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整形外科神経筋疾患

神経筋疾患の総合ガイド


注)自分の専門医試験対策用にまとめたものです。間違いがある可能性もあるので発見した際はやさしく教えていただけると幸いです。



Guillain-Barré症候群

Guillain-Barré症候群は、先行感染後1~3週で発症する筋力低下を特徴とします。四肢および呼吸筋や顔面筋の筋力低下を主徴とします。発症2~3周で細胞数は正常で蛋白質のみが上昇する蛋白細胞解離を呈します。多彩な自律神経障害を伴い、重度の不整脈などで死亡することもあります。15%に歩行障害が残るとされています。

糖尿病性ニューロパチー

糖尿病性ニューロパチーは、重症糖尿病患者の80%に合併します。原因は神経を栄養する小血管の動脈硬化性病変による神経の虚血です。遠位感覚障害が優位の多発神経障害タイプ、感覚障害を伴わず片側性または両側性に下肢近位筋が麻痺するタイプ、起立性低血圧・発汗障害、失禁などの自律神経障害タイプ、動眼神経麻痺・顔面神経麻痺・手根管症候群など単神経障害を多発する多発単神経障害タイプがあります。発症早期からアキレス腱反射が消失し、深部感覚の低下により失調歩行を呈することもあります。

多発性硬化症

多発性硬化症は、中枢神経の白質に限局性の脱髄病巣が多発し寛解と再発を繰り返す疾患です。20~50歳の女性に多く見られ、通常は急性に視力障害、脱力、感覚障害、膀胱直腸障害、小脳性運動失調、外眼筋麻痺など様々な部位の障害による症状を起こします。

筋萎縮性側索硬化症

筋萎縮性側索硬化症(ALS)**は、運動ニューロンが選択的に障害される神経変性疾患です。上位運動ニューロンと下位運動ニューロンがともに障害され、中年以降に発症することが多いです。有病率は10万人あたり4人、年間発病率は10万人あたり1人。大部分が孤発性で、10%が家族性です。孤発例では40~60歳で発症します。症状は一側上肢の手内在筋や肩甲帯の筋萎縮・脱力に始まり、次第に進行し、他側の上肢、やがて下肢に及びます。四肢筋に線維束攣縮がみられ、呼吸筋麻痺、舌の筋萎縮、線維束攣縮、構音・嚥下障害などの球麻痺を伴います。錐体路障害により腱反射・筋トーヌスは亢進することが多いですが、下位運動ニューロンの障害が強い場合は低下します。外眼筋麻痺、膀胱直腸障害、感覚障害は末期まで生じません。

前動脈症候群

前動脈症候群は、急性発症で脊髄の腹側2/3が障害される疾患です。温痛覚障害があり触圧覚は正常である場合にはこの疾患が疑われます。MRIでは脊髄虚血巣がT2WIにおいて高信号として捉えられ、急性期には髄内造影効果像が見られます。

Parkinson病

Parkinson病は、黒質・線条体線維の機能異常で発症します。50~70歳に一側上肢の安静時振戦または歩行障害で発症し、振戦、無動、固縮、姿勢保持反射障害が4大徴候です。脳動脈硬化、脳炎、薬剤などによる二次性パーキンソニズム、Alzheimer病、オリーブ橋小脳萎縮症などの部分症状としてのパーキンソニズムとの鑑別が必要です。日常生活では動きが少なく無表情になり、動作は遅くなります。筋固縮・前傾屈曲姿勢が見られ、立ち直り反射、バランス反応が障害され、歩行では歩幅が狭く、速度は遅く、すくみ足と突進現象が見られ転倒しやすいです。起立性低血圧、末梢循環障害、便秘、頻尿、排尿開始遅延などの自律神経症状、抑うつ、精神活動の緩慢などの精神徴候も伴います。

筋ジストロフィー

筋ジストロフィーには、Duchenne型とBecker型があります。どちらもX染色体上にあり、男児のみに発症します。発生頻度はDuchenne型が5倍高いです。

Duchenne型筋ジストロフィー
dystrophin蛋白質は完全欠損し、臨床経過が重症となります。乳幼児期から運動発達の遅れが認められ、歩行遅延、易転倒性を認めます。筋脱力は四肢近位筋に早期より強く出現し、Gowers徴候やアヒル歩行が見られます。仮性肥大は腓腹部に認めることが多いですが、大腿筋、臀筋、三角筋に出現することもあります。骨格筋以外にも心筋も障害され頻脈や急性心不全を合併することがあります。

Becker型筋ジストロフィー
dystrophin蛋白質は異常を有するが存在しており、免疫染色でも同蛋白質が筋細胞に沿って不規則に染色されます。

筋緊張性ジストロフィー
常染色体優性遺伝で、成人では最も頻度の高い筋ジストロフィーです。筋症状(四肢の遠位優位の筋力低下)、耐糖能異常、前頭部脱毛、若年性白内障、知能低下、腫瘍の多発などが見られます。胸鎖乳突筋の萎縮やgrip myotonia(力いっぱい握った後になかなか手が開かない)、叩打性筋緊張も特徴です。

