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バイトを辞めた。志摩スペイン村に行った——成人男性オタクによる現地レポ【前編】

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 快晴、気温27℃、心地よい涼風。

 絵の具で塗り潰したような淀みない青空の下に、異国情緒溢れるカラフルな建物が立ち並んでいる。石畳が陽光を照り返し、広場の中央にある威厳に満ちた騎士の像が鈍い輝きを放つ。

 あまりにまぶしい空間だった。スペインは俗に太陽と情熱の国と呼ばれる。また、16世紀後半、中南米からアフリカに至るまで版図を広げた様は、歴史書では太陽の沈まぬ国と形容される。太陽——なるほど、確かにその趣を感じられる、ぎらぎらと輝く太陽に祝福されているかのような景色だ。

 しかし、ふと違和感を覚えた。


(なんかめっちゃ静かじゃね……?🤔)


 もしやと思い、周囲を見回し、後ろを振り返る。

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 誰もいなかった。周囲にまったく人影がないのだ。美しい建築物、ビビットな色彩に囲まれた広々とした空間、微かに聞こえる陽気なBGM。それらと対をなすように、周囲の静けさが恐ろしいほど際立っていた。

 「マジで誰もいねえ……」その事実を確かめるように声を出す。平日の開園直後、正面入り口から少し離れた広場とはいえ、ここまで人がいないものか。やっぱりあの噂は本当だったんだ。言語化しがたい不思議な高揚感に包まれた。

 そう、ここは志摩スペイン村パルケエスパーニャのマヨール広場。先月、誰もいないテーマパークとしてTwitterで話題になった場所である。

(①、②はちょっと長めのオタクの自分語りがあります。現地の情報だけ知りたい人は③から読んでね)


①バイトを辞めた。志摩スペイン村に出会った

 ——ってことで志摩スペイン村パルケエスパーニャに行ってきました。理由はひとつ!! 人生に絶望していたからです!!!!!! わーい!!!! たーのしー!!!!

 ……先々月、「来月で辞めます」とバイト先の店長に伝えた。何かとお世話になった職場なので申し訳ない気持ちはあったが、休日でもひっきりなしに業務連絡・お気持ち表明がLINEで垂れ流れてくるのはさすがに耐えかねた。就寝直前ですら、いつスマホが鳴るものかと怯えなくてはならず、一向に気が休まらなかった。

 職歴や資格を活かせそうな次の仕事はすぐに見つかったが、将来への不安は尽きなかった。新社会人として第一志望のIT企業でプログラマーになれたが、心身不調に陥って退職。しばらく無職として過ごした後、今はしがないフリーターだ。

 年度始めで希望に満ち溢れた新社会人達が飛び立つ一方、私はバイトを辞める。このまま仕事を転々として落ちぶれていくのだろうか。何を糧に生きていけばいいのか。そんな考えを抱くことすら甘えなのだろうか。自己嫌悪が募る日々が続き、心が荒んでいた。

 そんな時だ。あの動画に出会ったのは。

 にじさんじ所属VTuber・周央サンゴ が志摩スペイン村について熱く語る切り抜き動画(および元配信)。「人と交通の便がまったくない」「焼きたてのチュロスが世界一うまい!」など、その内容と熱い語りっぷりがまたたく間に話題を呼び、Twitterトレンド入り。公式Twitterのフォロワー数も爆増した。

この記事を書いてる時点(2022/6/5現在)で5万人なので、約2週間ほどでフォロワーが約3万人増えている。フォローキャンペーンがあったとはいえ、すげえ勢いだ……

 私はこの動画を、声を出して笑いながら見ていた。ぴぴさんの周央サンゴ 切り抜き動画には毎度ゲラゲラ笑わされてしまうンゴねえ……しかし、所詮はネットで観測できる有象無象のコンテンツのひとつ。「へえ、そんなところもあるんだなあ」という程度の認識で終わる、はずだった。

 忘れられなかった。勝手な話ではあるが、何となく自分を重ねていた。誰もいないテーマパークでゲストを明るく迎えるキャスト達。そして、家族に心配はかけまいと、明るく振る舞っている自分。観光名所の情報は求めずとも広告で流れてくるが、こんなにも共感を覚えた場所は初めてだった。

