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ロマンポルノ無能助監督日記・第21回[根岸吉太郎監督・鹿沼えり主演『朝はダメよ!』撮影中に『影武者』見る]

僕の日活入社初仕事は、初監督に昇進した根岸吉太郎組のサード。
舎弟として慕っている那須博之さんはセカンドだった。

その『情事の方程式』(78年6月公開)の現場から丸2年が経った。

2年の間に・・・
根岸監督は2作目『女生徒』を、アイドル的な可愛さの新人女優・大谷麻知子主演で、咋79年1月公開し、会社の評判は良かった。
3作目『濡れた週末』は、日活エース女優・宮下順子主演で同年9月公開で、これも傑作と名高い。
4作目『暴行儀式』は、ヤンキー女優・沙貴めぐみ主演で今年80年2月公開。
これは・・・後で述べるが、デビュー以来2年間で4本撮っている。

5本目が『朝はダメよ!』で、セカンドで就く事になった。
29歳の根岸監督が既に5本目、というのはいかにエリートなのか分かるでしょ。
那須さんも、この作品で初チーフに昇進。
4年でチーフだから、那須さんも出世が早い方だ。
思い返すと、那須・金子で一緒に仕事をした、というのはこれが最後になる。
この後は、仕事はなかったが、インド、タイ、インドネシアにバックパッカー旅行に行ったり、チョイ悪遊びを教わったりして、精神的に深くつきあうことになるのである。

イン前のオールスタッフ打合せは、チーフの那須さんが司会進行したが、自分の名前を言う時に、
「博之のユキは、あいうえおの“え”に似ている」と大真面目に説明するので笑ってしまった。
やはり、那須さんでも緊張するのか、と思った。
しかし、根岸さんをどう思っているのか、脚本をどう思っているのか、は殆ど話さなかった。
好き嫌い関係なく、仕事として全うする、という態度であった。
・・・好き、では無かったと思うが(゚∀゚)

80/4/25~5/13のうち12日が撮影日。
ほぼ、2年前の『情事の方程式』の現場と同時期だ。

間にゴールデンウイークを挟んでいるから、4/29天皇誕生日、5/1メーデー、
5/3憲法記念日5/4日曜日5/5こどもの日、という「飛び石連休」は、きちんと撮休になった。
この間、2年前から続く「にっかつスタジオまつり」が開かれている。
・・・「飛び石連休」という懐かしい言葉を使って、ゴールデンウイークの説明をする時代になるとは・・・すっごい昔話をしているんだな、と時々思う。
撮影は破綻なく順調に進み、スケジュールの組み方は那須さん上手い、と感じた。休み多いし。

ゴールデンウイークというのは、もともと映画会社が発案した言葉で・・という説明はよかですね・・

実は根岸監督、4本目の『暴行儀式』の会社の評判が悪く、興行成績も最悪だった、というハナシは、既に撮影所内に広まっていた。

僕が見ても、2作目『女生徒』は「都会的センスで苦い青春を描いた佳品」、3作目『濡れた週末』は「新人らしからぬ老練な演出の中にも新鮮な味付けがある佳作」という評価で、後者を傑作と言う人も多く、若き巨匠への階段を順調に登っている感じであったが、4作目『暴行儀式』となると・・・

道交法が改正され、地元の暴走族は解散したので、運転免許は取ったのに暴走族になれなかった四人の少年が、一人の少女と潰れた映画館をアジトにして、女を引っ張り込んで暴行を繰り返す・・・荒井晴彦さんのオリジナル脚本だが、全共闘運動へのオマージュというか、“集団挫折”というか、ポルノチックではない内容で、こういうものに対して、日活の重役たちは敏感に反応して、抑えにかかる。

これが、「政治的メッセージになっている」というほどでは無くて、ドラマに組み込まれてエッチな情欲を呼び覚ますなら良く、だから脚本が通っているわけだが、エッチにならず、運動の挫折感を連想させるだけという、「作家的」テーマがエッチより目立ってくると、ウルサクなるのが日活の重役たちであった。

