入院とトー横とアンダーグラウンド

薬をODして記憶を飛ばした。朝起きたら顔中が痛くて、シーツも服も血塗れになっていた。朝方、外で何かを派手にやらかしていたらしい。目覚めてもまだ血は止まっていなかった。痛みと口の腫れでまともに話すこともできず、何が起きたかもわからなかった。すぐに病院へ運ばれた。

noteを更新していないこの数ヶ月の間に色々なことがあり、1月20日──(後日、編集によりここの文章は削除した)──私は今、都立病院に入院している。

昨年末で8年ほど勤めていた会社を退職し、年明けから浅草のカフェで働いていた。生活環境が変わった矢先にこんなことが起きて、まるで映画のような怒涛のストーリー展開だと思う。こんな映画を作ったところで、張本人を含め誰も楽しんで観ることなんかできないけど。

結果から言うと上顎を複雑骨折しており、現在は歯茎をビスとゴムで固定して口が開かないようにされている。歯茎と唇の裏側も10針縫合した。今日、そのゴムを外して流動食生活が終わる予定だ。昼から食事訓練と称した固形物の食事に切り替わる。問題が無ければ明日か明後日には退院できそうだ。顔面の麻痺だけは治るまでかなり時間を要するらしい。

入院生活は現実にいながらにして現実と切り離された生活で、まるで刑務所・留置場にいるような気分だ。退院すれば現実が押し寄せてくる。目を背けていた凡ゆるものと対峙しなくてはならない。入院生活は憂鬱だが、退院することもまた憂鬱なのだ。しかし世界は動いている。人は各々、問題を消化しながら着々と最期に向かって歩いている。その行進に私も並ばねばならない。



久しぶりにILLNESS氏がエッセイを書いていた。

ILLNESS氏はネットからストリートカルチャーに参入したブランド"BBC"のデザイナーだ。実はILLNESS氏とは10年以上も前、学生時代から多少縁があり、今はあまり関わりがないものの、個人的にBBCのことや、彼のツイートはチェックしている。

哲学、ドラッグ、アンダーグラウンドをルーツとしたILLNESS氏の発言やデザインはいつも真理を突いてくるキレがあり、非常に考えさせられる。

今回のエッセイでは昨年社会問題にもなった"トー横界隈"に触れており、メディア視点ではなく、ストリートの人間視点での捉え方に共感する部分も多かったので少し取り上げてみようと思った次第だ。



記事にある通り、トー横界隈はまさに家庭にも社会にも居場所を見つけることができない若者の集う第3空間だった。「そこに行けば仲間がいる」この共通認識が輪を大きくさせ、居場所のない若者たちの居場所をつくりだす。この現象はいつの時代にも起きている。チーマーや竹の子族だってそうだったし、ライブハウスに集まるライブキッズやアイドルオタクだって同じようなものだ。

みんなそれぞれ第3空間を持っているが、それが特定の場所に形成されるコミュニティーか、どのような人種が集まるかでその空間が自在に形を変えていく。

トー横界隈の場合、場所も人種も少し異質だったから潰される結果になってしまったのだと思う。

新宿は確かに混沌の街で、私の身近にも二つのコミュニティーがあった。一つはコマ広場に集まった帰る家のない若者たちのグループ、もう一つは新宿二丁目に集まる同性愛者達のコミュニティー。(今回、後者については割愛することとする)

コマ広場のコミュニティーはトー横界隈とよく似た形をしていた。多くは売春や少しヤバいバイトで生活をしていて、家出少女やホスト狂い、薬漬けのジャンキーや風俗嬢もいた。金銭トラブルや暴力沙汰も日常茶飯事で、文字通りに"消された"奴もいた。

彼らの大半は何かしらの問題を抱えていて、居場所を持てずにいた。そして心の隙間を埋めるためだったり、仕事のためだったり、とにかく生き抜くために歌舞伎町に流れ着き、自然とあの広場に集まるようになった。

広場を見たことのある人ならわかると思うが、あの場所は歌舞伎町の中心部で、そこら中に人が座り込んでいたし、あんな場所に頻繁に集まる人は限られるため、顔馴染みが増えていくのは自然なことだった。人は匂いで敵か味方か嗅ぎ分けることもできるし、近しい人がいれば関わりを持つようになるものだ。

このことを考えると、ニュースに取り上げられるような大きな問題が起きなかっただけで、コマ広場があった頃からトー横界隈の原型は存在していたのだと思う。

また、私はトー横界隈の存在を知ったときに、コマ広場のことだけではなく、石田衣良の池袋ウエストゲートパークのことも頭に浮かんだ。作品自体はフィクションだが、あれは現代の闇の部分に限りなく近付いたリアルな作品だったと思う。作品中に存在する少年少女は、確かに存在しているような人物ばかりではなかったか。現実の池袋には、あの公園には、シュンやリカはいなかったか。直接的にトー横界隈の住人と関わりがあったわけではないから真偽はわからないが、多分、池袋ウエストゲートパークの登場人物に近いような人種もいたのではないかと思う。


世間は汚いものに蓋をするようにアウトカーストな場所を作りたがるが、その不可触エリアにこそ問題が積み重なっている。住人は生き抜くために自分たちで問題を解決して、その場所を守っている。

混沌とした空間は新宿だけではなく、どんな所にもある。その存在に救われている人種も大勢いる。まともでも、歪でも、誰かの居場所になっている空間があるなら本人たちが守るしかない。汚い大人や警察が干渉してきても、必死で守るしかない。どんな手を使っても。

手段を選ばなかった結果として楽園は簡単に壊れることになったが、その後、トー横の若者はどこへ行ったのだろう。あの場所がなくなっても人は消えない。

めちゃくちゃな形でもいい、楽園を作って、今度は失敗せずに守り抜いてほしい。どんな奴らにも居場所を作れるように、彼らなりのやり方で安心できる場所を作っていてくれたらいい。はみ出し者が生きていられるように。

死ぬなよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?