 行くしかない。今行かなきゃ絶対に後悔する。そう思った。単なる物珍しさだけではない、自分のアイデンティティとなるものを求めるように、この地に惹かれていた。……この文章読み返して思ったんすけど、そんな意気込みで臨んでいたのか当時の私。もうちょっと気ぃ抜けよ。テーマパークだぞ。

 ともかく、数日ほど考えてみたが、決意は変わらなかったので行くことにした。人生初めての一人旅。入念に準備を整えて、旅行計画を何度も確認。約2週間後、名古屋駅に降り立った。


②近鉄名古屋駅〜鵜方駅〜志摩スペイン村間の風景

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 名古屋駅から近鉄特急に乗り、志摩スペイン村の最寄り駅である鵜方駅へ向かう。車窓から眺める風景は、名古屋のビル群から、伊勢志摩のどかな田園風景に変わっていく。

 伊勢神宮外宮の最寄り駅である宇治山田駅を過ぎると、乗客がぱったり途絶えた。特急6号車の乗客はわずか3名。田園風景はいつしか、鬱蒼とした森に様変わりしていた。夜の帳が降りていたこともあり、不気味さすら感じる光景だった。

 「ね、ねえ……本当にこんな所にテーマパークがあるの? 私騙されてない……?」疑念を覚えると同時に、ふつふつと高揚感が湧き上がる。未開のジャングルを抜けた先に、光輝く地上の楽園がある、そんな光景が思い浮かんだからだ。

 19時15分頃。鵜方駅のホームに降り立つ。さっそく志摩スペイン村のポスターに出迎えられた——

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「来て!(ド直球)」

 ズルい。こんなん笑うしかないだろ。

 鵜方駅近くのビジネルホテルにチェックイン。部屋に入るなり、羽虫に出迎えられた。隙間風の音やべえ。安宿である以上覚悟はしていたが、想像以上に古びたホテルだ。でもなんか良いなあ。身分相応って感じで落ち着くわ。

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 これは余談ですが、部屋で何をしていたかっていうと、ホテルに置かれていたジョジョ6部を読みながら、ファミマで買った砂肝と缶ビールに舌鼓を打ち、フリーWi-Fiで添い寝同人音声作品を聞きながら寝落ちしました。寂しかったので推しポケモン(イエッサン)と一緒です。んだよこのカスみてえな旅行は。人間こうなっちまったらおしまいだろ……でも妙に情感あって楽しかったです。またやりたいなこういう一人旅。

 閑話休題。翌朝、チェックアウトを済ませた後、志摩スペイン村ゆき始発のバスに乗るために鵜方駅へ。

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 鵜方駅バス停のベンチから撮影した写真がこちら。見渡す限り閑静な住宅街が広がっていて、目立つ建物はファミマくらい。隣接している飲食店街は何枚もシャッターが降りている。な、なあ、本当にこの近くにテーマパークがあるのか……?

 バス停の時刻表を確かめる。行先志摩スペイン村、9時25分発。間違いない。そわそわしながら待っていると、

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「おお……!! 来た……!!」

 一番乗りで乗車。私を含めて10名ほどが乗った。……あれ? ちゃんと人いるじゃん。聞いてた話と違うな。やっぱあれだけ話題になったから観客増えたのかな。そんなことを考えていると、


パッパ~パパパ~♪

ジャンジャカジャカジャカ!
ジャンジャカジャカジャカ!
ジャンジャカジャカジャカ!
ジャジャジャッ!

/エスパーニャ〜♪ 太陽と歌を求めて〜♪\

/三重交通バスにご乗車いただきありがとうございます。このバスは——\


 「あ!! これ!! 周央サンゴで予習したところだ!!」出発とほぼ同時に始まる車内アナウンスでテンション爆上がり。テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ〜

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 でも相変わらず車窓から見えるのは森と田畑だな……ん?

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デンッ!

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デデンッ!!

