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CP+2021オンライン特別企画「シグバラ」リポート②プレミアムコンパクトプライム「Iシリーズ」誕生秘話

今日の担当|シグバラ担当K

「シグバラ」プログラム

●第1部
2/24に発表したばかりの新製品、28-70mm F2.8 DG DN | Contemporaryの紹介
●第2部 
2020年1月発売のプレミアムコンパクトプライム「Iシリーズ」開発秘話
●第3部 ※3/10公開予定
SIGMAの中の人が答える「#知りたいSIGMA」質問タイム

第2部: 2020年1月発売のプレミアムコンパクトプライム「Iシリーズ」誕生秘話


MC:昨年12月に発表・発売したContemporaryラインのプレミアムコンパクトプライム「Iシリーズ」。クールなイメージを打ち出したIシリーズも、その誕生の裏には職人魂がぶつかりあう熱いストーリーがありました。第2部では「Iシリーズ波乱万丈」と題して、開発部門でIシリーズの機構設計のベースを担当した開発第2部の関さんと門倉さんとともに振り返ります。

第1部はこちら▼

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第2部はMCの2人(左写真)に加え、開発第2部のメカ設計エンジニア(右写真)である関(左)と門倉(右)が生出演。
フリップをつかって、「波乱万丈」の歴史を振り返りながら熱い職人魂を語り尽くしました。


2018年「方針一新!」から生まれた45mm F2.8 DG DN | Contemporary

関:SIGMAのレンズ開発では通常、光学設計がひとつの山場で、ここが決まるとあとはみんなでかたちにしていこう!ということで、本社と工場が一緒になってハードウェアを作りこんでいくことが多いんですね。でもIシリーズの前身である45mm F2.8 DG DN | Contemporaryの場合はちょっと違っていて。当初はDC DNのような高性能でコンパクトな方向を想定していたんですが、光学設計が決まったあとに社長の「とにかく格好良い、今までにないものをつくろう」という音頭で急展開することになりました。

関:Lマウントレンズの初号機でもあり、ちょうど開発が進んでいたSIGMA fpに合うミラーレス用レンズの新しい方向性を模索している時期でもあったので、そういう観点で考えた時に、定石通りではないが、新しい価値を提供できるものが求められているのではと感じましたね。それまではSIGMAといえばArt、というイメージができ上っていて、Contemporaryはコンパクトだけどなんとなく格下の普及版という印象も持たれがちでした。が、そうではなくてConteponraryの、ひいてはSIGMAの新しい魅力を表せないかと自分たちなりに考えて生まれたのが、45mm F2.8 DG DN | Contemporaryでした。

MC:当初の想定からはまったく違うものになったわけですが、鏡筒もフードも全金属製の、精緻な仕上がりと品位ある質感を兼ね備えている、fpにもぴったりの持っているだけで嬉しくなるような佇まいをもったIシリーズの原型として、「新しい価値基準の模索と提案」のベースになったと思いますね。フルメタルでプロらしい無骨なまでの格好良さがあるSIGMAのシネレンズにも近い、従来のContemporaryとは違う印象を与えるレンズだといえるんでじゃないでしょうか。

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門倉:とにかくLマウントとしても、フルサイズミラーレス専用レンズとしても初号機のひとつだったので、全てにおいて苦労したけれど、なんといっても一番難しかったのは感触を作りこむところですね。外観の格好よさに負けないくらい品位のある感触が必要だと思いました。そこで目安としてイメージしたのが昔のマニュアルレンズみたいな感触です。単に懐古的にするのではなく、自分の中にあるマニュアルレンズの質感のどこが魅力的なのかを分析し、ある種のファンタジーではあるのですが「理想の感触」を作り込んでいきました。

