では先程紹介した最終周回時計とは別に前周周回時計というのが計測されている。前周周回時計には正式名称があるはずだけど忘れた。が、審判部に問い合わせるとき大体通じるのでこれでいつも話している。

前周周回時計とは、最終周回の一つ前の周回のレースラップを指す。わかりやすく言えば赤板周回のレース1周時計である。レースは赤板周回から動くので、赤板から計測したい際には大いに役立つモノだ。

ちなみに誘導員が残ってる場合は誘導員の先頭通過時点からなので注意されたい。今のルールだと333バンク以外では赤板Hでは(誘導早期追い抜きが発生していない限り)誘導が先頭通過しているので、レース時計としてはココから計測となっている。

実際に映像計測した数値を見るなり、計測してみるなりするとわかるが、S級の先行になると一番速い時計がJ-H間で出ることは当たり前である。先行の評価をする際にここの時計を見ないわけにはいかないのだ。

この前周周回時計は、先程書いた通り、計測されている。そのため、競輪場に問い合わせると教えてくれる……ことがある。悲しいかな、確実に教えてくれる訳じゃない。一部の競輪場で「わかりません」とか「教えられません」という対応をされる場合があるのだが、大半の競輪場は電話で問い合わせると教えてくれる。

しかし、当日中に知りたい場合、競輪場の営業時間内かつ審判部がまだ居る時でないと知ることが出来ないので、最終レースが終わってから数十分後に電話することになる。基本審判部とメールでやりとりは断られるので、基本はその僅かな時間に電話をかけるしかない。社会人で平日だと無理だと思う。

現状、前周周回時計を一般人が知る手段は電話問い合わせしかない(厳密には弥彦競輪の専門紙「スポーツと競輪」にはミッドナイト競輪以外であれば1周半時計、そして1周時計が掲載されている。2周は掲載されてないものの、JH間を知るのに役立つ)。

【問題点②B線が薄い】

これは根本的な問題だが、B線が薄いうえに映像画質が悪い競輪場があり、B通過を正確に判断するのが困難な場合がある。
⇒対応策 上がりからの逆算、金網などの特徴を探す

【問題点③2台のカメラ切り替えでラグ】

これは競馬系の映像解析ですでに既知のお話であり、教えてもらえた事になるのだが、レース映像に使用されているカメラが複数ある映像の場合、カメラ同士の同期がズレていることがある、というお話だ。

つまりカメラAでバックを映して、カメラBでホームを映している映像が切り替わって1つのレースを映しているとして、カメラAとカメラBの時間が微妙にズレていることがある。

競馬系ではラップタイムが公式にあるので、カメラ間によるズレがあっても、カメラA、カメラBのズレを公式ラップに充てて算出できるのだが、競輪は公式値が1周単位で、その1周のうち2台のカメラを使用していることが大半なので、同期ズレを算出で出すのは不可能である。

やれることは、公式1周時計と大体そういう競輪場は0.2秒もズレが発生するものなので、上がりやカメラの切り替わり前後の計測精度を優先してゴリゴリに補正するしかない。

よろしければサポートお願いいたします。いただいた分は取材などの活動費に充て、今後よりパワーアップした記事や活動をするための原資になります。