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ロマンポルノ無能助監督日記・第15回[小原宏裕監督『桃尻娘・ラブアタック』にちょこっと出演]

白鳥組『宇能鴻一郎の看護婦寮日記』が完成した0号試写の日(2/15)、東洋現像所(現イマジカ)の五反田で終わったので、カノジョと夕方待ち合わせ、日比谷公園の松本楼でカレーを食べた。
夜の日比谷公園でキスくらい、したか・・・
しかし、それ以上は・・無い。そういうことは、させてくれないカノジョ。

ロマンポルノの仕事の現場で、美しい女性のハダカを多数目の前にしながら、私生活では・・無い・・のが、「映画作家」を目指す者としてマズいんじゃないか、とコンプレックスになって来たかな22歳。
那須さんも「監督になるには、経験を積むべきだ」と言ってるし・・・なんて、理屈つけるな、普通に飢えてたでショ。

次の組が決まらないから、1週間以上は休みだ、勉強しろ、と言われた。ラッキー!

それで翌日、三鷹オスカーで『おもいでの夏』と『ペーパームーン』を見て、別な女子に電話して、翌々日、その人の住む某地方へ。
山口百恵の「いい日旅立ち」が流行っていたので、朝9時半に家を出る時、母から「いい日旅立ちね」と言われた。女子のところに行くとは言って無い。ディスカバージャパンの一人旅だと。
その学芸大じゃない人には、大学4年の夏休み、夜の井の頭公園でキスして引っ引っぱたかれたが、痛くなかった思い出が・・・

里帰りする時、東京駅まで送ったが、バイバイが可愛くて胸キュンだった。
地元で高校教師になっていた。
1年以上ぶり電話でも、「会いに行っていい?」と聞いたら、とても喜んでくれた。
東京からは遠いその地方に夕方5時に到着して、ひなびた喫茶店で待っていたら笑顔で現れて、また胸キュン。
・・・で、キラキラな恋をして2泊の予定を3泊にして、飛行機で帰って来て、カノジョとお茶して「名作小説の舞台に行ってみたくてさー」と言い訳して・・・信じてたろうか?

このことは那須さんにも報告してない。
てゆうか、誰にも言ってない。40年くらい経たないと、真実(?)は書けない。
「これが真実だ」とも言わないですけど・・・
男子同士でも、体験についての真実(?)は語り合わない場合が多い。
東大で学生結婚して離婚して今は才色兼備な真知子さんと再婚している那須さんの舎弟となり、“この人に、嘘は言えない”と分かっていても、
「金子は、(知っている女は)5人はいるな」
と、言われちゃったので、曖昧に笑って、「一人と一回だけです」とは言えず、そういうことにしておいてもらって、それ以上は聞かれないようにしていたし・・・
「生物はなぜ進化したか」や「進化とは何か」等を読んで、科学的な世界観とリアルな人生観をゴチャ混ぜにして話さないと、那須さんとは舎弟としても太刀打ち出来ない気がしていた。

帰って来て、小原宏裕組『桃尻娘2』が決まった。
橋本治原作の『ピンクヒップガール・桃尻娘』は、去年の入社の頃に大ヒットしており、そのパート2が、いよいよ入る、それに呼ばれた。
1作目には那須さんがサードに就いたので、現場の話はいろいろ聞いた。
小原監督のことは、「ファンキー」と呼び捨てにしていた。

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『看護婦寮日記』の現場には、GORO(当時人気の男性誌)が取材に来て、“ロマンポルノの助監督って何するの?”的な、面白記事が4ページにわたって載り、僕も、ふざけたノリでカチンコでGORO記者をしばいている写真が白黒で大きく載った。それが、地方の商店街でも本屋で出ているのを、立ち読みで、かの人に見せてウケたな・・・

外側から見ると、カッコいいことをやってるように見えてただろうか?
入社の時のような高揚感は、無くなっていた。
「セックス産業従事者」みたいに思われてないだろうか、と時々思った。
いつ、監督になれるのか・・・というか、いつ、監督にふさわしい“仕事人”になれるのか、って、実際は、どんよりしていたし、世間が狭くなっている気がしていた。いつも何かしら焦っている。