門倉:リングの操作感としては、動き出しはすごく軽くなめらかに。操作に対してわずかに動きがついてくるような「ディレイ」感があって、目当ての位置ではほどよくブレーキがかかってぴったり止まる。グリスを調整して実現したほどよいトルク、ねっとりしっとりと吸いつくような操作感は特にこだわったところです。あと、絞りリングのクリック音も徹底的にこだわっています。音量も音質も徹底的にテストしました。音が大きいと品位を損ねるし、小さすぎると物足りない。中間のちょうどいいところを追い込んで仕上げています。

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2019年「これ、シリーズにしよう」から生まれたIシリーズ

MC:こだわりの品質で完成した45mm F2.8 DG DN | Contemporaryは、同年に発表したSIGMA fpとの相性も抜群。fpのキットレンズとしても好評をいただきました。そんななか、「これ、シリーズにしよう」という声が上がったそうですね(もちろん社長から)。当初はシリーズ化は想定してなかったと思うのですが。

関:そうですね。思った以上に個性的だし、今後の新しい方向性をつくるうえでも「何か呼び名があったほうがいいんじゃないか」という話になりました。正直言うと、最初からシリーズ化を目論んでつくったレンズではなかったので、後からシリーズ化することで印象が散漫になっていかないかという心配はありました。でも、初号機のアイデンティティである高いビルドクオリティ、品位ある感触、全金属製といった要素はそのままに展開されていったので、メカチームとしては素直に嬉しかったですね。

門倉:シリーズ化にあたって、3本のうちのひとつ、35mm F2は鏡筒が長くなるので、初号機のコンセプトと印象をどれだけ再現できるかに気を使いました。フォーカスリングが長くなって持ちやすくなった分、45mmの時の密度感が損なわれないようにしたいなと。45mmにはなかったカバーリング採用も、金属を贅沢に使ってとてもよい感じに仕上がっていると思います。オリジナリティもあって個人的にも思入れの強い部分ですね。あと、35mmでどうしてもやりたかったのが、フォーカスの切り替えスイッチ(MF/AF)の最適化ですね。世の中にあふれている機構だけれど音の感じに納得いかなかったので、何度も話し合って今の仕様に変えました。

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2020年 「やっぱり"あれ"がほしいよね」の金属キャップ

MC:ようやくレンズプロジェクトのゴールが見えてきて、あとは量産と発売を待つだけというタイミングで、社長の「金属キャップ、必要だよね...」が出ましたよね。びっくりしましたよね、発売前のこの段階で⁉って驚きました。ふつうのメーカーだったら、いやふつうの生産プロセスでもありえない話ではありますね(笑)

関:全金属製のレンズの仕上がりが良くなるほどいつもの付属品のプラスチックキャップとの差が目立ってしまって、画竜点睛を欠く状態になってしまうということだと思います。そうかといって、ただ従来のキャップを金属製にしただけではさらに違和感が出るのでどうしたものか...と社長も苦悩しているみたいでした。それで、メカ設計チームで集まって「金属ありき」で自主的にスタディしてみたんです。マグネット式ならフラットでスマートな外観にできそうだね、いいねやろう、という感じで。マグネット式キャップを実現するには、レンズ前面に金属板を仕込む必要があったので、35mmだけでなく、65mmと24mmも量産直前で急遽設計変更することに相成りました

MC:ぎりぎりの仕様変更というと無茶な印象もあるかもしれませんが、よりよいものを生み出して喜んでいただくために必要であれば、「もう決まっちゃったことだし...」と諦めるのではなく、変更をいとわずやってみる。というSIGMAの基本姿勢が凝縮されたエピソードといえますね。

ちなみに、従来通りのプラスチックキャップのほうが実用面での機能性は高いということで、SIGMAでは、DPのデュアルバッテリ同梱以来伝統となっている「困ったら2つ入れる」というお家芸をここでも踏襲して(笑)、金属キャップを標準仕様にしつつ、プラスチックキャップも同梱することに決まったのでしたね。

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Iシリーズのアイデンティティ、マグネット式金属キャップ。35mm F2 DG DN | Contemporary 安藤剛さんのインプレッションより。


2020年 「いやまてよ、"あれ"もいるよね」のキャップホルダー!