合評会で、どんなことが言われたのかは知らないが、紛糾したようで、同期の企画者・山田耕大によると、この後「根岸・荒井を干せ」と言われないように、会社ウケする企画をやらせよう、と試みたのが、この『朝はダメよ!』なのだそうだ。

つまり、とにかくイヤラしく、会社ウケする企画で、内容は“毒にも薬にもならない軽いコメディ”として企画されたという訳だ。

主演は78年『時には娼婦のように』で日活主演デビュー以来、2年で9本目の出演作になる鹿沼えり27歳。
この2年後、古尾谷雅人と結婚した。

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もともとは高校在学中にスカウトでタレントになり、76年には「秘密戦隊ゴレンジャー」のレギュラーになっていた。
変身ヒロインという訳では無いが、ゴレンジャーのサポート役として、2年にわたる番組中、二回だけモモレンジャーに変身しているという記録がある。

物語は、下着会社のOL・美希=鹿沼えりの、キャリアウーマンがエンジョイする“セックスライフ”で、僕は、イン前に浅草橋にある女性下着会社「ラブロン」に取材に行っている。
「御社のOLは御社の下着を毎日着けているのですか?」というような取材だった。

映画のファーストシーンは、朝日が差し込む窓から都会が見渡せるラブホテルのベッドで目覚める美希が全裸のまま伸びをすると、シーツから手を出して乳首をまさぐるエロジジイの小松方正が現れ、「もう一度、ダメぇ?」なんて気持ち悪く甘えてくる。そこにタイトル。ビートのきいた三枝成章による都会的な音楽がかかる。昨夜は美希は、このジジイの前で大いに乱れたらしい。風呂内でジジイに抱きつくインサートショットが入る。

4/25インの日は、この次のシーンにあたるセット撮影で、美希がタクシーでアパートに帰って来ると、そこには洋子(江崎和代)がルームメイトで同居していることが分かり、二人の軽快な会話で、美希が、しょっちゅう朝帰りしていて、自由奔放なセックスライフを楽しんでいる、ということが分かる。


ドアを開け、入ってくる美希につけてズームバックし、洋子も入れこんで、美希は、パンティ、ブラジャーを急いで取り替え、今日の出勤着を着て座り、洋子のいれたコーヒーを飲んでパンをぱくつく、という1分ちょっとのカットであるが、洋子が昨日の男に泣かれた話をして“強い女”のキャラクターを出しながら、美希はカメラに背を向けてパンティを脱いでお尻を見せたりする段取りが幾つもあって、二人の動きを溌剌と見せて、その生活と友人関係を感じさせる面白いカットだと思ったが、江崎和代は初の根岸組ということもあってか緊張しており、本来、上手い人なんだろうが最初は硬く、発声が良過ぎる。舞台的だ。だが、二人の芝居が次第にこなれてきて、自然な雰囲気になり、テンポが出てくるまで、何度もテストを繰り返して、それなりに時間はかかったけれど、カメラが回る頃にはいい雰囲気になって二人は生き生き見えてきて、上手く演出しているもんだな、さすが根岸さん、と僕は思って見ていた。

カメラは鈴木耕一さんで、その後、森田芳光さんの『ピンクカット太く愛して深く愛して』も担当した。
照明技師は川島晴雄さんで、『炎の舞』『看護婦日記いたずらな指』と仕事が続いていた。照明配備指示が早いだけでなく、現場の雰囲気を作る人、というか、明るいチョビ髭のお洒落で、冗談を飛ばしながら仕事を楽しんでる風情であった。

この川島さんが、このカットが終わって根岸監督がOKを出した瞬間に、
「ワンカット2時間もかかってちゃダメだわ」
と呟いたが、地声が大きいので、誰にも聞こえて、もちろん監督にも聞こえたろう、というか、聞こえるように言ったに違いない。

どぎつい言い方では無く、ひょうひょうとした言い方だったから、刺々しい雰囲気にはならなかったが、スタッフが現場で、公然と監督を批判するような事を言ったのを初めて見たのでドキッとした。