撮影所以外の人に接したくて、学芸大学の映研までバイクで行って、部室で後輩に日活の話を、面白おかしくした。
別に自慢したかったわけじゃなくて・・・

仕事が始まる前の日曜には、高田馬場で『暴力教室』『十代恵子の場合』『喧嘩道』の東映3本立てと、『さすらいの恋人・めまい』『おんな刑務所』の日活3本立てのうちの2本を見た。1日5本は、さすがに珍しい。
小沼勝監督『さすらいの恋人・めまい』は、自分たちの行為を見せて商売するという切ない話だったが、名作だった。
中島みゆきの「わかれうた」が主題歌になっていて、劇中何度も使われ効果的だったが、今では人気曲のこんな使い方は不可能だろうが・・・
「わかれうた」を聴くとこの映画を思い出す映画ファンはいると思う。

『桃尻娘』は見ていなかったので、撮影所での参考試写でスタッフたちと見て、なるほど、こりゃ面白い、と感心した。
“感性が、今の若者とピッタリ”という古い表現がピッタリ。
1は森勝さんの撮影だが、2は安藤正平さんに決まっていたので、安藤さんが見るための参考試写だった。

女子高生の会話が生き生きしており、実際に取材したのか、と思える。
今どき、そんなことは当たり前だろうが、日本映画では、これが初めてではないか。
このデビューの原作小説でワンシーン出演している30歳の橋本治の存在もあるが、後にテレビで売れっ子シナリオライターになる金子成人のセリフ回しも大きいだろう。

竹田かほりは、スキッとして高校同級生のクラスでは一番可愛いというタイプ、亜湖はポチャポチャしてファニーフェイスだが、スタイル良く、愛玩動物みたいに抱きついたり触りたくなったりするタイプという、凸凹コンビ感も面白い。

長くなるが、1作目をきちんと把握して2に向かおう・・・

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榊原レナ(竹田かほり)が、生理が来ないと、高校で心配しているところから映画は始まる。
大学生の先輩の外車(「国産車で大学に行くのは恥ずかしい」なんて言ってる軽い奴)に乗って、渋谷のホテルで処女喪失したら、血を見た先輩は「これっきりにしような。ゲームだから」と焦って逃げた。コンドームしてなかった。

同じ団地に住む同級生の田口裕子(亜湖)が家出した、と、一谷伸江の母親が慌ててやって来る。手紙にはレナの名前が残されていた。
家出の理由はレナには見当ついていた(図書室でのセックス議論で、レナは、セックスなんて勃起→射精だけだと、裕子にエロ写真を見せると、裕子は「不潔だ」と嫌がった)ので、自分の責任じゃないかと案じて、大きなスーツケースを抱えてあずさ2号(中央線)に乗って裕子を追いかけると、席の隣にはOLふうアンノン族が・・・

「アンノン族」というのは、女性誌のananやnon.noを読んでいる女性を、一括りにして、そう呼んでいた。
ananとnon.noの読者層は、実際は、随分違うのだが。
「あなたも安曇野に行くの?日曜日のあずさ2号に空席があるなんて珍しいわ。“狩人”はどっちが好き?お兄さん弟?」
ということを矢継ぎ早に聞いて来るのがウザい。白い帽子を被っているからnon.noの方だろう。(カノジョはこっちのタイプだった)
こういう人物描写は、当時、珍しく面白かった。
主題歌の出だしも「♪アンノンかーたてーにブーラリ、個性なく、旅に出ました〜」である。

監督の小原宏裕さん(ファンキーさん)は、風俗描写が得意とされていた。

あ・・・「風俗」描写という言葉も、今や違う意味に捉えられている。
ここでは“社会一般の流行現象など”を描写することで使っているが、“エッチなサービスをする店”という意味が強くなるのは、1984年の風俗営業法の大幅改訂からなので、この頃は、まだ「風俗に行く」という言い方が無かった。

映画は、時系列順では進まず、行ったり来たりするが、それがテンポを上げている。これも今では当たり前の映像文法だが・・・
後にレナの座席に座って来たのは、ムショから出て来た内田裕也と赤ちゃんを抱いた片桐夕子で、赤ちゃんをレナに預けて、走る列車トイレでセックスして、金沢に到着、以降は金沢ロケ編となる。