MC:健闘の甲斐あって、マグネット式金属キャップは無事実現したものの、こんどは「キャップを外した後そのキャップはどうするんだ」問題が立ち上がりましたよね。

関:Iシリーズの完成度→金属キャップ→マグネット式→外したキャップの保管→専用ホルダーが必要!という流れでしたね。ここまで追求してきたコンセプトを中途半端なかたちで終わらせないために、マグネット式に対応した専用キャップホルダーも開発してしまいました。すでに原案としては金属キャップ考案時にあったのですが、さすがに異例づくめが過ぎるかな...という躊躇もあって懐で温めていました。でも、ここまで来たらとことんやるべき!ということで、とにかく発売に間に合わせることだけを念頭にベストを尽くして試作を重ね、実現しました。

門倉:ちなみに、キャップホルダーはものすごくしっかり吸着するぶん、ホルダーからキャップを外すときにちょっとしたコツが要ります。ドーナツ状の吸着版のまんなかを指で押すと、簡単にポロっとはずれますので脱着感もぜひ試してみてほしいです。

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35mm F2 DG DN | Contemporary 安藤剛さんのインプレッションより。


2020年 最後の最後に「面白いのつくろうよ」から生まれたムービー

MC:さて、いよいよ発売にこぎつける段階になって、今度は私たち広報チームのターンです。社長の口から飛び出したのが「品保でやった金属キャップのテストでさ、ムービー作ろうよ。絶対面白いから!」というアイデアでした。それはもうびっくりしましたよね(笑)「え? 今から? 面白いムービーって?」ってなりますよね。だってもう1か月前ですからね。でも社長のことなので映像化すべしという確信があったんでしょうね。

関:それはですね(笑)、開発会議でマグネットキャップの耐久試験について社長が会津工場の品質保証部の鈴木部長(映像でも主演)に「どんなテストをしてるんですか?」って質問したんですよ。それに対する鈴木部長の報告内容は、そのまんまムービーで再現されています。小走り、早歩き、ジャンプ...シニアの工場スタッフも含めて工場中で試した通り、掛け値なしのノンフィクションです。あれを大真面目に報告する鈴木部長に、社長が冗談で「せっかくだから磐梯山でも試したらいいじゃないですか」と振ったところ、翌週鈴木部長が「週末に軽く登ってきました! 全然OKでした!!」と笑顔で報告したらしく、映像化が確定したんでしょうね。真剣に、大真面目にやるからこその面白さですよね。

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ランナーでもある健脚の品保部長・鈴木元一が大真面目にテストを解説する未公開版を本邦初公開。
通常バージョンはこちら https://youtu.be/HT7JABjM8JE


予定を大幅にオーバーしてしまいましたが、本当に熱くて濃い開発エピソードをたくさん紹介してくれました。「波乱万丈」ということで、プロジェクトの歩みをちょっと面白おかしく脚色はしましたが、実際にはもっと真剣な職人魂のぶつかりあいもあったと思います。
「品位」がIシリーズの重要な要素ではあるのですが、その実現のためには、金属外装や感触へのこだわりはもちろん、レンズ自体が一般的な小型軽量レンズと違って複雑で剛性のある構造なんですよ、ということもぜひ付け加えさせていただきたいと思います。やろうと思えばいくらでもコンパクトで軽量にはできるけれど、あえて文字通りに実の詰まった、人間が掌で感じ取れる豊かな情報量をもった「本当の質感」を目指したということをお伝えしたいと思います。
Iシリーズは、敢えてクールなコミュニケーションをしていますが、その裏では絶対妥協しない熱いスピリットで作られているんだよということで、そんな風に見て頂けたら幸いです。

☞第3部(3/5公開予定)へつづく


商品企画マネージャーが語るSIGMA fp、Iシリーズが誕生した背景|畳家久志


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