見出し画像

人の人生はいろいろ、でもせめて幼いころ位は愛してくれる人のもとに居たい。

    6

 白い雪が深々と降りつもる日本海の波が押し寄せては引いて行き、また押し寄せては引いて行く。

そんな海辺の漁師町で若いまだ二十歳そこそこの女が、漁師に持て遊ばれて身籠ってしまい下ろす事も出来ず已むを得なく産み落とされたのが昭二である。そして昭二は産声を上げて生まれると同時に、両親に捨てられて産み落とした母親の親戚中を盥回しにされて、もの心付いた頃には何時も飲まず食わずの生活をしながら生きて来た。
只、昭二はそれ以上の生活を知らなかったので飲まず食わずの生活が当たり前だと思っていた。ある時は六人子供の居る家へ預けられ一日一食、それも粥を茶碗に一杯食べれれば良い方で、それ以外の物を与えられる事は無かった。
只救いだったのは住んでいた場所が田舎の漁師町で周りは海と田んぼと畑ばかりで、お腹が空けば、よその畑に入り込んで一つ二つ野菜を取って食べても畑の持ち主もお腹を空かした子どものやる事と、見て見ぬふりをしてくれる人達が多かった事である。

そんな人達の計らいで、昭二は何とかある程度の食べ物を口にする事が出来ていた。
だがそれも長くは続かなかった。
何故なら今面倒を見て貰って居た親戚の家も主人が交通事故に遭い右腕を骨折してしまい完治するのに二カ月ほど休まなくてはならなくなった事から、長い間勤めていた製缶工場を首に成ってしまったのだった。
そうなると子供6人と大家族で生活が困窮している中、それでも昭二を憐れんで、しょうがなしに預かっていた状態だった事から、とても昭二まで面倒みれないと言う事で、今の家も追い遣られる事と成るのであった。
そして次に預けられた処は今迄預けられた家で最悪の家だった。
その家は子供は居なかったが、独り者でまともに仕事もせず、毎日酒を飲んでは暴れまくるといった、どうしようもない叔父の家で、此処では食べ物もまともに与えて貰えず。
毎日一食として昭二の食事が用意される事は無かったのだった。
犬や猫に餌を与えるかの様に、自分が食べている酒のつまみの乾き物を一つ二つちぎっては畳の上に投げ捨てると「食べろ、飯だ!」と言い放つ酷い叔父の下での生活だった。
そんな状況の中昭二の体は、どんどん痩せて行き骨と皮だけになり、フラフラしながら家の周りを食べる物が落ちて居ないかウロウロと、うろつく悲惨な毎日を送るのである。
しかし、前の家の様に周りには田畑も海も無く、つまみ食いが出来る様な物は何一つ無かった。それでもどうにか生きて居られたのは近所の人達が余りの昭二に対する叔父の態度を憐れんで、叔父に隠れて握り飯や庭で焼いた、焼き芋を渡してくれる人達が居たからだった。昭二は貰った芋を一日で全部食べるのでわなく、何日かに分けて食べながら、その日暮らしの自分の人生をただただ生き抜くのであった。
生まれ持って天涯孤独で親の顔すら見た事も無く、勿論、人の優しさにも触れた事も無い昭二に転機が訪れる。

それはある晩の事、酒を飲んで酔っ払っている叔父が昭二に言った。お前の面倒はもう見れないから、お前はお婆ちゃんが隣町に住んで居るからそこへ行け!」と7歳に成ったばかりの昭二に広告の端切れを破いた紙に住所を書くと昭二に渡すと、その日の中に隣町に住む御祖母さんの処へ追い遣るのであった。
叔父の家を追い出された昭二は途方に暮れるのであった。何故なら、既に外は真っ暗でポツリポツリと街灯は付いているものの、7歳の子供には今からどうしてイイのか判る筈もないからだ。
そこへ仕事帰りだと思われる作業服姿の男が自転車で通りかかり、淋しそうに下を向いたまま立ち尽くしている昭二を見かけ態々自転車を止めて声を掛けた。

「どうしたんだ、坊主!」すると昭二は顔を上げると、先程叔父から預かった隣町の御祖母さんの住む住所の書かれた紙を見せた。
それを見た作業服姿の男は「どうした。此処へ行きたいのか?」と昭二に聞いた。
昭二は言葉は吐かず頷いた。すると作業服姿の男は昭二の目線まで腰を落とし、優しげに話した。
「あそこに見える踏切の上を左に向かって歩いて行けば隣町へ行けるから、気を付けて行け!列車が来たら線路から降りるんだぞ!」
と言い残すと昭二の頭を優しく撫ぜると踵を返し立ち去った。
昭二は言われるがままに黙って隣町のお婆さんの住む家へと一人で暗闇の線路の上をトボトボと歩いて行くのであった

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?