 「ふおおお……!!」夢じゃない。待ち焦がれていた景色が確かに目の前にある。まず見えたのは巨大な純白の建物、ホテル志摩スペイン村。続いて姿を現したのは本命のテーマパーク、志摩スペイン村パルケエスパーニャだ。複雑に湾曲した巨大なレールの上では、コースターがゆっくりと上昇している。名物ジェットコースター「ピレネー」だ。

 ……あ! ピレネーに乗ってる人(最前列に一人しか乗ってない)がこっちに向かって手振ってる! 見えるように全力で手を振り返した。待ってろよ! 私もすぐそっちに——

 瞬間、オタクに電流走る。パルケエスパーニャに近づくと、真っ先に目に飛び込むのがピレネー……なるほど、これはまさに、フランスから見たスペインそのものではないか。

 ピレネー山脈は全長約430km。南フランスと、スペインがあるイベリア半島を隔てるように位置している。かの有名な皇帝ナポレオン1世は「ピレネーの向こうはアフリカ」という言葉を残したとされる。歴史上、スペインは長らくイスラム文化圏にあった。その境界を象徴するかのように、ピレネー山脈がそびえ立っているのである。

P_20220606_123052のコピー

 図解するとこうだ。ピレネー山脈以北のヨーロッパから見たスペインは、まさに別世界のような地だったのであろう。そして、バスの車窓から見たパルケスパーニャもまた、非日常の世界である。

 感服した。なんと見事な原作再現だろうか。ウマ娘の細かい史実再現を知った時のような感覚だ。まあただの深読みかもしれませんが、オタクってのは勝手に文脈を見つけ出して、勝手に盛り上がっちゃう生き物なので……志摩スペイン村、"理解"ってんじゃん……

 ついでに言えば、私の好きな思想家ジョルジュ・バタイユは、スペインに留学した際、その文化に非西欧性と"死"が根付いていることを悟り、驚いたのだという。

[……]日常の理性的な生活から死の擬似体験の方へ超出して、最高度の興奮と快感に浸るというのは、恍惚体験の極まった形態だといってよい。バタイユを驚かせたのは、スペインではこの過剰な恍惚体験が民衆規模で行われていること、他の西欧諸国と違って一つの文化を形成しているということだった。
「バタイユ入門」酒井健 p.67

 この体験が「無神学大全」「エロティシズム」などを形成する一つになった。彼がスペインで自らの思想を深化させたように、私も志摩スペイン村で何かを得ようとしている。好きな思想家の人生を追体験できるなんて。ありがとう志摩スペイン村……!

 本当にこんな場所にテーマパークがあるのかというドキドキ、実際に目にした時の高揚感と、私的な感動。入園前からこんなにドラマに満ち溢れているなんて。ドン・キホーテとサンチョ・パンサの像に見守られながら、ウッキウキで入園した。


③人はいる。いない"瞬間"がある

 ——で、冒頭に戻ります。コインロッカーに荷物を預けて、エスパーニャ通りをまっすぐ抜けて、マヨール広場に辿り着く。「ほーん、立派な像だなあ」と思ってしばらく見上げた後、ふと周囲を見渡すと誰もいませんでした。

 こういう、ふとした瞬間に「あれっ今ここにいるの私だけじゃね……?」と気づくことが何度かありました。何度か、です。たとえば——

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 「アルカサルの戦い"アデランテ"」というシューティングゲーム。思わせぶりな待機列がありますが待機人数0人。長い通路を抜けると、キャストのお姉さんにすぐ案内され、スッと乗ることができました。フィエスタ広場には数々のアトラクションがありますが、テーマパーク特有の長蛇の列は一切ありません。

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 園内最奥にあるコロンブス広場。コロシアムより奥は目立ったアトラクションやイベントが無いので、基本的に人がぽつぽついる程度です。私のように絶叫アトラクションが苦手で、園内をぶらぶらと歩き回りたい人にとってはむしろ好環境。景色がいいんですよねー。城があり、船があり、自然があり、カラフルな花壇がある。散歩するのがめっちゃ気持ちいい。人も映り込まないのでフォトスポットとしても最適。

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 フィエスタ広場中央、キャラクターショップ・ファンタシアの脇にあるゲームセンター。絶叫アトラクションの悲鳴が聞こえる中、建物の影に隠れるように、ひっそりとこの空間があります。侘び寂びって感じだ……あ、でもよく見たら、死角になる場所(トーマスの右隣)にある太鼓の達人13で男性二人組が遊んでるな。わかるよ。私も昔はドンだーだった。遊園地で見かけるとなぜか猛烈にバチを振るいたくなるよな。修学旅行の時にやろうとして先生に怒られたけど……

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園内パンフレットに赤線を引いてみました。ここから上は基本的に人が少ないです。……ほぼ半分では?

