ドゥームズデイクロック実況感想⑥『TRULY LAUGH~本当に笑う~』
わたしは間に合うんだろうか。仕事が始まるまでのこの短い時間に。
────BLEACH風ポエム────
※この記事にはネタバレが含まれます!※
メタヒューマンの脅威
例のごとくコラムから始まる構成となっているドゥームズデイクロック。そこに掲載されているのは、わたしが知らない無数の超人達だ。ここは敢えて作中にならい、メタヒューマンと呼ぼうか。
この世界におけるメタヒューマンの比率はアメリカに偏っている、とこのコラムは警鐘を鳴らしている。スーパーヴィランも、或いはスーパーヒーローもまた、それらの一部はアメリカという国家がスーパーマン誕生以降に設立されたメタヒューマン問題対策局なる機関によって意図的にメタヒューマンとされてきたのだと。それこそが、アメリカという国家が世界のメタヒューマンの97%もを抱える証左だというのだ。そして彼らは有事には政府によって招集されるのだとそこには書いてある。
この理屈は一見魅力的だ。これまでの記事でも紹介してきた超人理論。その存在によってこの世界の超人らは追い詰められつつある。何故なら彼らは超常的な力を持ち、その力が善や正義でもって行使する者もいれば悪や害意でもって行使する存在もいる。ゆえに、彼らが何らかの理由で後者に偏らない保証はないからこそ、その世界に住む人々は不安と焦燥に駆られもするだろう。
しかし、この記事には致命的な穴があるのだ。超人はそも、常人らに絶対服従でなければならないのか?
さらにいうのであれば、政府に管理されていれば超人は危険因子足りえないのか?
わたしは敢えて、これら全てに否と唱えよう。
何故ならば全てのメタヒューマンが自らの意思の根底を悪として生まれたのであれば世界はとっくに崩壊しているし、仮に政府によってその能力や立場を与えられたのだとしても、メタヒューマンもまた絶対的な個人であることは揺るぎない事実なのだから。
事実、今回のコラムは完全なるゴシップである。如何にもな数字を出し、死者の経歴すら参照にして不安を煽っている。わたしはゴシップを否定はしない。その人となりすら知らぬ有名人という存在は、それがどんな人物であれゴシップという人の好奇心からは逃れられない。だが、だからといってそれを理由に人々へ不穏をもたらす理由にはなってはならないのだ。
これではまるで、かつてゲイがエイズウイルスを媒介する蚊かハエのように扱われた歴史を模倣しているかのようですらある。
ましてや今回扱われているのは、マイノリティとはいえメタヒューマンという能力こそ超常的なれど、あくまで人間に過ぎない存在なのだから……。
さて、驚異的なメタヒューマンとして紹介される人物の代表のように紹介される人物がいる。ブラックアダムだ。
彼のパワーはスーパーマンに匹敵する。彼もまたシャザムと力の源を同じくする、過去の神々から力を受け継いだ存在であったはずだ。時代を経て蘇った彼は、今やシナイ半島に存在する国家カーンダックを治める英雄にして王である。ここシナイ半島は、現代において極めて地政学的な要素を持っている土地である。エジプトがかつてそこを制した者が世界を征服するとまで言われたのと同じく、カーンダックはその地政学的な特性から常に世界の注目を浴び続けるだろう。そこに君臨するブラックアダムは、近年の世論を受けて自国へのメタヒューマン亡命を公式に勧めている。それはある意味で彼の個人的な善意なのかもしれないが、あるいは個人でミサイルや戦車に匹敵する存在を集める行為は世界的に見ても脅威と映ってもおかしくはないだろう。
事実、彼は処刑される寸前のアメリカ人を助ける為とはいえ国境を越えてキングコブラの一味を殺害した。そのこと自体は賛否両論あろうが、問題なのはそこがカーンダックの国境を遥か超えた先であったということだ。安全保障の契約によって国内に留まることを約束された筈のブラックアダムの行動は、彼自身が持つ正義にとっては正しいことである。しかしそれが世界を刺激する行為であることもまた、揺るぎない事実なのだ。
そしてコラムの最後はデイリープラネットを背景に空へ飛び立つスーパーマンの影を映したポスターで締めくくられている。内容は『旅をするなら世界一安全な都市メトロポリスへ!』というものである。公式の観光局から出ているそれであるが、メタヒューマンの脅威を謳ったコラムの最後が大衆向けのポスターというのは、なんとも大衆を馬鹿にした皮肉に思えて仕方がない。
操り人形の少女
