なぜ町田ゼルビアは叩かれるのか?ここ2年の出来事を振り返る②

①で主に2023年の出来事を振り返り、それだけでも4,000文字を超える内容となったが、②ではいよいよ2024年の出来事について。

J2からJ1に上がって注目度が上がったのもあり町田への批判も増えたが、特に夏の出来事を機に町田バッシングはJリーグサポーターの内輪の話に留まらなくなった印象がある。
誹謗中傷の刑事告訴という事態まで至った今年の出来事に触れていきたい。


前段(町田の今季開幕前)

町田は初のJ1参戦にあたり以下のような補強を進めた。
初のJ1ということで、1年での降格を恐れて断られた選手もいると公言されている。

前年に続きJ2からの補強やレンタルも駆使して大量補強を敢行。元日本代表の昌子源やコソボ代表のドレシェヴィッチなどが目玉補強となったが、補強の中で物議を醸したのは谷晃生の加入か。
ベルギーリーグへ移籍するも試合に出れない状況が続き、国内復帰も保有元のガンバには戻らず町田へのレンタルを選択した。
さらにレンタル移籍では盛り込まれることの多い保有元との試合に出場不可の契約が付いていない移籍であった。

また選手数39人という大所帯でスタートしたが、プロA契約(年俸無制限のプロ契約)は1クラブ25人が上限である。新人や経験の浅い選手を差し引いても一定数はB契約を交わしていたと思われる人数であり、これについてもネット上では一部批判的な投稿も見られた。

プロ契約の表
今後改定されることが発表されている

そしてここから今年の出来事などについて触れていきたい。

町田の出来事・キーワード(2024)

「荒い」

ロングスロー、時間稼ぎに加えて町田批判として目立つものの3つ目がこの「プレーが荒い」という点である。

町田はカウンターサッカーを基本としており、高い位置でボールを奪ってのカウンターなどを積極的に行うため、必然的にチャージが増えるサッカーとなっている。

2023年の反則ポイント
町田は上から9番目

ということで荒いという批判は23年から見られていたが、客観的なデータを見る限り警告が特別に多いということは無かった。
ロングスローなどに比べてメディアではプレーの荒いという悪評に言及されることは少ないが、おそらく定量評価で荒い根拠が無いためであろう。

2024年の反則ポイント

また今年も反則ポイントは低くもなく高くもないのは事実である。

ただ、他サポからとにかく評判が悪いのは以下に代表されるプレーである。

この開幕戦のガンバ大阪戦、ハイライトでも映ってるようにキックオフと同時に相手にぶつかりにいっていることが分かる。
審判のジャッジ基準を把握するためなのか、ガツっといって萎縮させることが目的なのかは不明だが、危険なタックルをかましている。
このプレーは開始3秒タックルと揶揄され、「町田は荒い」を裏付けるプレーの一つとされてしまった。

また警告は多くないものの、ファウルの総数は町田がトップとなっているのは事実である。

Jリーグ公式のファウル数ランキング

そしてこのような行為が後々大きく荒れる要因となっていく。

足元チャカチャカ

開幕前のインタビューで黒田監督が、「あんまり足元でチャカチャカやって、何本パスをつないで点数を取るというサッカーが果たしてサッカーかと言った時に、やっぱり日本の〝甘さ〟というのはそこにあるわけで。」とコメントした。

これがポゼッションサッカーのdisと捉えられる発言であることから批判が沸き起こった。

辞書によるチャカチャカの意味

Jリーグを連覇した川崎フロンターレの圧倒的なパスサッカーや往年のバルセロナなど、ポゼッション率の高いパスサッカーに憧れるサッカーファンは多い。
一方で町田は繰り返しになるがボールを奪ってのカウンターが主なスタイルであり、このスタイルで練度の高いチームを相手に中途半端なパス回しをすると、奪われてカウンターからの失点に繋がりやすい。
その指摘であり特に変なことは言っていないのだが、町田のサッカーを気に入らない層がいることや、その擬音が絶妙に苛立つと感じる人が多かったことが叩かれる要因となったと思われる。

そして今や、ポゼッション主体のチームが町田に勝利した際に「チャカチャカで勝った」、「チャカチャカに負けるってどんな気持ち?」といった相手サポからの煽りはSNS上でよく見かける光景となっている。

