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第47回感染管理抄読会:ナーシングホームにおける多面的な介入による手指衛生のコンプライアンスの向上:クラスターランタダム化比較対照試験 - HANDSOME study -

7月の抄読会で取り上げた文献について、ご紹介いたします。
 
【今回の論文を選んだ理由】
手指衛生は、感染対策の中で最も基本的な対策ですが、医療従事者の手指衛生コンプライアンスは、感染管理分野においてなかなか解決されない課題のひとつであり続けています。また、昨今の新型コロナウイルス感染症の高齢者施設におけるクラスター発生などの状況により、高齢者施設における感染対策推進の必要性が、より顕在化してきていると思います。手指衛生に関するエビデンスの構築は進められてきており、高齢者施設での研究も進められつつあります。今回は、高齢者施設で実施されたクラスターランダム化比較対照試験のひとつを取り上げて、こういったセッティングにおける検証的な介入研究の実際について勉強しようと思い、この論文を選びました。
 
【今回選んだ論文】
Increased hand hygiene compliance in nursing homes after a multimodal intervention:
A cluster randomized controlled trial (HANDSOME).

ナーシングホームにおける多面的な介入による手指衛生のコンプライアンスの向上:クラスターランタダム化比較対照試験 - HANDSOME study -
 
【論文の書誌情報】
Infect Control Hosp Epidemiol. 2020 Oct;41(10):1169-1177.
doi: 10.1017/ice.2020.319. PMID: 32748765.
 
【抄録】
目的:ナーシングホームにおける手指衛生コンプライアンス(HHC)に対する多面的な介入の効果を評価すること。
研究デザイン・セッティング・研究対象者:オランダの公的資金により運営されているナーシングホーム(NH)を対象としたクラスターランダム化比較対照試験において、HHC を直接的かつ非介入の観察により評価した。合計103のNH組織に参加を呼びかけ、18組織、33NH(n = 66 NHユニット)が研究に参加した。NHは対照群(介入なし、n=30)と介入群(多面的な介入、n=36)に無作為に割り付けられた。主要アウトカム指標は、看護師のHHCだった。HHCは、ベースライン時、ベースラインから4、7、12ヵ月後に評価された。HHC観察者と看護師は盲検化されていた。
介入:手指衛生(HH)に用いる物品と衛生規則のオーディット、3回の講義、e-ラーニングプログラム、ポスター、写真コンテストを実施した。WHOによる5つのHHタイミングを、新しい方法に変更して看護師に教えた(“Room In, Room Out, Before Clean, After Dirty”の4つのタイミング)。
結果:両群でHHCは増加した。12ヵ月後の増加は、介入群のユニット(ベースライン12%→フォローアップ時36%)であり、対照群のユニット(ベースライン13%→フォローアップ時21%)よりも大きかった(オッズ比[OR]、2.10;信頼区間[CI]、1.35-3.28)。介入群では、WHO による5つのHHタイミングのうち4つにおいて、HHCが統計学的に有意に増加した。フォローアップでは、介入群のHHCは、“前”のタイミング(=患者に触れる前、清潔操作の前)(ベースライン14%→フォローアップ時27%)よりも、“後”のタイミング(=患者に触れた後・体液曝露後・患者周辺の環境に触れた後)(ベースライン37%→フォローアップ時39%)で統計学的に有意に高いままであった(OR, 1.93; 95% CI, 1.59-2.34)。
結論:HANDSOME介入(多面的な介入)は、NHにおけるHHCの改善に成功した。
 
【ディスカッション内容】
まず始めに、このような多施設で実施している規模の大きい介入研究の論文は、先に研究の背景・計画・介入の詳細に関するプロトコル論文を公表しており、今回選んだ論文のような研究結果を中心に公表している論文を読む際には、そのプロトコル論文を参照しながら読む必要がある、という基本的な点について共有しました。今回選んだ論文では、研究背景や介入の詳細に関する記述はかなりあっさりしていましたが、プロトコル論文の方に詳細に書かれており、それを読むと、非常に綿密に計画された研究だということが分かりました。
次に、ランダム化比較対照試験のためのクリティーク項目に沿ってクリティークを進めていきました。このような教育介入や視覚的な介入は完全な盲検化が難しく、その点が研究の限界になりますが、研究を実施する際にはできるだけの対応は実施し、結果の解釈はその限界を意識しながら行う必要があるかと思われます。綿密に計画された研究であり、論文に記載が必要とされている項目も比較的漏れなく書かれていたため、論文としては読みやすく分かりやすかったという意見もありました。
この論文では、多面的な介入により手指衛生コンプライアンスが上がったと結論づけられていましたが、このような複雑な介入を、いかにしてそれぞれの施設で導入して実践できたのか、という点は論文からは読み取れませんでした。臨床実践の視点から読むと、そういった点について考察等で論じられていると、臨床でより活用しやすい論文になるのではないか、という意見が出ました。また、この論文では介入効果の評価対象を看護師に限定していましたが、日本でこのような研究を行う場合には、看護師だけでなく介護職を対象に含めて評価を行う必要があるだろう、という意見もありました。
加えて、今回取り上げた論文の介入内容は教育介入を含む多面的な介入でしたが、教育介入のアウトカムをどのように設定し評価するかが難しい、という話も出ました。このような多面的な介入は、薬による治療効果の評価とは異なり、多面的な介入の中のどの介入が効いているのかを明らかにすることが難しく、また、介入がどのように行動変容につながっているのか、ということをどう評価すれば良いか、という点についてもまだまだ検討が必要だと考えられます。
 
【感想】
今回のクリティークを通して、クラスターランダム化比較対照試験の実際について学び、考えることができて良かったと思います。日本では、感染管理分野において、このようにデザインされた介入研究はまだあまり行われていないですが、現場を改善するためのより良い介入を検討し、その効果を検証していくためには、今後こういったデザインの介入研究を進めていくことも必要だろうと思いました。また、医療従事者の感染対策に関する行動変容をどのように促し、それをどう評価するかについても、さらに研究を進めていく必要があると考えました。

(K.F.)

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