多種多様な人形が立ち並ぶ。中心となってライトを浴び輝いているのは、今回の事件の中心人物であるヴィランのひとりマリオネットとそっくりである。次のページを見てすぐに察した。これは彼女のオリジンなのだ。
そんな過去の光景を思い出すマリオネットに語り掛けるのは、誰あろうバットマンを捕まえ上機嫌の道化師ジョーカーだ。彼は背後の女へ語り掛ける。
────ご立派な連中から逃れるには、糸を切るしかねえ。そして糸に触れた奴らの喉を、残らずかっ切る。ってことだろ?────
マリオネットを連行するジョーカーは、一目で彼女の本質とでも呼ぶべき何かを悟ったらしい。さながら暗記した履歴書の感想を述べるかのような姿は実に愉快気だが、同時に最大限の警戒心も送っているのが彼の表情からわかる。犯罪者としてのメンツなどミリほども気にしていないだろう彼がそれを口に出すのが何よりの証拠だ。
とはいえバットマンを捕まえ上機嫌であることは事実らしい。気分を害する他の何もかもがどうでもよくなる程度には。Mrフリーズからはぐれたらしい手下を仲間に引き入れつつ、場面はマリオネットの過去へと飛ぶ。
────────脅されていた少女。しかしその過去には幸せがあった。操り人形を作る父が彼女へプレゼントしようと問うた結果、帰ってきた答えは女海賊アン・ボニー。彼女自身の過去に、陰鬱さと快活さが同居してるのが僅かな描写からでも見て取れる。そして向かいで開いたガラス細工の店には、仏頂面で言葉を離さない少年がいた。彼はきっと、後のマイムだ。
Mrフリーズの部下がジョーカーの部下として刺青を彫られる中、同じく二人を当然のようにマーキングしようとしたジョーカーは(正確にはその部下が、だが)彼女らから手痛い反撃を受ける。「しっかり戦え。クビにしちまうぞ」と言うジョーカーのセリフの直後に、首を斬り落とされた部下の姿が現れ、マリオネットはそんなジョーカーのことを褒め称える。
さて、ジョーカーは部下を殺戮する彼女らを止めるのかと思いきや、それもまたジョークだとでも言うかの如く戦っている部下の方の頭を撃ちぬく。一瞬おどけてみせるが、恐らく彼からすれば今起きた凶行は”単なる数合わせ”以上の意味がないのだろう。
「ジョークだよ」と嘯く彼。その反応は、喜ぶマリオネットらと呆気に取られる下っ端という対比が出来ていて実に面白い。
さて、場面は再び彼女の過去を垣間見させられる。いつも笑っているマリオネット────本名はエリカ。彼女が持つ人形は繰り糸によって歩くが、やはりと言うべきか彼女はイジメを受けていた。笑う彼女を気味悪がる、恐らくは同年代の少女。男の子二人を引き連れ、父親を侮辱した彼女をエリカは地面へしがみつくが、すぐに引き剥がされ少女によって顔を殴りつけられる。地面へ倒れると、そこには無表情にエリカを眺める操り人形の姿があった。
髪を切られそうになる彼女だが、そこへ救い主が現れる。ガラスの瓶を携えた、色黒の少年。彼らを見ていると、ロールシャッハ────ウォルター・コバックスの幼少期を彷彿とさせる。彼と彼女らを分けたのは一体何だったのだろうか。かつての言葉を借りるなら、これもまた一種の熱力学的奇跡なのではなかろうか。
悪党大集会
さて、ジョーカーに案内されてきた面々が見下ろす先には、数々のヴィラン達が勢ぞろいしていた。そこにいるのは当然、誰も彼もが犯罪者だ。
リドラーが中心となって連中を鼓舞しているが、やはりというべきか、彼らの興味はヴィラン連合などではないらしい。
すなわち、カーンダックへ逃げるか否か。
彼らもまた、超人理論による世論の変化によってその立場を追い詰められていた。当然だろう。ただの悪党が実は政府の駒かもしれないと公言されたに等しいのだから。それはすなわち、自分達の悪事が筒抜けだったこと、あるいは自分の意思ではなかったことを意味している。問題はそれが誰なのかということだ。
その場にいるのはゴッサムヴィランがメインだが、他にもキャプテンコールドの姿がある。それ以外では禿頭の老人はシバナ(シャザムの映画に登場したメインヴィラン)と呼ばれている。他にもスーサイドスクワッドのレギュラーメンバーことキャプテンブーメランや、仮面を被った不気味な集団こと梟の法廷、またその巨体からやたらと目立っている女性は調べたところジャイガンタなる巨大化能力を持つスーパーヴィランのようだ。他にも半ば背景となっているが、その場にはトゥーフェイスやMrフリーズやペンギン、スケアクロウらしき人物まで集合している。
