縁もゆかりもなかったのだ

春だし、暖かいし、たくさん歩いてしまう。ただ、散歩という朗らかな事でなく目的がある中でいつもより遠回りをしてしまう感じ。仕事への不安だったり人間関係の軋轢だったり、そういったものを抱えながら。そして日が暮れたらコインランドリーでぼーっとしながら洗濯物が乾くまで本を読むのが最近多くなった。

こだまさんの新刊『縁もゆかりもあったのだ』が発売された。訪れた場所と記憶を巡る紀行エッセイ。天性の巻き込まれ型の宿命を背負ったこだまさんに起こるあれこれはどれもおもしろいし出会う人々みんながアナーキー。男女が入れ変わった浴場のあの状況で洗顔フォームがチューブ式なんてどうでもいい事だろう。変なところで負けず嫌いがでるこだまさんの視線はどこか醒めているようにも思う。

そういえば初めてこだまさんを知ったのは7年前の文学フリマ。おとちんの原型が収録された『なし水』という同人誌がどうしても欲しくてA4しんちゃんに問い合わせたが在庫がなく手に入れる事ができなかった。その後はたくさんの人が知っているように『夫のちんぽが入らない』が売れ、仕事で何度か会う機会もあった。雑誌連載時にこだまさんのレントゲン写真を店頭展開POPにしてしまったのは今思うとどうかしてたかな。そして会う度にいつものあのかわいい声を聞くとなんだか安心してしてしまう。

洗濯物を乾燥機に入れ200円を入れる。目安は20分。稼働音がとても落ち着く。本を読むのにちょうどいい。カフェなんかじゃ落ち着かない。夢中で読んで気づくと洗濯物はすっかり乾いていた。こういった時間があるから生きていけるとか大仰しいことは思わないし人生を変える1冊ではなかったけど、なんだかあの頃ずっと持ってたへんな御守りのように時折思い出してしまうような1冊になった。元は縁もゆかりもなかったのに。こだまさん、ありがとう。タメ口使ったら怒りませんか?大丈夫ですか?俺もへんなところで負けず嫌いです。

最後になりますが「なし水」の問い合わせのメールに今は在庫ありませんが何かの時に1冊確保できたら連絡したいと思ってますと言われ7年待っている。いつかお返事くるの待ってまーす。

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