レナと裕子は、海辺で再会し、内田裕也と片桐夕子の家に泊まった二人は、彼ら大人の濃厚な行為を、障子の隙間から覗き見する。
その後、並んで寝るレナと裕子の会話で、何故裕子が家出したのかが分かる。
それは、裕子の初体験の時に、「コンドームして」と頼んだら、相手から「キミ慣れてるね」と言われた、ということで自分自身が分からなくなり、レナに言われたこともあって混乱し、家出したということだった。
レナは「あんた、よくそんな冷静に言えたわねー」と感心する。
これは随分、時代を感じさせるセリフと設定だ。

この後、内田裕也が、他にもいた情婦を刺してムショに戻り、赤ちゃんを抱えた片桐夕子の生活を助けてあげようと、レナは、内田の舎弟と一緒に、金沢の街で売春の客を探してあげたり、その客にお茶を出したりして手伝う。
一方、売春の仕事を知らない裕子は、赤ちゃんを背中に子守している時に、たまたま客を取っている片桐夕子の行為を見てしまい、ショックを受けて泣き喚き、またレナの前から去る。
レナは、心当たりのある京都へ追いかけ、後半は京都ロケ編になる。

これ以前、売春については、二人で話していた。
渋谷で売春をやってる女子高生の友達(クレジット無しの川島めぐ)と会ったからだ。その金額は、レナは「3千円くらいのもの」で、裕子は「10万円はくれるだろう」、と話していたが・・・二人とも、世間の常識は無いのだ。

京都では、レナは、同級生であるホモの木川田が、彼の憧れの滝上先輩(野上祐二。レコードも出している)と、旅行に来ているのに偶然出会う。
レナは、ホモの友達がいることを、自分の誇りに思っている。

一方、裕子は渡月橋で泣いていると優しい老人(八代康二)と出会い、ベチョベチョと抱かれてお小遣いを何万円か貰っていて、それを再会したレナに自慢する。
ズバズバ主張して発展家に見えても慎重なレナに対して、奥手と思われても、実際には破天荒に行動してしまう裕子、というコンビだ。

木川田は、いざとなると滝上先輩と、“そういうこと”になるのを恐れてしまい、レナと部屋を変わってくれ、と頼んで、レナは、彼がハンサムガイだったからか、殆ど葛藤無く滝上先輩とセックスしたが、したあと出血、滝上先輩は「処女だったのか!」と驚く。
レナは生理が来たことで、大喜び、ベッドの上で、全裸でヤッタヤッタ!と飛び跳ねるのだった・・・こんなラストシーン他にあったろうか、日本映画史上。

竹田かほりと亜湖の、芝居してるとは思えない雰囲気が、現代の女子高生ってこうなんだろうな、「俺たちの世界と地続きだ」と感じさせて、痛快な作品になっている。

ファンキーさんも、この作品で、世間的に名をあげ、ATGで『青春PART2』(南条弘二主演・競輪選手の苦みある青春映画)を撮った。(何故、いきなりPART2なのか、謎だが)(舟木一夫が、元競輪選手役で渋い演技を見せている)
オールスタッフ打合せの前日に、三鷹文化で見た。

しかし、この2=続編である『桃尻娘ラブアタック』の脚本は、同じ金子成人で、軽快なセリフは満載だが、全体を通してのまとまりが無く、なんでそうなるの?という展開が目立った。
原作には、もうネタが無くなっていて、殆どオリジナルだったのだろう。

今回は、裕子が実際に妊娠して困ってレナに相談する、というところから始まるが、相手の男は出て来ない。
レナは「男に全部払わせなさい、責任なすりつけちゃいなさい」というが、裕子は「男とは、お金からませたくないのよね〜」と。
「ママに言ったら?」と言っても「気ぃ狂うかもよ、ここ7階だから、飛び降りて死ぬかも」と。
この裕子のママも出て来ない代わりに、1作目のママだった一谷伸枝が、今回はレナのママになって登場する。

レナの発案で、中絶費用を、クラスの“処女同盟”から1人千円づつ集めようとしたら、8千円しか集まらなかった、つまり処女は8人しかいなかった。
ということで、もっと効率の良いバイトはないかと、ピンクサロンにホステスとして働きに行く(1日8千円保証)、という展開で、中盤はホステス編、後半は学園祭編、という構成だ。