勝ち点目標

同じく東スポの記事であるが、黒田監督はチームの目標勝ち点は70台とコメントした。

一方で同じJ1昇格組の磐田の勝ち点目標に疑問を呈し、「このあいだ、ジュビロが勝ち点40なんぼとか出してたよね? なんでそうなるのかなと思ったけど…。70くらい言ってくれたらどうなのかな」とコメントし、このコメントに対しても批判が起きた。

2023年に優勝した神戸が勝ち点71、13位で残留した京都が勝ち点40という結果のように、勝ち点70台は優勝、40台はJ1残留のラインとされる勝ち点である。
2022年に1年でJ2降格した磐田が残留ラインの勝ち点を目標にすることは不思議ではない。一方で目標を高くしないと何も得られないと優勝ラインの勝ち点を目標にした町田もおかしなことではない。
ただ他チームの目標に口出しする発言であったことが非難に結びついてしまった。

黒田ジャンプ

5月の浦和戦で勝利し3連勝となった町田。
当日が54歳の誕生日であった黒田監督は試合後にサポーターからバースデーソングを歌われ、その後に海老反りジャンプを披露した。

直前のルヴァン杯鹿島戦の勝利後にも満面の笑みでジャンプをするなど、この頃はジャンプが多かった。

このいわゆる黒田ジャンプ、Jリーグ公式もよく使うなど微笑ましいネタとして消化され始めたのだが・・・

6月に町田に勝利した新潟のサポがスタンドで黒田ジャンプを披露。
以降町田に勝利したチームのサポーターの定番の煽りと化してしまった。
今やチャカチャカ揶揄と黒田ジャンプは他サポの煽りコンテンツである。

天皇杯筑波大戦

この試合は町田批判が閾値を超えてしまった出来事であるように感じる。

天皇杯で筑波大学と対戦した町田。だが大学サッカーの強豪校である筑波大はPK戦まで持ち込み、最終的に勝利するジャイアントキリングを達成。町田は天皇杯敗退となってしまった。
そしてこの試合で、町田は4人の選手が負傷交代となる事態となった。

黒田監督は試合後の会見で、「学生との一戦でしたけど、マナーの悪い一面もみられた。ため口であったり、大人への配慮もかけた。それに対して指導教育もできていない場面もみられた」。
「勝ち負け以前にサッカーにおいて怪我人を出すプレーに対して、選手生命を脅かすかどうかという点も含めて、しっかりと指導してほしい」
と、筑波大学に対して批判を展開した。

だが筑波大の小井土監督は、「多分、日本で私が一番この前の試合を見返したと思うけど、黒田監督がおっしゃったラフプレーで3人も4人もということはないと私は判断しますし、この組織を率いるものとして、はっきりとラフプレーによって相手が壊れたわけではない」と反論のコメントを行った。

そして逆にSNS上などで非難されたのは町田のプレー。
まず試合開始直後に、高橋大悟が筑波大の選手にぶつかりにいきファウルとなったのだが、このプレイにイエローカードが出なかったことにより、荒いプレーを誘発する原因となってしまったのではないかと指摘された。
なお町田OBの鄭大世は、「前半ファーストプレーの町田の高橋大悟のアフター気味に見えるプレイで、立ち上がりなのでカードを出しづらかったので、それが試合を通しての基準になりましたね。」とnoteに書いている。

そしてこのアフターチャージは、上記で触れた開幕戦でのアフターチャージと共通しているようなプレーである。
町田は荒いという従前からの批判、大学生に対して強い言葉を発した黒田監督のコメント、そしてこの試合でのプレーで町田批判は一気に噴き上がることに。
またこの試合の記事ではヤフーニュースのコメント数が数千件にのぼり、以降ヤフコメは町田の記事が出るたびに批判コメントが多く書き込まれるようになってしまった。

おそらく、以前に大きく問題となった日大アメフト部のタックルを連想させることも批判に拍車をかけていると思われる。

なお以下がハイライト動画だが、上記のプレーは全部カットされている。


「我々が正義」

「町田ゼルビアは決して悪ではないし、我々が正義で、言いたいことを言いながら、ダメなものはダメと訴えながら、しっかり貫いていくことが今の日本のサッカー界に必要なこと」