演出部の思いと、それ以外のスタッフの思いって、ずいぶん違うんだな、と分かった瞬間だった。

こちらは、俳優の芝居が、フィルムを回すまでのレベルになっているかを見ているので、それなりの時間がかかるのは当然と思っているが、スタッフ側は、ほぼ常に、“撮れるものは早く撮れ”という気持ちなのだ。
しかし、それにしても、監督とは初仕事の女優二人が、朝イチから始めている1分以上の長いカットが2時間かかっても、いいじゃないすかねえ・・切り返して、洋子がパセリを齧りながら美希を見送る、という計2カットでワンシーンを午前中に撮ってるんだから、そんな文句言うほどでは無いじゃないすかねえ。

2年前、根岸組の現場には、スタッフ全体で、新人監督の根岸さんを盛り立てよう、という雰囲気があったが、今、それは無い。
なんというか、「普通にちゃんと仕事しろよ」とでも言うか、敵対してるのでは無いが、味方にもなってない、というか・・・
エリートで出発したかも知れないが、ちょっと失敗して、お仕着せ企画を撮らされている、本当に才能があるのか、見ているぞ俺たちは、とでもいうか・・・スタッフはそういう事情は察知して、時には夢中に頑張るかと思えば、時には「お仕事」として割り切ったりしてしまう。
或いは、ベテランの川島さんが、まだ新人の部類の監督を「教育する」ような気持ちで言ったのかも知れない。「残業無いように早く撮れよ」とでも言うか・・
俳優の気持ちは、あまり関係ない。
これが、東映とかだと全然違うのではないだろうか。もっと役者中心の現場になるだろう。

日活では、この時点では、“俳優部はスタッフの一員”、という考え方が浸透しているから、江崎和代の本来の芝居が見えてくる2時間というのが、無駄な時間に思えたのだろうか。

その後、江崎和代は脇役として重宝がられ、40本のロマンポルノに出演、41本目が、僕の『ラストキャバレー』(88年)だ。
那須さんも、88年『ビーバップハイスクール高校与太郎完結編』で使っている。

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根岸さんは、この作品の次に日活で『狂った果実』を、続いてATGで名作『遠雷』を撮ってヒットして評価も高く、数々の映画賞を獲ってキネマ旬報ベストテン2位となり、その名を不動のものにする。
この時、既に荒井晴彦さんとの脚本打ち合わせが進行していたであろう。

(記事アップの後、荒井晴彦さんよりご指摘があり、忘れていた『狂った果実』をつけ加えましたが、更に、『朝はダメよ!』の当時は、まだ『遠雷』の企画が決定していた訳ではなく、同じ原作者の中編を、岡田裕さんと検討していた頃ではないだろうか、ということです)

那須さんから、根岸さんは次にATGで撮るらしい、という話は聞いていた。
だが、それがどんな作品なのか、成功するのかは、この次点では誰にも予想出来ず、なんか次はよそでやるらしいよ、気持ちはそっちにいってるんじゃないの、と思っていたスタッフはいたと思う。
実際、僕が耳にした言葉がある。
「あの不真面目な態度」
これは、監督には聞こえない陰口だが、助監督に聞こえるように言われた。

それは、飯田橋辺りのロケ場所で、もう一つのシーンが撮れるじゃないか、と、確か那須さんが監督に進言して、結果そうなって、効率が上がって良かったのだと思うが、その時、根岸さんが・・
「映画って、簡単だよな」
と、うそぶくように呟いて、それが、スタッフに聞こえたのだと思う。

スタッフって恐ろしいわ、と思った。

根岸さんの呟きは、事前の構想に縛られて、エネルギーが無駄に費やされるところを、進行してゆく現場の事情で変更して効率的に撮影して、“意外に、悩むほどではなかったじゃないか、面白いものだ”という意味であったとしても、エネルギーが無駄になってもいいから監督の構想通りになるよう努力していたのに、“簡単という投げやりな言い方はなんだ”、“スタッフを軽視してるのか”という思いとのすれ違いになったようだ。
スタッフも簡単になった方が良いのが分かっているのにも拘らず・・
面倒なことで・・
これが、「監督自らの決断」によってロケ場所が統合されて効率良くなるということだったら、スタッフは、監督も考えてくれてるんだなナルホド、と思って着いてゆくのだからさー 紙一重じゃん。
「この方が早く撮れるぞ、どやねん」と威張ればいいわけで・・・