末梢神経損傷

Seddon分類では3型、Sunderland分類では5型に分けられます。

神経伝導障害(neurapraxia)
器質的には異常がほとんどなく、髄鞘の一部に軽度の異常が認められる状態です。数分から数週で自然に回復し、神経回復には再生神経の伸長を必要としないため解剖学的位置と関係なくほぼ同時に回復します。再生軸索は温存された内膜内を伸長し、時間とともにTinel徴候は末梢へ移動し、軸索が伸張しなければならない距離が短い順に麻痺筋が回復します。

皮膚感覚受容器

Meissner小体とPacini小体は動的触覚の受容器、Ruffini終末とMerkel終板は持続触覚の受容器です。自由神経終末は温痛覚の受容器です。

副神経麻痺

頭頚部手術時の医原性が多く、肩関節の外転障害が起きます。

前骨間神経麻痺

前骨間神経麻痺は、teardrop signが見られ、長母指屈筋、示指深指屈筋、方形回内筋の麻痺を引き起こします。6~12ヶ月で自然軽快することが多いため、まずは様子を見ることが推奨されます。

手根管症候群

手根管症候群の原因としては腱鞘滑膜炎、妊娠、透析、リウマチ、橈骨遠位端骨折、Kienböck病、腫瘤、破格筋などが挙げられます。

Guyon管症候群

Guyon管症候群は、橈側は有鉤骨、尺側は豆状骨と尺側手根筋腱付着部線維、背側は屈筋支帯の尺側付着部と豆状有鉤靱帯、掌側は掌側手根靱帯から構成されます。手の掌側のみに感覚鈍麻があり、背側にはありません。神経伝導速度の評価では第1背側骨間筋が指標となります。手術を要することが多いです。

回内筋症候群

回内筋症候群は、正中神経の高位麻痺であり、一方手根管症候群は正中神経の低位麻痺です。

神経支配

骨間筋はすべて尺骨神経支配です。虫様筋は示指と中指は正中神経支配、環指と小指は尺骨神経支配です。浅指屈筋は示指から小指まですべて正中神経支配です。

足根管症候群

足根管症候群は、脛骨神経が脛骨内果後下方の屈筋支帯に覆われた狭いトンネル部で圧迫を受けることによって生じます。ガングリオンや距踵間癒合性による圧迫が多いです。脛骨神経は足根管で踵骨枝、内外側足底神経に分かれ、足底神経は足部の内在筋に運動枝を出した後、前足部の感覚神経となります。

腓骨神経麻痔

腓骨神経麻痺では、内反が生じることが特徴です。ギプス、長時間の臥床など外部からの圧迫によるものが多いですが、腫瘤や外傷によっても生じます。圧迫、牽引などによる麻痺で神経の連続性が保たれている場合は自然回復する可能性が高く、保存治療が一般的です。

感覚異常性大腿痛

感覚異常性大腿痛は、外側大腿皮神経が上前腸骨棘、鼠径靭帯で形成される狭いトンネルで圧迫を受けることにより生じます。外側大腿皮神経はL2・3root由来です。手術療法には鼠径靭帯を切断して神経を剥離する方法があります。

下肢の絞扼性神経障害

梨状筋症候群は、坐骨神経が梨状筋部から大腿筋下に出てくるところで圧迫を受けます。Hunter管症候群は、伏在神経が大腿内側広筋と大内転筋を結合する繊維束で形成されるHunter管の通過部で圧迫を受けます。

腋窩神経麻痺

腋窩神経麻痺は、単独損傷はまれであり、単独損傷の場合は肩関節脱臼に伴うことが多いです。ほとんどが牽引損傷で、肩関節外側の感覚麻痺が生じます。三角筋麻痺のため肩の筋力低下を示しますが、棘上筋により肩の挙上は可能な例が多いです。単独麻痺例では自然回復する例もあるため、保存療法が優先され、2~3ヶ月待っても回復徴候が見られない際に外科的処置を考慮します。

腕神経叢損傷

腕神経叢損傷は、頚椎横突起骨折などの高エネルギー損傷により生じます。ほとんどはオートバイ事故によるもので、上肢が不自然な肢位で投げ飛ばされるか、頭頚部や肩甲骨に牽引力が加わることで損傷されます。引き抜き損傷では後根神経節にある感覚神経細胞体と末梢神経との連続性が保たれておらず、支配領域にヒスタミン皮下注するとその部位に発赤・腫脹を生じます。Horner徴候は交換神経障害による眼裂狭小、縮瞳、発汗障害であり、T1神経根が節前損傷の場合に陽性となります。横隔神経はC3~5rootから支配されます。

上位型麻痺では肩の外転、肘の屈曲、前腕の回内が障害されます。下位型では手指の麻痺が生じます。引き抜き損傷では直視下に根糸を確認することはできず、頸髄から神経根が引きちぎられ硬膜外に引き抜かれたものです。中枢神経損傷に属するため自然回復は期待できません。引き抜き損傷かどうかの判断には軸索反射が有用です(ヒスタミン皮下注)。

神経根部以遠の節後損傷では、手術による神経修復効果が期待できるため、損傷形態により神経剥離術、神経縫合術、神経移植術が選択されます。体性感覚誘発電位により神経の連続性を調べる方法は信頼度が高いです。

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