 誤解のないように言うと、パルケエスパーニャ、ちゃんと人はいるんですよね。アトラクションがあるフィエスタ広場は賑わっているし、どこでもぽつぽつと人がいる。この日は団体客が訪れていました。ただ、園内を歩き回っていると突然、周囲に誰もいない瞬間が訪れます。

 これは結構不思議な体験でした。園内の風景や展示物を眺めることに夢中になっていると、突然、それを見ているのが自分だけであることに気づかされる。その時のひっそりとした情緒、何者にも邪魔されず自由に過ごし、美しい景色を味わえる至福感。ベンチに座ってぼけーっと園内を見渡すだけでも心が満たされた。空間に浸る、と言えばいいのだろうか。元よりインドア派で、読書が好きな私にとっては、こうしてゆったりと過ごせるのは嬉しかった。

 ネットで見た情報は本当だったんだ——マヨール広場でそう思うと同時に、この場所に不思議な魅力を感じ始めていた。


④ダルシネアの秘密の花園——オタク心にぶっ刺さるミュージカル

 ベンチに座ってパンフレットを確認。10時20分から「キャラクターミュージカル パティオ デル カント〜ダルシネアの秘密の花園〜」が始まる。さっそく会場であるコロシアムに向かった。

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写真はミュージカル開始約20分前に撮影。ショーが始まる頃には席が約3〜4割埋まった。3分前でもそこそこ良い席を確保できると思います。

 コロシアムはほぼ園内中央に位置している。柱や壁はレンガ造りのような見た目で、座席も石作りっぽい見た目だ。またしても感銘を受けた。変に映(ば)えを狙って商業的すぎるデザインにせず、古代ローマを思わせる無骨な広場に留めているのがとても良い。こういうのでいいんだよ。こういうので。

 で、肝心のミュージカルなんですが、これがオタク心にぶっ刺さるめーーーーーっちゃ良い内容だった。ポイントは3つ。「①楽曲」「②関係性」「③衣装」だ。

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左から順にアレハンドロ(狼)、チョッキー(ウサギ)、フリオ(カエル)、ダル(白猫)、ドンキー(犬)、サンチョ(リス?)。あと映ってないけどトロ(牛)。ドン・キホーテやスペインにちなんだキャラクター達。

 まずは①楽曲。ミュージカルのあらすじをざっくり説明すると——ガート村領主の一人娘であるダル(白猫)が所有する秘密の花園に、ドンキー(ドン・キホーテを模した犬の騎士)達が招待される。その花園は誕生花で彩られている。そして、キャラクターひとりひとりが、自分の誕生花にちなんだ歌と踊りを披露していく。

 ……これすごくないですか? キャラクターひとりひとりに楽曲、いわばキャラソンが用意されているんですよ。アイマスでたとえると、ユニット曲だけじゃなくて、ちゃんと全員分のソロ曲が用意されているんです。ソロ曲ってキャラ個人のパーソナリティが掘り下げられるからすごい好きなんですよね。たとえば黛冬優子(シャニマス)の「SOS」。ぱっと聴いただけでは甘くてポップなラブソングですが、"ふゆ"の裏にいる"冬優子"の存在を感じながら聴くと——(中略)

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 ——これと同じように、ミュージカルは、ちゃんとキャラクターのパーソナリティを掘り下げる楽曲・演出になっていました。特に印象的だったのはアレハンドロ。それまでは明るい楽曲が用いられていましたが、彼のパートになると、スパニッシュギターの物悲しい旋律が流れ、舞台は彼ひとりだけになる。その孤独哀愁。うろ覚えですが、家訓は「一番でなければならない」らしい……アレハンドロ、お前、結構辛い目にあってるんだな……

この記事を書いてる頃に、ちょうどフリオのお誕生日お祝いツイートがありました。誕生日タグも用意されている。公式がこういう行事を大切にしてくれるの本当に嬉しいよね。

 ヒロインであるダルは華やかな、能天気なサンチョは陽気な楽曲。しかも誕生日ソングだし、各々の誕生花がモチーフにされている。オタクにとって誕生日は重要なファクターだ。推しが誕生日を迎えれば「#○○生誕祭」タグをつけてファンアートを投下したり、巡回したりして盛大にお祝いするもの。そして、誕生花の花言葉に思いを馳せたりする生き物なのだ。