さて、この映画の若い主人公たちだが・・それは根岸さんの掌にあった。

美希の会社の後輩OL典子=大崎裕子は、社内ではプレイボーイで有名な宣伝部の辻本=北見敏之と付き合っていて、辻本の方は「遊び」だと美希に公言しているが、典子は彼と一回だけセックスして生理が止まったので、辻本と結婚したいと思っている。
そんな話を美希はテラスカフェで、典子から聞き出した。

美希と辻本は、「そろそろ(私を)食べる?」「最近変なもの食べて腹こわしちゃって」「いつやるの」「いつかな」と軽口を叩き合う友達のようだが、内心ではお互い好きなのだ、と分かる。
辻本役の北見さんは、ゴールデン街のお店「はじき」だったかのカウンターでバイトしていて、俳優課から、「ゴールデン街のお兄ちゃん」などと呼ばれていた。

こうした若者配置は、テレビのトレンディドラマの原型みたいだが、会社の描写や、大人たちが絡むと、古色蒼然たる世界が侵食してくる。

部長は、OLたちのスカートを、次々まくしあげて下着を点検し、きゃっきゃと言わせるし、辻本は宣伝部員として「女性は多かれ少なかれ露出狂ですから」なんて、訳知り顔に言っている。
今だったら削られてしまうセリフだろう。
だが、多分、こういう描写が会社にウケる。

更に会社ウケ狙いは、小松方正のエロジジイ三崎で、庄司三郎の秘書を通じて、美希に毛筆で書かれた「愛人契約書」を送ってくる。財産は百億以上ある、という設定だ。マンガ的だが、演じる小松さんは、若いキャストに混じって、相当の違和感がある。

洋子が美希のマネージャーとなって、料亭で同席して、三崎と交渉する場面があるが、セカンドの仕事として、僕が契約書の文面の原稿を書いた。
大まかなものは台本にあるが、セックスに関わる詳細条文を、ここに書くのも恥ずかしいくらいの馬鹿馬鹿しい文面なんで、カット。
「・・・圧迫感を減ぜぬこと」だって、書いちゃったが。

小松方正さんの芝居は、他の人とは異質で、僕も『イヴちゃんの姫』で出てもらったが、絵に描いたようなエロジジイを演じて、とても自然には見えないし、ほとんど監督の言うことは聞かないで勝手に進めてしまうが、セックスシーンで、女優さんをカメラから見えやすいような姿勢を取らせるのは、長けているようだった。

江崎和代の洋子は、美希に合わせるために経験豊富なふりをしているが、実は処女であり、美希が辻本のところへ行ってしまって、「愛人契約に違反したぞ」と怒っている三崎を、マネージャーとしてなだめるため、アパートに連れて帰ると「君が美希の代わりだ。実はな、わしゃ君が前から好きだったんだよ」と言って、襲いかかる。

泣きながら抵抗する洋子を全裸にして挿入、「なんだ、はじめてか?」と言うと洋子は「お願い、美希には言わないで」と言って、三崎は優しくなり、行為を続ける。
この時、小松さんは、江崎和代の綺麗なカラダを上手くカメラに見せながら、セックス演技をした。芝居はやり過ぎだが・・・
そして、最後には、二人は結婚することになる、というオチになる。

一方で、美希は辻本とセックスしたい気持ちがありそうな気持ちを隠して部屋に行き「子供どうするの?典子いいコよ、結婚しなさいよ」と言うが、辻本は会社をやめて(お決まりの)ニューヨークに行くつもりだと言って、二人の想いはすれ違い、ケンカになってしまう。

