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Day17,「Stormy love affair」Inktober2020

 ぶーん、と音がして、会場は暗くなる。緑のライトだけが点いている、ぼんやり照らす。そのうち、大画面に大きな光が投影され、最初は予告編から、そして本編が始まる。映画のあの一連の、始まるまでの時間が好きだ。
もちろん、劇場で見る以外の映画も好きだ。昔自宅近くの図書館で借りたビデオ映画を、家のテレビデオに突っ込んで、ざりざりした荒い画面で見るのも好きだったし、今ipadで寝転びながらぼんやり流す、Netflixの映画なんかも好きだ。でも、一番好きだったのは、中高暮らした学生寮で、毎土曜の夜行われる、"映画会"で見る映画だった。

 映画会は、実家が地方の、暇な学生達を集め、ゲオで借りてきたDVDを見るだけの会だ。食堂の大型スクリーンを借りて、プロジェクターで投影する。年毎に変わる係の趣味によって、並ぶタイトルもがらりと変わった。アングラ邦画が多い年があればスプラッタ物ばかりやる年もあったし、メジャーどころをきちんと押さえる年もある。
2本立てだが、中学生は一本目だけで、高校に進級するとそのまま2本目も見ることができた。小遣いの範囲内で思い思いの菓子を買い、集まる映画会は、多くはない極上の娯楽の一つで、私たちは毎週、楽しみにしていた。
当時見た映画で今でも覚えていたり、好きな映画はたくさんある。ロイヤル・テネンバウムズ、シュリ、ロック・ストック&トゥースモーキングバレルス、survive style + five、アメリ、パプリカ、仄暗い水の底から、、、。
そのうち映画会の派生的に、自分たちで選んできた映画をDVDプレイヤーとかパソコンで見るような個別なものに参加するようになったり、わざとメジャー映画のパチモノや、とにかくエロ要素をぶち込んでマシにしようとするクソ映画だけを借りてきて見る、クソ映画会をやったりするようになった。

 あの頃見た映画で、一番面白かったものは分からないが、一番気に入っている映画は、「フローズン・タイム」というマイナー映画だ。監督はもともとVOGUEみたいなファッション誌でフォトグラファーをやっていたショーン・エリス。20分くらいのショートフィルムを撮ったらウケが良くて、長編に撮り直した、ほぼ処女作みたいな作品らしい。
彼女に振られた絵描き志望の男がショックで不眠症になり、スーパーの夜勤で暇潰しと金儲けを始める。ボスもスタッフも濃いキャラが揃った動物園みたいな職場で、はちゃめちゃハプニングもあるのだが、不思議なことに彼は不眠の続きすぎのせいか、肩をごりっと鳴らすと時が止められるようになってる事に気付く、、
みたいな、とにかくいろんな要素を鍋にぶち込んできれい目のエロと、ベタベタなラブストーリーと、主人公の根暗いとこと、なんか底抜けなギャグを上からぶわーっと振りかけたような映画なのだが、監督が写真家だからか、無茶苦茶に画面がいい。もう全てのカットがきれいで洒落てて、分かりやすく悪く言うと、フレンチのコース並みに美しく盛り付けられたコンビニ飯、みたいな感じの映画なのだ。いや、そこまで悪く言う必要はない。定食屋の昼の日替わりみたいな感じだ。確かNetfilixかアマプラで公開されている気がする、暇なら見て欲しいが、カップルで見るべき映画では無いので男友達とか、ボッチ視聴をお勧めする。

 主人公のベンは、時を止めた世界で、絵を描きまくる。もっと他にやる事あってもいいんじゃないかってくらい、とにかく絵を描く。こいつには邪心なんてないのか、いや邪心に塗れてるからそんな感じなのかその辺は映画を見て欲しいのだが、序盤に夕焼けの原っぱをバックに、スーパースローで元カノが髪を靡かせながら振り向くカットがある。それがもう、無茶苦茶綺麗なのだ。全体を通してとにかく綺麗だが、あそこだけ別格感がある。

さて、ショーン・エリスは残念ながら、「フローズン・タイム」を撮った後、数本ホラー映画やドキュメンタリー系を撮っただけでまた元職に戻ったようだ。もったいない気もするが、順当だな、とも思う。実は私も、彼の他の作品は見ていないので、この機会に見てみようか。世界には映画も本も、音楽も絵も写真も、溢れている。誰もが写真家にだって、執筆者にだって、イラストレーターにだってなれる時代だ。それでも、やっぱりあのシーンは良かったなあなんて今でも思い出せる映画は、いつまでも大事にしていたい。

STORM

1 暴風雨。あらし。「メーストーム」

2 学生寮などで、寮生が集団で、夜分、騒々しく気勢をあげて楽しむこと。多く旧制高校の生徒が行ったものをさしていう。

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