これは天皇杯直後に行われたリーグ戦の横浜Fマリノス戦に3-1で勝利した後のコメントである。

選手バッシングも見られる中での選手を守るための発言と思われる。
だが天皇杯での発言や行為が批判されている中、「正義」という言葉を使ったことで、火に油を注ぐ結果になってしまった。
批判は大きく二つあり、正義というワードチョイスへの批判、もう一つは筑波大を悪だと断罪しているとの批判である。
(後に筑波大のことでは無いと釈明も行っている。)

また今後は最低限の言葉しか発しないともコメントしたがその後喋らないということはなく、記者会見は普通に応じている。

藤尾のボール水かけ

パリ五輪代表にも選ばれたFW藤尾翔太。
この藤尾がPKを蹴る際にボールに水をかけるという行動をした。
水かけを初めて行ったのは5月の東京ヴェルディ戦でのPKの時。そして6月のガンバ大阪戦でも行った。

なおサッカーでボールに水をかけてはいけないというルールは存在しない。また水をかけることによる効果は不明である。
だがこの行為に対しては、ルールに反しなければ何をやってもいいのかという批判が起きることに。
(ネット上では「水掛け論」とも)

そして8月の磐田戦では、水かけに対して主審がボールを交換する事態となった。

この主審の行動に対してJFAの審判委員会は、主審の裁量の範囲内であるという見解を示し、「主審は、両チームフェアに、運営をし、その上でのジャッジは指示されるべき。主審はこの試合をコントロールする中で交換するという判断をした。僕は支持をしたい」とコメントしている。

この水かけは、町田はアンフェアプレイでダーティーなチームであるという批判の象徴的な行為として取り上げられるようになってしまった。
また分かりやすい行為である故か、様々なメディアでも大きく取り上げられることになった。

また藤尾はしばしば肘打ち(おそらく癖)でファウルやイエローカードを受けることがあり、批判に拍車をかける形となっている。

ロングスローフェイント

7月のマリノス戦での2点ビハインドの場面で、望月ヘンリー海輝はタオルでボールを拭くふりからの素早いスローインを展開し、これがゴールに結びついた。

このプレーに対しては隙をつく最高のプレーという感想がある一方、子供に見せたくない、道具を使ったトリックは卑怯という批判もあり、賛否両論となった。

相馬勇紀の移籍

町田躍進の中心メンバーであった平河悠が夏にイングランドへ移籍をした。
その後も優勝争いを繰り広げていた町田は、平河の穴埋めと選手層アップのために大型補強を敢行した。
中でも大きな衝撃をもたらしたのは日本代表の相馬勇紀の移籍である。
相馬は名古屋からポルトガルのカーザピアにレンタル移籍し活躍していたが、カーザピアが完全移籍の移籍金を支払えないために退団となってしまった。

だが地元紙の中日新聞が、名古屋に戻らず退団し、町田移籍有力と報道。

ただその直後に名古屋復帰が発表され、報道はガセネタだったという扱いをされていた。

だが名古屋で1試合出場後に、町田移籍が複数のメディアから報じられ、実際に相馬の移籍が発表された。
推定年俸は3.5億円とも報じられており、町田の資金力を見せつける形に。
相馬はロングスローも出来ることや、調布市出身で地元に近いことも獲得の理由と思われる。

なお契約期間が残り半年で一応移籍金が発生することや、復帰戦でゴールを決めたこともあり、SNS上では激怒ている名古屋サポーターはあまり見かけなかったが、ガッカリしたり応援出来ないという投稿をしているサポーターは当然ながら多いようだった。

町田はその後さらにイングランドのクラブを退団した日本代表の中山雄太も獲得。こちらも年俸3億円との報道があり、J1昇格1年目ながら資金力でも他クラブを上回るようになった。

タオル嫌がらせ合戦

前回記事でも上記でもロングスローに触れてきたが、ついに対戦相手もプレッシャーをかけるようになってきた。
8月の浦和戦では、浦和のコーチが町田がピッチ脇に置くタオルを撤去したり、タオルで自分の頭を拭くという行動に出た。

