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そうそう、私が欲しかったのは、これなのよ ♡

 農業を始めた頃は栽培にほとんどの時間を費やしているのに、いいものができませんでした。ところが、出席していた勉強会で、「いいものを作るのは当たり前、難しいのは売ることです。」と言われ途方に暮れたものでした。
生産者は「いいものを作れば売れる。」と思いがちですが、それでは経営と呼べないそうです。

 最近、少しずつしっかりしたものができるようになりました。そして、同時に勉強会で言われた「難しいのは売ることです」を感じることが増えました。勉強会では「今までになかった新しい価値感を創造して提供するのが経営です。」とも言われました。そのことを痛感する出来事が最近ありました。 


 静岡県のアンテナショップが東京にできたのを知っていますか?全国の逸品が集まる食の新名所としてオープンした店舗の一角です。この場所に当社のコーナーを設けていただくことができ、野菜と人参ジュースを持って店頭販売に行ってきました。
 「おいしそうな野菜だね」「有機で作った野菜って安心ですよね。」と評判は上々、試飲していただいた人参ジュースは、お客様全員が「すごくおいしい!」と言ってくれました。

 ところが、売れないのです。「こんなに褒めてくれているのに、なぜ買ってくれないの!」と叫びたい気持ちでした。 


 途方に暮れていた時に、勉強会での「今までになかった新しい価値感を創造して提供するのが経営」という言葉が思い出されました。

 アンテナショップに並んでいる商品は、各地域から選りすぐられた、どれも優れたものばかりです。おいしい、安全安心、珍しいは当たり前なのです。自分の野菜は、その中で埋没しているのです。

 東京から帰ってきた後も、その時の光景が何度も思い出して、どうしたらいいのだろうと考えました。
 「そうそう、私が欲しかったのはこれなのよ」と思わずお客様が声を出してしまう商品、初めてなのに運命的な出会いと感じて買いたくなる商品、自分の野菜がそういうものであるために必要なものは何なのか。それは見た目でも品質でも値段でもなく「野菜の物語」ではないのだろうか、その物語を創って伝えるのが経営、そんなふうに考えています。


【記事の出典元について】

しあわせ野菜畑の代表の大角は、静岡県高等学校の農業教員でしたが、47歳の時に退職し2008年に農業を始めました。 教員生活は大変楽しく充実していましたが、農業経営者として自分自身が農業の可能性に賭けてみようと考えました。
起業して7年目の2014年4月から1年間、地元の静岡新聞に農業経営者の声「こだま」を毎月2回書かせていただく機会がありました。
「こだま」は農業者が交代で書くことになっており2015年3月で終了しましたが、その後、毎月1回農業欄のコラムとして「野菜が好きになる話」を書かせていただくこととなり、現在も続いています。
野菜宅配セットをお送りしているお客様にお届けしているニュースレター「しあわせ野菜新聞」、それからNoteの文章は、静岡新聞の農業欄「野菜が好きになる話」が元原稿になっています。

今回の記事は2014年に書いた「こだま」の原稿です。
当時とは、現状が変わっている部分も多いのですが、自分自身の原点としてそのまま記載しました。

今後、第2版として、「その後」の文章や写真を加えたりしたいと思いますが、まずは「農業で起業したころの想い」としてお読みください。

「そうそう、私が欲しかったのは、これなのよ」
第1版 2024年8月25日発信
 
(出典元)静岡新聞2014年7月第1日曜日、農業欄「こだま」より

#しあわせ野菜畑
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