 公式サイトによれば、キャラの誕生日当日は、ミュージカルで特別な催しがあり、園内やホテルでイベントがあるとのこと。志摩スペイン村さん、オタクのあつかい方を心得てるな……キャラひとりひとりの誕生日を大切にしてくれるのはマジで嬉しいっす……😭🙏

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 続いて②関係性。こちらはキャラクター館に掲げられていた相関図。なあ見てくれよこれ。ざっと見るだけで主従関係、三角関係、片思い、身分差、師弟、擬似親子だ。さらに想像を膨らませれば異種族、BSS、歳の差、体格差、逆ハーレムもある。これもう小宇宙(コスモ)だろ。てぇてぇの集積体だろ。二次創作の温床だろ。この関係性が舞台上でも表現されていてめちゃ良かったです。

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 最後に③衣装。なんとショーの最中に3種類の衣装がお披露目される。上の写真はダルの衣装。左から順に通常衣装季節(誕生花ヒマワリ)衣装ハロウィンの魔女っ子衣装だ。

 ソシャゲでいえば、推しの誕生日に新衣装、季節イベントで限定衣装が実装されるようなもの。VTuberでいえば、新衣装お披露目配信が行われるようなもの。そうやってオタクが1年以上かけて楽しむものが、約25分に詰まっているのだ。な、なんて恐ろしいことを……! オタクの殺し方を心得てやがる……!

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 少し話が脱線するが、キャラクター館では、コスチュームの変遷が紹介されている。ドラえもん、クレヨンしんちゃん、サザエさんなどの国民的アニメのように、時を経てキャラデザが移り変わっていく様を拝める。過去をなかったことにするのではなく、資料館を設けて保存しているのは好印象。「ダルちゃんかなり作画変わってるんだなあ」「他のみんなも色んな衣装あったんだなあ」と、キャラクターの歴史を感じられてすごくよかった。私以外に誰もいなかったけど……

 以上、オタク心にぶっ刺さったポイント3つを紹介してみました。なんつーか、ちゃんと文脈があるのがいいんですよね。ただの客寄せパンダじゃない。テーマパークを彩るだけの記号的表現じゃない。誕生日があり、他のキャラとの関係性があり、歴史があり、色んな衣装がある。この地に生きている者達だと感じられる。「けものフレンズ」アニメ1期みたいな心地よさがありました。

 「テーマパークのミュージカルなんだから、みんなで楽しく歌って踊るだけだろう」とみくびっていました。でも子ども騙しじゃない。キャラクター達の魅力を伝えようとする、作り手達の情熱と創意工夫を確かに感じられる。そんな素敵ミュージカルでした。いきなりキャラクターみんなを好きになっちゃったな……現地に訪れた方はぜひ、このミュージカルを真っ先に見てくれよな!


⑤フラメンコパフォーマンス

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 11時10分。カルメンホールでフラメンコパフォーマンスが開演。若い観客は私だけ。まあ「凛世推しとして"カルメン"通りで催されるフラメンコは絶対に見たい!!!!!」って動機だけで来たやつなんて、この世で私だけだろうしな……

 キャラクターミュージカルを見終えた後、早足でカルメン通りへ。すぐに予約を済ませた後、前から2列目に着席——

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いや近っっっっっ!?!?!?!?

 ステージまでの距離、10mもないのでは……!? 公民館かよ……!?

 そんなわけでド近距離でフラメンコを鑑賞しました。これはかなり迫力がありましたね。女性ダンサーはスカートを翻し、男性ダンサーはスラッと伸びる長い脚を活かし、情熱的な踊りを披露。ステージをリズミカルに踏み鳴らす靴音。その迫力に圧倒されました。何より、やはりこの近距離。男性ダンサーから飛び散った汗が、スポットライトに照らされて煌々と輝く様をはっきりと視認できました。う、美しすぎる……

 後半、ダンサーに促されて手拍子をすると、不思議な一体感に包まれました。私はライブを見ないタイプのオタクなんですが「なるほど、みんなこの熱狂を求めて現地に訪れるんだな……」と合点。スペインの伝統芸能を味わうこともでき、とても有意義な時間を過ごせました。

 そんなフラメンコパフォーマンスですが、こちら、残念ながら有料となっております。まあスペイン人演出家を起用するほどの本格的な催し物だもんな……つっても200円ですが。おい、チュロス半額のお値段じゃねえか。4個入りカロリーメイトの税抜き価格じゃねえか。ほぼ無料じゃねえか。どうなってんだパルケエスパーニャ!?


