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20230127 週刊雑誌を毎日持ってこられたらそれはもうある意味日刊雑誌なのでは無いだろうか、という取り留めのない話
私のアルバイト先には、常連のおばあちゃんが居る。御歳80歳は超えているのではないかというような(もし超えていなかったら、私の寿命を削ってでも、その方の寿命をさらに延ばす死神との契約を交わす予定。尚、実年齢を知る術は今のところないので実質私の完全勝利である。)近くの博物館職員のお方(これも多分)である。
平日土日祝関わらず、基本的に早昼、昼、昼過ぎの3回、または2回いらっしゃって、毎回ほぼ同じメニューを頼んでいく。1度目はイギリスパンとブレンドコーヒー、2度目は季節限定の紅茶、3度目はアイスクリームといった具合である。それこそ、判で押したように、いつも同じである。
ここまでは普通の常連さんである。直ぐにレジキーを押せる以外は、特に印象は残らない。他の常連さんと変わらない。あと覚えている常連さんと言えば、以下のような。毎朝、旦那さんと奥さんが別々のタイミングで来て、先に来た方が2人分の会計を済ませる夫婦。なぜ同時に来ないのか、興味深い。ゆで卵とトーストを2つ頼んでいくスキンヘッドのおじさん。このメニューはモーニング中心なので、夕方に頼んでいくこの方はよく覚えている。毎ランチにくる、仏頂面で死ぬほどせっかちなおじさん職員。この前、2階席で珍しくお客さんとにこやかに話していて、「(この人も笑えるのか)」と思うほどには、普段の愛想が悪い。など。
ではなぜ、先述の常連さんと異なり、推定80歳のおばあちゃんが特別気になるのか。それは、毎回大量の差し入れを持ってきてくださるからである。それはセブンのおにぎりや菓子パンであったり、京樽の巻き寿司だったり、はたまた北海道のアンテナショップで買ってきたセイコーマートのカップ麺だったりする。あるいは、彼女が「食べきれなかった」などと称して持ってきてくれる(尚、この点に関しては『OLのお姉さんが、隣に住む男子大学生に、純度100%の邪な気持ちで「肉じゃが作りすぎちゃったんですテヘッ」ともってくるくらい』の温度感なので、恐らく我々に渡す用だろうと類推している。)個包装のチョコレート、カラムーチョ、熱中症対策飴など、多岐にわたる。仮に『持ってきたものから持ってきた人を当てな!クイズ』がこの世にあったとしたら、うちのバイター以外は絶対に正解ができないだろう。まあ、そんなクイズはないのだけれど。
実はこの差し入れ、うちのバイターの一部としてはかなり助かるのである。ランチ終わりまで入っている主婦の方は、必要な分だけ私にお恵みくださり、その他をいくつか適当に持って帰っている。夕飯の足しにしているのか。またフリーターのお兄さん曰く、「一食分、下手したら二食分の食費が浮くんだよね!」と。確かに、主生計がうちのバイトであるなら少しでも食費は浮かせた方が良いかもしれない。彼の収入源についてはあまり詳しくは知らないけど。さらに、斯く言う私も、助かっている人間の1人である。
大学の部活動がひと段落してから、基本的に火曜日と金曜日については、昼にカフェバイト、はしごして夜に塾バイトをしている。昼シフトに入っているということは、勤務中なので当然、お昼を食べる時間が無い。夜までバイトはある。その終わりまで、ご飯無しは辛い。が、食費はあまりかけたくない。そこで、差し入れのおにぎりや菓子パン、巻き寿司である。昼バイトが終わって20分でバ先を出なくてはならないのだが、10分もあればいただいたものをいくつかつまめば、小腹は満たされる。なんなら、他者を顧みない捨て身の格好であれば、満腹になることさえ出来る。甘いものがその日の差し入れにあれば、デザートまで食べられる。バイト先のバックルームが、最高のフードコートとなるわけだ。
さらに、副次的な効果として、バイトの電車移動1時間の間に寝ることも出来る。私の胃が頑張って消化をしている間に私本体はぐっすりなわけである。他人の金で食べる焼肉が美味しいのと同じく、他者が苦労し自分が楽をすることの愉悦は何物にも変え難い、とまでは思わないが、夜の活力(えっちなのじゃないよ!)になっていることは間違いがない。(すぐふざけるのは良くないとはわかっている。)
ところで、私はこのおばあちゃんのことが苦手である。それは、彼女が差し入れを持ってくる度に毎回それなりの対応を、特になんとも思っていなくても、しなくてはならないからである。
彼女は毎回、「ごめんなさいねぇ」「もうここに来て差し入れを持ってくることだけが生き甲斐なの」「若い人にたくさん食べてもらって嬉しいのよ」と言って差し入れをくれる。勿論嬉しいが、おばあちゃんも「我々が喜ぶことを当然」として、これを期待して持ってきてくれるわけである。だが、毎日貰っていたらさすがに反応は鈍くなる。反応のリアクション、言葉のレパートリーもなくなる。コミュ障の私には、彼女を喜ばせる言葉がわからない。「今日は寒いですね」と世間話を振ってみたり、「自分チョコ好きなんですよ」と言ってみたり。だが、冬の間なんて大抵毎日寒くて晴れだから、そんなのは世間話足りえないだろう。また、毎回持ってきてくれるものを「好きなもの」としていたら、チョコレートとカラムーチョと熱中症対策飴が好きなよく分からない人になるし、なんだか抵抗がある。そんなこんなで私は彼女のことが苦手である。
もっと言えば私は彼女のことを何も知らない。どこに住んでいるのか。職員証を持ってはいるが、こんなに仕事を抜けられるのはなぜなのか。相当ポケポケしている(言葉を濁しているので察してください)のに仕事はできるのか。毎回レジ袋パンパンに買ってきてお金は大丈夫なのか。そんなに買って家族は何も言わないのか。そもそも、家族はいるのか。はたまた、何歳なのか。
何も知らないものが怖いのは、当然である。
ただ、この間、一つ彼女の心持ちが分かる出来事があった。ここ最近は週刊雑誌を持ってくるのがマイブームらしい。AERA、週刊文春、週間新潮など、さまざま持ってくる。私は(週刊雑誌を毎日持ってきたら、読み手の我々としたら実質日刊雑誌なのではないか?)と思ったのだけども、刷られているのは週に1度なわけだから日刊になるはずもなかった。自分のアホさかげんに腹立ちぬ。
しかし、週刊雑誌を買ってはくるが、おばあちゃんは読んでいる様子は無い。見たところ、カフェの店内では書き物をしているし、まさかこんな寒い時期に外で読んでいることもないだろう。なぜこんなに毎日買ってくるのか、と不思議に思っていた。(差し入れとしてくださるのはありがたいけど、本は少なくとも勤務時間中には読む時間は無いし、食べられないのにな、ご飯の方が良いのにな)と、正直思っていた。
ある日もまた、彼女は雑誌を持ってきた。週刊文春。
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私にいつものとおりコンビニの袋を手渡しつつ、可愛いお花が表紙一面に書かれているそれを私に向けて、控えめにこういった。
「表紙が可愛いと、つい買っちゃうのよね」と。
そうか、この人も我々への差し入れとして、我々が喜ぶことを期待して買うこと以外に、自分のためにだけに買っていることもあるんだ。初めて彼女の心の縁に触れられた気がして、嬉しくて、「わかります!表紙が可愛いと気になっちゃいますよね!」と伝えた。
が、私の言葉への返答はなかった。無視された格好である。理由はわからない。多分聞こえてなかったんだと思う。…聞こえてなかっただけなんだよね?そうだよね?
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