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クラスにはおっとりした醒井(さめがい)さん(栗田よう子)というお嬢様がいて、その彼女が、ホームルームの時間に起立して、「わたくしは学園祭ではお化け屋敷をやりたいと思うんです。喫茶店より、お化け屋敷の方がコミュニケーションがあっていいと思うんです」と発言する。
この栗田よう子演じる醒井さんは、面白い。
クリスチャンだが、お化け屋敷ではマリア様になって、抱いているイエス様の赤ちゃんを齧って血だらけの口になりたい、と一人で盛り上がる。

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醒井さんは父親がピンサロ「ロリータ」の社長で大金持ちという設定で、その「ロリータ」の新聞広告を、レナが見つけ、醒井さんのツテで、レナと裕子は女子大生と偽って「大学で専攻している社会風俗研究のために1週間だけ働く」ということで、ピンサロに乗り込むのである。
旧松竹〜大映所属俳優で昭和ガメラにも出演していた山下洵一郎マネージャーが、「社長のお嬢さんのお知り合いなので、よろしく」と他のホステスたちに紹介する。

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助監督チーフは浅田真男さん、セカンドは天敵(?)白石宏一さんだが、この時はもうお互いのことは理解していて、「ネコちゃん、予告やる?」と言ってくれた。
「はい。やらせてもらいます」
と、言って、予告のファーストカットは、ラストの学園祭のディスコで撮った。
この頃大ヒットしていた「Y.M.C.A」をもじって「Y.M.P.H」
ワイセツ、モーレツ、ピンク、ヒップ、というゼスチャーを主演の三人とエキストラにやらせて、その通り字幕を入れた。
かの地方の人とも、その土地のディスコでYMCAを踊った。
「なんで、こんなとこまで来て、YMCA踊ってんの?」と笑われたが、やっぱり、経験は作品に直結するもんだな・・・経験をつむことだよ・・

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この予告で醒井役の栗田よう子さんを真ん中にしているのは、僕の趣味だ。
栗田さんは、高校の美人同級生のような親しみを感じていて、6年後の『みんなあげちゃう♡』でも、薬屋の美人店員からコンドームを買えないという場面で出てもらった。
醒井さんみたいなお嬢様というのは、その後、僕の映画に何度も出てくるが、ここに原型があると告白しておきマス。

その他、助監督としての役割は、「醒井さんが齧る赤ちゃんの形をしたパンを作れ」ということと、「お化け屋敷のガイコツを調達しろ」というものだった。

三鷹駅前にツルヤベーカリーという大きなパン屋があり、頼みに行った。
日活の装飾部が石膏で作った赤ちゃんを持って、お店で型取りしてもらってパンにして焼く。
中にはジャムを入れて、齧ったら血のように流れ出る、というものを作った。
これを撮影の当日朝に、二つ焼いてもらったのを僕が取りに来る、という話を、営業の人として、正式に発注した。

ガイコツは、母校三鷹高校の理科準備室のものを、バイクで借りに行った。
良く貸してくれたもんだな・・どういう理屈で借りれたんだろうか?

撮影は、3/14日活芸術学院を改装して「デモシカハウス」という喫茶店にしたてあげ、そこのマスターが橋本治さん特別出演で、裕子の噂をするシーンからインした。
翌3/15、熱海へのホステス慰安旅行を二泊三日でロケ。
大東館という旅館にロケ隊は泊まり、撮影もして、宴会もした。
「宴会で“新宿そだち”を歌う」と書いてある。何で、そんなことだけを書き残しているのか・・・

ここで、ホステスたちは、普段はお客に性的サービスをしているので、慰安旅行ではハメを外し、自分たちの性欲を満足させようと、同僚の男性従業員を集団で襲って犯す、というのをお祭り騒ぎのように描いているのが、今だとそんなものは男の身勝手な妄想だ、と批判されるであろう。
(ホテルの表周りや廊下、露天風呂はロケだが、そういうシーンは後日、部屋のセットを作って撮影された)

ナンバーワンのホステス原悦子も、呼び込みの従業員を部屋に呼び、寝ている掛け蒲団を外すと全裸になっていて、セックスさせた後、お金を与え「ありがとう、久しぶりに感じたわ」と言う。
ロマンポルノでしかあり得ないシチュエーションであろう。
(これもセット)