⑥フィエスタ広場にて——アルカサルの戦い、チュロス、園内放送

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これは15時頃に撮影した写真。たまたまこうなっていただけで、本当はたくさん人がいるんです! 信じてください!

「せっかくテーマパークに来たんだしなんか乗るかー」ってことで、数々のアトラクションがあるフィエスタ広場へ。園内で最も賑わっているエリアだ。

 名物である絶叫系ジェットコースター「ピレネー」に乗ろうと思ったのですが、小心者なのでビビり散らかして逃げました。逆さ吊りにされた女達が絹を裂くような悲鳴をあげている……正気の沙汰とは思えない……

 でもやっぱなんか乗りたいな。絶叫系は苦手だし、え〜でもメリーゴーランドに乗るのはちょっと恥ずくな〜い? これでいいかあ、と思って入ったのがシューティングゲーム「アルカサルの戦い"アデランテ"」

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 洞窟の入り口みたいな造形と、イカついフォントでちょっとワクワクしちゃったぜ。前述したように待機人数0人。スッと乗った後、次々と現れる標的を、無表情かつ機械的に撃ち続ける悲しきモンスターと化していました。私に心はありません……マスター……次のご指示を……(銀髪ジト目クーデレ系少女)

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  ……!!(甘い香りにアホ毛が反応する)

 ふっと周囲を見渡すと売店を発見。メニューを見ると、ありました……チュロスが!! ンゴちゃんがベタ褒めしてたやつだ!! さっそく購入して近くのベンチで実食。

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う、うまっ……!!

 外側はカリッと、中はモチッと。焼きたてでしか味わえない食感の生地と、シナモンパウダーのほどよい甘味が絡み合って絶品や……!!

 えっマジでうまいな。揚げたての揚げパンって食ったことあります? あれって給食で出てくるやつより遥かにうまいんすよ。それと同じ感動がありましたね。

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エスパーニャ通りではチョコがけのチュロスが食えます。お店の前にはこんな看板がありました。youtubeで話題……誰のことだかさっぱりわからンゴねえ……

 よし、フィエスタ広場はこんなもんでいいか。後でお土産買う時にショップ寄ろう。とりあえずシべレス広場に戻ってみる——すると、スピーカーから突如として流れる鐘の音。

 もしやと思いスマホを取り出す。12時。なんと、ちょうど園内放送が始まる時間だった! これはまさに運命。しっかり聞き入るために、スピーカーの真下にあるベンチに向かう——

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だ、誰も座ってねえ!!
嘘だろ……!?

 周囲をちらっと見てみるが、そもそもこの放送を気にしている人があまりいないようだ……おい! 本当に誰もいねえのか!? キャラクター達がお喋りしてくれる園内放送に耳を傾けようっていうオタクは、私以外にいないのか! なあ!?

 ベンチに座って、真上から響き渡る声に耳を傾ける。内容はうろ覚えだが——「ランチの時間よ!」と告げるのダルの声。「さあみんな、地図を広げて! パルケエスパーニャには色んなお店があるのよ!」「どこで食べるか迷いますなあ」……促されるままに、私もパンフレットを広げる。和食屋、スペイン料理屋、カフェ。なるほど、確かに多種多様のお店があるようだ。

 みんな、教えてくれてありがとう。実は朝からカロリーメイトとチュロスしか食ってねえんだ。結構歩き回ったからお腹空いてたんだ……

 しかし、しばらく昼飯はおあずけだ。なぜなら12時45分、この広場で「ストリートレビュー ヌエボ・プログレッソ"アデランテ"」(パレードとショー)が開催されるからだ。本イベントはミュージカルやフラメンコとは異なり、1日に1回しか開催されない。

 絶対に見逃してはならない。のんびり飯を食ってる間に始まっていた、なんてしょーもないことで後悔したくない。ささっと博物館を見て回るか、と急いで広場を後にした。もう一度、愉快なキャラクター達に会えるのを心待ちにしながら。

<後編に続く>