彼らが疑心暗鬼になった理由のひとつとして、この場には先ほどのコラムに掲載されていたキラーフロストの証言によって対策局によって生み出された存在だと明言されたタイフーンやムーンボウもいたからだ。彼らを包むのは不安や不穏といった負の感情。しかし最悪のタイミングで話の腰を折るべく、ジョーカーがお楽しみのプレゼントを運んできたぜ!とでも言いたげな様子で車椅子に乗せ鎖で雁字搦めにしたバットマンを連れてくる。だがこれにはトゥーフェイスことハービー・デントが反論する。「またか?」と。
とぼけるジョーカーだが、そのことにはスケアクロウも追随する。どうやらそこいらの人間をバットマンに仕立て上げるデマを流したのは一度や二度ではないらしい(本人は「2、3回かな…」とぼやいているが)。
混乱はしたが、話は続いている。無視されるのを嫌うリドラーがこの連合の方針を決める前に二枚舌を使っている奴がいないか確かめたいという。個人的には、ここで彼がトゥーフェイスとを「落ち着け、デント」と制止しているのが気がかりだ。なぜなら、その後に始まるのはタイフーンとの小競り合いなのだから。
しかし小競り合いは呆気なく終わらせられる。タイフーンの顔面が不適に笑うコメディアンの狙撃によって吹き飛んだからだ。彼は笑いながら、その場にいるヴィラン達を撃ちまくる。すると突然マイムが踊り出し、彼の銃口へとその身を晒す。そのことに一番驚いたのはどうやらというか、やはりマリオネットのようだ。だがコメディアンの凶行はさらに巨大化したジャイガンタの一撃で強制的に止められる。彼自身は特別な能力を持たないが、それでも準メタヒューマンと呼べるオジマンディアスに状況次第では打ち勝てるほどの人間である。彼の襲撃を受け、ヴィラン達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。コメディアンがどれだけヤバイ存在か理解しているのは、この場ではマリオネットただ一人のようだ。
ジョーカーは手榴弾の爆発で燃え上がる爆炎を見上げながら「こりゃまたサイコーの一日だぜ!」と喜んでいる。それはすなわち、彼好みの最悪に混乱した事態であるということだ。
場面は再び変わる。マリオネットとマイムの悲しい記憶。彼らの人生をロールシャッハことウォルター・コバックスと比較したが、そこには明確な違いがあった。彼らは愛を知ってしまっていたという点だ。そしてそれを、恐らくは彼らが知る限り最悪の手段で奪われたという共通点が、マイムとマリオネットを強く結びつけていた。
幼い日、追い詰められた父の死を目の当たりにし、強請をする警官二人を殺した記憶。路上パフォーマンスと犯罪行為で日々を乗り越えてきた記憶。彼らは思い出と共に互いを求めあう。
一波乱あった後、彼女はその存在を仄めかされた息子を探す決意を口にする。しかしそこに現れたのは、逃げた痕跡を辿って追いついたコメディアンの姿だった。銃を向けながら、彼はどちらが生き残るかを尋ねる。
「さあ、どっちにする? それとも、俺が選…ビッビビィイイ!!」
脅迫の最中、突然奇声を上げて倒れるコメディアン。その後ろから現れたのは、手から煙が溢れるほどの電流を流したのだろう。コメディアンの姿を茶化すように「ビッビビィイイ!!」とおどけるジョーカーが現れた。
彼はコメディアンのスマイルマークのボタンを奪うと、二人を気に入ったと告げる。何か、自分に近しいものを感じたのだろうか。だが彼には二人を助けたつもりなど微塵もないだろう。”そうした方が面白いから”という人生理念は、彼が邪悪でなければ見習ってもいいほどの生き方なのだから。
物語の骨子は、登場人物が抱える正邪の区別なく事態を進行させていく。
今回登場した多数のヴィラン。そしてマリオネットとマイムの過去。果たして、ヴィランとされる存在を定義するものは何なのだろうか。
無論それは社会の認識である。であれば、その社会とはどこからどこまでを指すのだろうか。この事態を見ているであろうDr. マンハッタンは、何を思って彼らを見つめているのだろうか。
しかしひとつハッキリしていることがある。彼は人類の価値を認めた。だが彼は人間を興味深い存在としながらも、彼ら個人それぞれの価値は認めているようで認めていないに等しい。
彼にとって人間とは、失われていく日々を繋ぎとめる以上の存在足りえた。だがそのことだけで、彼を信頼するのは間違っているだろう。仮に彼が神だとするならば、この神はあくまで、まだ人間へ興味を抱いただけなのかもしれないのだから。
それはすなわち、神の意思ひとつで世界が滅んでもおかしくないことを意味しているのだ。彼のロゴが刻まれた終末時計は、今も進んでいる。
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