あり得ないという意味でいうと、レナと裕子が店で人気が出てしまい、不人気のエマが辞めさせられるというのを聞いたレナが、マネージャーの部屋へ乗り込んで、誘惑してセックスする。

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そして、した後、自分は高校生だと告白して、「エマさんをクビにするなら、高校生をピンクサロンで働かせたって、わたし、警察に訴えちゃうから」と言って、マネージャーを脅し、「わかった、エマはやめさせないよ」と、言わせる。

これは、レナのセックスシーンを確保するために無理矢理作られた話、という気がする。
実際、この映画の中で、裕子の亜湖は何度もヌードやセックスシーンがあるが、レナの竹田かほりのヌードは、醒井さんの家でシャワーシーンが一度があって、セックスシーンはここだけになる。
こういう物語作りは、ロマンポルノではよくやられていて、監督になってから自分でもやったが、「レナが裕子の中絶を助ける」本筋を追ってゆくと、レナのセックスシーンなど必要では無くなるので、エマの話も作り、慰安旅行という非日常のなかで、レナも開放的になっている、とするために、他のホステスたちのお祭り騒ぎを目撃する、という前振りをしておいた、ということだろう。
だから、楽しんで見ていけば、そんなに不自然には感じないように撮っている。
脚本上では問題あって納得出来なくても、演出で見せ切るという方針だ。

この「旅館の一室」のセット撮影は1日がかりだったが、取材が入って、ちょっとナーバスな雰囲気であった。

監督から、山下洵一郎の旅行鞄が無いとか、テーブルの上のつまみが足りないとかのオーダーが出て、何度も装飾部と行ったり来たりして、撮影中断が長引いたが、これは、時間をわざとかけて、取材をやり過ごすための作戦だった、と後からファンキーさんが言った。

マネージャーをベッドに誘うために、足の痛いふりをしたり、お腹が苦しいから帯を外してと言ったり、というのは脚本には無かったと思う。

そうやって、ベッドシーンまでの間を稼いで、夕食時間となって、記者は帰るはず・・・
ところが食事休憩が入る時に、白石さんが「食後はポルノ3カットになります!」と大声で言ったものだから、ファンキーさんは怒り、
「かほりに気を使ってるんだからさー、気づいてないのは演出部だけなんだよ」
と言って、白石さんは、うなだれた。

食後、記者を帰して撮られたポルノシーンと言っても、“行為の動作過程”は分かるものの、竹田かほりの胸が一瞬露わになる、という程度のソフトなものだった。でも、しっかり、どんなセックスをしたのかは分かる撮り方。

ロマンポルノ文法的に、大事にされるのは、男女の動きの流れの自然さで、男が胸にキスしたら女の顔アップで「♡」と反応があるとか、挿入前には足を広げて「割って入る」とかで、この時「割って入る」という“専門用語”を学習した。

ピンクサロンのセットでは、ファンキーさんから、「金子、客やってみない?」と言われ、出演した。
亜湖の隣りで緊張していると、ビールを股間にこぼされ、それを手で拭かれて勃起、溜まっていたものを「ああッ!」と一挙に放出してしまう、という役で、その通り真面目に演じたら、ファンキーさんは大喜びしてくれた。
僕も、やっていて爽快で楽しかった。・・・カチンコ叩くよりずっと。

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このピンサロで「幾ら稼いで、そのお金で裕子は中絶した」とかの一切説明は無く、醒井さんの命令で、ヤクザ風の男たちが学校に現れ、お化け屋敷のセットに使う竹だとか、ベニヤだとか、道具類をトラックで搬入して来て、以降は学園祭編になって、ピンサロの話には戻らない。
確かに、上の話を説明しても面白くなる訳では無いから、こういう省略は、娯楽作としては必要か、と思った。

親や、外からの客で賑わう学園祭当日、お化け屋敷では、ピンサロ「ロリータ」と書かれた提灯がぶら下がり、顔につくと気持ち悪いコンニャクのかわりに、水を入れたコンドームが吊るされている。

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そして、ママたちが中へ入ってゆくと、レナはろくろ首をやっていて、醒井さんのマリア様が現れ、その撮影日の朝5時頃だったか、バイクでツルヤに取りに行った赤ちゃんパンをマリア様が齧る、と、ホモの木川田と先輩が、「こわいね、こわいね」と、恐怖する。

