考える時間が欲しい/与えたい

 知識重視の「覚える」教育活動は、なにも理科や社会の分野を理解したり、英語の文法を知るだけでは終わらない。「覚える」という作業を通して、ものごとの規則性を見出し、整理し、自分が解釈しやすいように言葉を返還する力が養われる。論理的にものごとを考える回路の発達につなげられる。そしてその回路を使うことで、日常の中にある規則性を見出したり、仕事をする上で効率の良い働き方を探求しようとしたり、社会のルールの重要性を理解したりすることができると思う。つまり教育の「知識・理解」の部分は、「考える力」を増幅させることにも役立っているといえる。
 しかしながら、これまでの学校教育は、あまりにも知識・理解の分野を重視しすぎて、生徒達に「その知識をどう使うのか?」ということを考えさせる時間を与えていないようにも思う。教え込みだけで、生徒が何かを考える隙を与えさせない。(生徒が何か余計なことを考えず言われた通り動く方が、それを統べる者としては都合がよい時もある。)
 知識重視で生徒を評価していくと、落ちこぼれが生まれる。テストの点数が悪いから、授業中の質問に答えられないから、という理由で教師が生徒を叱責すると、たちまち彼らの学ぶ姿勢を削いでしまうことになる。とてもよくない状況は、「教え込みだけの授業」、「生徒の考えを評価しないか、否定すること」、「テスト結果で優劣をつけること」の3つが重なった時だと思う。生徒にとっては何も面白くない。言われた通りノートをとって、自分なりの努力をしても、努力が点数に現れなければ教師に否定される。しかも自分の考えを生かす場所が無い。そんなひどいことってないだろう。
 HRや生徒会活動や部活などで、勉強のできなささをフォローすることはできるが、それも何か違う気がする。特別活動の中で生徒が自分から動く機会を与え、生徒がその場では満足したとしても、次の日にはまた授業がやってくる。特別活動は「お祭り」のようなもので、一生涯学ぶ姿勢や力を養う主流ではない。毎日ある授業の中で、考える機会、話し合う機会がたくさんあり、生徒の考えが評価されるような、そんな学校であったほうが、楽しいと思う。

 「思考・判断・表現」という考え方、表現の仕方を育てる授業は、いかにあれば良いのか?単純に考えてみるが、①考えの元となる知識を教え込む教育活動があること ②生徒の「思考・判断・表現」が点数化され、学校や授業の中で評価されていること ③「思考・判断・表現」を評価するための具体的な教育活動と、その時間が確保されていること。 の3つがポイントであると思う。

「①考えの元となる知識を教え込む教育活動が主にあること」はどんな人でも、どんな組織でもやっている。もちろん学校でも、これが主流で、ここから全てが始まる。

「②生徒の「思考・判断・表現」が点数化され、学校や授業の中で評価されていること」
 高校の授業では、あまりやられてないのではないかと思う。少なくとも「思考・判断・表現」を点数化するのが当たり前、とはなっていない。悪く言うと、大体の人が、なんとなくでこの部分を評価していると思う。良い考えを持っているな、独特の考えだな、と授業の中で感心することはあっても、点数化するまでには至っていない。
 教師は「毎日の授業の中で、生徒の発言を促すことで考える力をつける機会を与えています。また、生徒の個性を知っているので、生徒一人ひとりの個性や表現の仕方を伸ばす声掛けを常日頃から行っています。「思考・判断・表現」は生徒の発言を観察することで評価し、声掛けによって伸ばしています。」というようなスタンスを持っているのかもしれない。気持ちや考えは、点数ではとても推し量れないものであり、毎日の生徒との関わりで伸ばしていくもの、というような感じだろうか。

「③「思考・判断・表現」を評価するための具体的な教育活動と、その時間が確保されていること」
 ひとつの単元につき少なくとも1回はこれを評価する機会を持てたらよい。また、評価しないにしても、毎回の授業で生徒が何かを表現する機会を設けて、「表現することが当たり前」の授業づくりをする必要がある。


 産業教育を教える高校では、体を動かす実習や職業訓練、企業見学など、職に通じる教育活動がたくさんあります。(私はそのような高校で勤務しています。)高校卒業後に就職する生徒が大半です。生徒には高校3年間のうちに自分で考え、動く主体性、そして社会で自分の力を発揮するために必要なコミュニケーション力を付けてほしいと思っています。これはまさしく教育活動の「思考・判断・表現」にあたる部分です。
 しかし上記の②と③がしっかり確立されていない、時間があるのです。まだまだこれから、やらなければいけないことが、たくさんあるように思うのです。最近その部分にようやく気持ちが向くようになってきました。おしまい。

#思考・判断・表現  #産業教育 #人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか


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