これに対しては、タオルをピッチの近くに一定間隔で置いていることから邪魔であるという町田への批判も、勝手によそのタオルで顔を拭いたりしていることへの浦和への批判もあった。

後に黒田監督は、「これは日本人の民族性なのか分からないけれど、勝手にそういう悪役にして、そいつらがやられる分には、どれだけ悪いことをされようとそれが黙認されて、『ざまあ見ろ』くらいの感覚でいる。こういう人間が世の中をダメにしてると思う」
「1年生だよ、1年生。それをいじめる先輩たちがいる」とコメント。
高校教員出身らしい表現であるが、この発言に対しても被害者面するな、どの口が言うかなどの批判がネット上でされていた。

さらに9月の広島戦でも、ピッチ脇のタオルへの嫌がらせが発生。控え選手のピエロスソティリウが、タオルに水をかけたり蹴り飛ばしたりしていた。

この件に関して町田はJリーグに要望書を提出している。

なお、普段は川崎フロンターレを主に追っているライターのいしかわごう氏が、町田は広島のウォーミングアップエリアにタオルを置いていたからこうなるという投稿をしていたが、後にそれは間違いであったと訂正を行っている。

報ステのトップニュース

9/29に、町田はHPで誹謗中傷に対して法的措置を行うことをリリースした。
また10/6には、日本代表の伊東純也の代理人弁護士も務める加藤博太郎弁護士の顧問弁護士就任と情報提供窓口の設置を発表。

誹謗中傷への対応は昨今様々なクラブで声明が発表されているが、町田は10/15に東京地検へ刑事告訴を行い、加藤弁護士による記者会見を行った。
なお会見は司法クラブというスポーツとは異なる記者クラブで行ったとのこと。
会見の中では「ヤクザ」「チンピラ」「存在が粗大ごみ」といった誹謗中傷が寄せられていることや選手の家族のSNSにも誹謗中傷のメッセージが来ていること、上記窓口に1000件もの情報が寄せられたと明かしている。

このニュースは大半のキー局、一般紙で伝えられた。

そしてSNSが大きく荒れたのは、この日の夜の報道ステーションである。

この日の報ステは日本代表のオーストラリア戦直後から放送が始まる流れで、日本代表の結果を放送した後に、関連ニュースとして町田の告訴の件を大きく報じたのである。そして普段の放送開始の9時55分頃から伝えたため、事実上のトップニュース扱いであった。

報道された内容としては、町田がロングスローや水かけなどで賛否を呼んでいること、黒田監督が広島戦後に広島がタオルを持ち去ったり水をかけたとコメントしたこと、ロングスローや水かけはルールで禁止されているわけではないことなどである。
また埼玉スタジアムの日本代表サポーターに、この件をどう思うか?とマイクを向けたインタビューも放送された。

この報道に対しては広島サポーターを中心に、広島を悪者にしようとしていると非難する投稿が多く見られた。
またAbemaTVがテレビ朝日とサイバーエージェントの合弁であることから、資本関係を利用して自分達を被害者にしようとしているという批判も多く見られた。
ただし報じられた内容はいずれも事実ではある。

なおこの日はTBSのnews23でもトップニュースで報じられ、翌朝には長く町田を応援している谷原章介が司会のめざまし8でも放送された。(めざまし8の放送内容はYouTubeにもアップされている)

記者会見まで行ったのは、一般ニュースとして大きく報道してもらうためではないかと推察される。

東京五輪やパリ五輪でアスリートへの誹謗中傷問題が大きく報じられたり、プロ野球DeNAの関根大気が自身に寄せられた誹謗中傷コメントの開示請求を行ったことが話題になるなど、アスリートのSNS上の誹謗中傷は大きく取り上げられる社会問題となっている。
会見まで行った町田の誹謗中傷もその文脈で取り上げやすい内容と判断するのは想像に難くない。
また代表戦と同日だったのも、関連ニュースにしてもらいやすいからという考えではないかと思われる。


以上が、開幕から今に至る町田の出来事です。
ここまでで6,800文字という長文になってしまったので、タイトルのなぜ叩かれるのか?という考察は次回③で書きます。

今回のお口直しは、海外移籍を果たした平河悠のプレー動画を。
町田がここ最近失速した要因として、平河の不在はかなり大きいと思う。