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その後、レナが気づくと、お化け屋敷内には皆いなくなっており、赤ちゃんパンも床に置かれたままになっている。いったいどうなってるのか、と苛立って暗幕を剥がすと、醒井さんも、裕子も、机の下で、吊るされたコンドームを使ってセックスしていた・・・

そしていきなり学園祭ディスコとなり、「♪ファンキーファンキーファンキーディスコプリンセス」と音楽が流れる。これはゴキゲンなスコアだ。
織田哲郎が歌った「fanky disco princes」である。
『桃尻娘』パート1の時から、音楽は、この後急激に有名になるビーイングを設立した長戸大幸で、奥さんの亜蘭知子が作詞して、主題歌を歌っていた。
これは、ファンキーさんへのプレゼント的な歌詞だったのではないかな、違うかな・・・

このシーンで、前にも書いたが、『高校大パニック』のエキストラ高校生で一番可愛かった森村陽子が候補に上がっていたので、ファンキーさんに推薦して、踊っているレナの前に現れ「先輩のこと、前から尊敬してました。お姉さんになって下さい!」と言う役を演じた。
レナは「いいよ!」と一緒に踊ると、それを見た同級男子が「あー!、桃尻がレズってる」とヤジる。
更にホモの木川田とレナが踊ると、「レズとオカマが踊ってる」とヤジられる。
それをレナのストップモーションで受け、音楽がパッと止み「わかってないねガキンチョ、レズとオカマの友情こそ、最高の人間関係なんじゃ」というナレーションで、映画は終わる。

理屈は良く分からないが、レナなりの人生観が、お祭り気分のなかで発散されたラストだ。
お化け屋敷の後半からは、辛うじて物語は繋がってはいるが、イメージショットの積み重ねのような演出で、ある意味、斬新、ある意味、いい加減。ファンキーさんは、よく、そう言われてたが・・・

ファンキーさんは、自分で、「俺は予告編作りの名人で、カットくずのファンキー、って呼ばれていたんだ」と言っていた。
カメラがブレたりして使えなくなったカットくずを予告編の中に挟み込み、編集にリズムを出すのが得意だったそうだ。
映像の流れの感覚を、独自に持っていて、脚本が不完全な場合は、その感覚で、本編も予告編のようにサービス精神で、強引に繋げていった、という気がする。
『桃尻娘』1は傑作だが、2の『ラブアタック』の物語展開は疑問で、いろいろおかしなところはあるが、完全に古臭くはなっていないのは、そのためではないか。

撮影は4/5まで、実数16日間。公開は4/28〜のゴールデンウィークに、藤田敏八監督『もっとしなやかに もっとしたたかに』と同時上映されてヒット。引越しを手伝った押井守さんと池袋北口日活で超満員で見た。ただ、キネマ旬報ベストテンでは、前作が9人に投票され(川本三郎さん3位)22位だったのに対して、今作は宇田川幸洋さんのみ7位に投票して57位。(『もっとしなやかに〜』は11位)

僕はファンキーさんに気に入られたようで、この後6本の小原組に就く。
脚本も『ズームアップ聖子の太腿』と『スケバン株式会社やっちゃえお嬢さん』と二本書かせてもらった。

飲みの席で、「いつか金子の時代が来るよ」と言ってくれたことがある。

84年に三好美智子さんと結婚された時、披露宴用に、レポーターの藤田けい子さんにも出てもらって15分のビデオを作ったのだが、「ファンキー・ミコ結婚披露パーティ」の本番で、何故か音が出ず、痛恨の極み、申し訳ないとしか言いようが無い。
吉永小百合さんの、おめでとうメッセージはちゃんと聞けたのに・・・

結婚からちょうど20年経った2004年にファンキーさんは亡くなり、乃木坂のコレドで行われた偲ぶ会に披露宴以来の三好さんとお会いし、大人になっても雰囲気が変わらない竹田かほりさん、亜湖さんの二人も来て、
「私たちの青春を輝かせてくれた小原監督には、本当に感謝しています。一生懸命、夢中でやっていました。ファンキーさん、ありがとうございます」
と言ってくれた言葉が嬉しかった。


…to be cotiued

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