強くなった日
近所のATMはいっつも並んでいる。
四つ並んでるのだが三菱UFJだけいつも込み合っていて自動ドアの外にまで列ができてたりもする。
今日も仕方なく4番目に並んで順番が来るのを待っていた。
前を見るとツナギの格好の大柄な中年男性が、携帯電話でなにやらお金がうまく引き出せないだか振り込めないだかを相手に訴えていて、作業が止まっていた。
その間僕より先に並んで待っている前の女性二人はじっと黙って立ちすくんでいる。
しばらく待つしかなかったが、一向にそいつは電話を切らないし、手は動いてないしでだんだんイライラしてきた。
自分だったらどうするか?
後ろに人が並んでるんだしいったん外れて電話するべきじゃないのか?
こいつ後ろに人が並んでる事すら気付いてないんじゃないか?
気付いてないなら仕方ないというわけにはいかない。
そんな鈍感で無神経な人間には教えてやらなければならない。
こうゆうシチュエーションは過去にも何度かあった。
だが僕はいつも自問自答の最後に「もし相手がヤクザ風な男であっても俺は注意をするのか?」と問うた時、NOであるならばそれは相手を見てケンカをふっかけるようなチンピラに成り下がってしまうとかなんとか理由をこじつけていつも何も言えないで事なきを経てきた。
だが今回は違う。
相手が何者であろうと言うべき事は今言わなければと無性に怒りがこみあげてきた。
男は大柄だし横柄そうだし相手にとって不足なしだ。
もしよぼよぼのじじいだったら見逃すが、大きな声で喋ってる中年には正義の鉄槌を食らわす必要がある!
そして何より俺以外の人間もずっと前から待っているという現状だ。
もし待っているのが俺一人であったなら多分何も言わず何分でも待っていたと思う。
だが他の人も待っているのだから誰かが言わなきゃならない。
それが今回ようやく俺の出番が巡って来たのかもしれない。
そうこう考えてるうちに前の男が去っていって一件落着というパターンが今までの常であったのだが、今回は違う。
こんなに考えてる時間があるのに、まだ男は相変わらず電話をしながらATMの場を動こうとしない。
俺はついに吠えた。
「後ろ待ってんだけど!!!!」
ついでに横の壁をガンと蹴りながらでっかい声で一喝した。
一瞬静まる場の空気。
男はゆっくり後ろを振り向き確認するようにこちらを睨む。
俺は内心ドキドキしながら斜め向こうを見てふてくされた表情のまま眼を逸らす。
すると男は「すんません…なんかよくわからなくて…へへっ」と言ってすぐに電話を切って出て行った。
面白いのはそのあとの前方の女性二人が猛スピードで作業を終えて順番がすぐに廻ってきた事だ。
別にそんな急がなくてもいいからそのかわり小さく拍手して称賛するか、一言礼を言ってくれてもよくないか?
俺も大人になったもんだなぁとしみじみしながら帰路に着く。
でも真の大人はもうちょっと丁寧な口調で歩み寄るのかな?
俺はDQNなのか?ヒョロいくせにやめとけよ。
いつかこんなふうな場面で見知らぬ男と刺し違えて死んじゃう事も想定しなきゃならない。
だからホントは守るべきものがあるなら声は上げないほうがいいのかもしれない。
だが俺もバカな男気みたいなものがまだくすぶってるのかもしれない。
正確には若い時はそうゆう感情は全然なかったのだが、最近理不尽な物事や人に対して許せないという感情が妙に高ぶるのだ。
多分これまでの人生で散々人に譲ってきたという蓄積がようやくここへきて爆発しかけてるのかもしれない。
悪には屈さない。
正しい形で正しいタイミングで怒れる大人になろう。
図太く無神経な輩を甘やかすわけにはいかない。
強くなろう。
生きにくい世の中を生き抜くために。
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