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雨上がりの空に~スカイブルートパーズ

スカイブルートパーズ

雨上がりの澄みきった空が好き。
いろんなものを洗い流したあとの
軽い痛みにも似た薄くて青い空。

空色の石はいくつかあるけれど、
スカイブルートパーズのうっかりすると色を失くしてしまいそうな
透明に近い青は、
悲しみという感情を知ったあとの
凪いだ心の静けさに似ている。

その明るく透き通った空色は、
悲しみのフィルターを通すからこそ
どこまでも優しくて
その先にある明るい希望を
心に灯してくれるのかもしれない。

今回はそんな空を映したような石、スカイブルートパーズにまつわる胸キュンストーリーをお届けします。

【こんなシーンでつけて欲しい☆妄想ストーリー】

雨上がり。
すれ違った親子が声をあげる。
「みて!空、すごいね!」
「わ、ほんとだ!」

つられて僕も空を見上げた。
そこには空いっぱいに大きな虹がかかっていた。

こんな大きな虹は久しぶりに見た。
というか・・・
ここしばらく、空なんて見てなかった。

仕事が忙しかったからというのを理由にするのは、少し違う気もする。
目の前のことばかりで、上を見上げる気にもならなかった、というのが正直なところだろう。
残業で帰るのが夜になったって、夜空なんか見上げない。
星や月ってほんとにあるのか、疑問に思えるほどだ。

せっかく虹が出ているのだから、少し休憩がてら眺めて行こうか。
そう思い立ち、公園のベンチに腰をおろす。
初夏を思わせる風が前髪を揺らす。
虹か。
虹は希望を表すという話を聞いたことがある。
縁起の良いもの、幸せの象徴のようなものだろう。

そんなことを信じるわけではないけれど
なんとなく、良いことが起こればいいなと、らしくもないことを考えた。

ふと、公園の砂場でしゃがみこんでいる人に目がとまった。
「?」
雨のあとで誰もいない砂場に女性が必死で何かを探しているようだ。
(あ、手が砂だらけ。スカートも・・・)
見て見ぬふりをしようかと思ったけれど、見過ぎたせいか、その人が顔をあげてこちらを見た。
(やば・・)
一度は目を逸らしたものの、知らん顔も出来ず近寄って声をかけた。

「どうかしましたか?」
すると彼女は眉尻を下げて困ったような笑顔を浮かべた。
「それが・・。ピアスを落としてしまって。」
「ピアス?」
「はい。虹がすごくきれいだったので、空を見上げてたら手にひっかけてしまったみたいで。」
「それが、ここに落ちた?」
「はい。そこの滑り台で見てたから。」

この広さの砂場で小さなピアスを探すのは簡単なことではないだろう。
なんか・・面倒なことに首を突っ込んだ気がしたが、乗りかかった舟だ。
「良ければ一緒に探しますよ。」
彼女は一瞬、目を大きく見開いて、そのあと笑顔をみせた。
その笑顔はまるで花が開いていくような、やわらかな笑顔だった。
思いがけず胸が跳ねる。
「ありがとうございます!助かります!」

それから10分ほど二人で砂場を探すと、滑り台に近いところに落ちているピアスを見つけた。

「ありがとうございました!こんなに汚してしまって、すみません。」
「いえ、見つかってよかったです。」

この流れだとお礼とかなんとかでお茶でも~みたいな展開になるよな。
そんな俗なことを頭の隅で思っていると
「ほんとにありがとうございました。あの、お礼といっては何ですが・・・」
ほら、きた。
「良かったら、プラネタリウムご一緒しませんか?」
「・・・へっ?!」

数日後、なんでだかわからないうちに約束してしまった彼女とのプラネタリウムの日がやってきた。

友人からプラネタリウムのチケットを2枚もらったが、一緒に行く予定だった相手が都合が悪くなったから・・ということらしいのだが。
いや、こんな展開、ぶっ飛び過ぎて想像がつかなかった。
それにOKの返事をする僕も僕だけど・・
彼女は・・まぁ、ぶっちゃけ、僕の好みだった。

待ち合わせ場所に行くと、僕に気付いた彼女は笑顔で頭を下げた。
やっぱり花のように笑う人だな。
その耳には、こないだ二人で探したピアスが揺れていた。

「急に変なお誘いしてしまってごめんなさい。ご迷惑ではなかったですか?」
「いえ、プラネタリウムなんて子供の頃以来で、なんか新鮮です。」
「そうなんですね。良かったです。」

並んで座った席から見上げると、満天の星空が広がっていた。
「星とか月ってあるんですねぇ。ずっと空なんて見ないから、ほんとにあるのか疑いたくなってました。」
笑って言うと、彼女は不思議そうに僕に視線を向けた。

「私はずっと空ばかり見てます。写真を撮るのが好きなんです。」
そう言って瞳に星空を映す。
「でも、あの日はカメラを忘れちゃって。あんなにきれいな虹、絶対撮りたかったのに、残念です。」
そう言って、フフっと笑う。
あぁ、やっぱりこの人は・・・。

「そういえば、ピアス大丈夫でしたか?壊れたりは・・」
「あ、はい、大丈夫です。これ、すごく気に入ってる石だったので。」
「石?」
「はい、スカイブルートパーズとレインボームーンストーンという石のピアスなんです。」
「へえ。空の石と虹の石なんですね。そして月?」
そういうと彼女がこちらを向いた。

「そうなんです!私の好きなものが一緒になってるんです。」
暗くてぼんやりとしか見えないけれど、キラキラと目を輝かせているのがわかった。
「トパーズって希望の石っていう意味があって、これは抜けるような空の色をしているんです。」

「そしてレインボームーンストーンは虹色に輝くムーンストーンのことなんです。幸運を呼ぶと言われています。」
よほど石が好きなのだろう。早口で解説をしてくれた。

「どちらも幸せを運んでくれそうな石なんですね。」
「はい!そうなんです。買ったばかりだったので、見つけてくださって嬉しかったです。」

あの日のことを思い返す。
そういえば、虹を見たときにぼんやりと良いことが起こればいいなと思ったことを思い出した。

虹は希望、幸運の象徴。
スカイブルートパーズも青い空の色をした希望の石。
レインボームーンストーンも幸運を呼ぶ石。

不思議な繋がりを辿った先に、いったいどんな未来があるのか。

僕の隣でキラキラとした瞳と花のような笑顔を見せる彼女と
まだ見ぬ未来は・・・。

彼女が夜空を見上げたときに、さらりと流れた髪の隙間から、透き通ったブルーの石と虹色の石が揺れた。

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