美希は部屋を出てプリプリと自分のアパートに帰る途中で、向かいのアパートの(必ず出てくる)浪人生・寺田=村尾幸三と出会って、いつも窓から見えていて物欲しそうにしている彼のアパートに行ったら即、「やらせて下さいよ!」と襲いかかってくる寺田をひっくり返し、「じゃあ、やらせてあげるわよ」と、攻撃的に脱がせて行為をすると、「痛い!乱暴しないでくださいよ」と逆に言われ、早漏発射で果てさせる。これは痛快だ。

部屋に帰ると、三崎と洋子が結婚する話をしており、洋子のバージン告白に驚いた美希だが、お祝いをしてあげて、洋子が部屋を出ることになるから、その前に三人で宴会しようと、乱痴気パーティとなる。

翌日、会社で典子がトイレに行って、生理が来たと分かると、美希はホッとして、その晩、もう一度辻本の鍵の空いている部屋に忍び込み、彼がヘッドホンで気づかない間に、ソファに座っている。
典子に生理が来たことを教えないまま、美希は辻本にキスして、セックスが始まる。これは肉弾戦のような激しいセックスとなる。

終わった後、辻本が「終わってから言ってもしょうがいけど、大丈夫?」と聞くが、美希は「いいよ、出来たって」とさっぱりして、辻本が「いっぺんに二人の子持ちになんのか」と言うと「そうよ、みんなこいつが悪いんだ」とガバと股間にくらいつくと「また出来るね」と、肉弾戦再開。

そして朝まで・・・美希が部屋に来てから、映画はほぼ10分間、やりっぱなしのシーンが続いてゆくラストになって、辻本が「もう死んじゃうよ」と言いながらも、またやり続ける・・・

で、いきなり話題が変わるが・・・

撮休の5/1に渋谷で見た『影武者』は衝撃だった。
いま、やってるのと同じ「映画」なんである、これも。
黒澤明は同時代に生きている・・・という衝撃だった。
同時代で見られた黒澤明は、中学生の時に『どですかでん』、大学生の時に『デルスウザーラ』しか無く、『天国と地獄』『生きる』『七人の侍』等はリバイバル上映だった。あとは文芸坐や並木座で全部見ていた。

『影武者』も、それまで予告編を何度も見ていて、こりゃ流石にツマランだろう、と想像していたのだが、緊張感の続く映像美と、物語の面白さにグイグイ引き込まれ、最後は影武者の気持ちに同化して、武田家に殉じている気分になった。
渋谷の街に出ると、メーデーの行進の足音が、武田の軍勢の行進のように、耳に残った。
・・・あ、組合の動員かかってたんだ、メーデーさぼった。

翌日、『朝はダメよ!』の撮影に戻っても、ボーッとしていた。
・・・いつもボーッとしていたのだろうが、更にボーッとしていたであろう。
「こんなことしてちゃダメだ、黒澤明になれない」なんて、思っていたわけではない。「ロマンポルノと黒澤明の距離に絶望した」とかでも全く無い。
むしろ、「黒澤と、こんなに近いところにいるんだ」という感じがしたから、ボーッとしていたのではなかろうか。

若いスタッフにも「影武者見た?」と聞いたが・・・
驚きだったのは、世評が悪いことだった。
新聞も批判的で、「駄作」とか「愚作」とか書いている人が大勢いた。え〜ッ!?
助監督同士でも、批判がされていたが、下らない批判で納得出来ない。
騎馬隊の軍勢が鉄砲で撃たれて倒れてゆくところが無いのが、何故いけないんだ、そんなシーンは見飽きてるだろ。誰が撮っても同じだが、この省略は大胆で呆気に取られる。でも、それまでは凄く面白いだろう、え?面白くない?うそ。
前の黒澤作品と比べて、って、なんでみんなそう言うの、比べる必要ないでしょ、これはこれで傑作なんだから。

那須さんも興奮している。すげえよ、って。

『朝はダメよ!』に就ていたスクリプターの秋山さん、ひとこと、
「素人は、いかに黒澤が演出しても素人だね」
あー、それはそうかも知れない。
徳川家康を全くの未経験者にやらせているのは確かにちょっと・・・しかし、小さな傷にすぎないだろう。

そんなことを考えながら、カチンコを打っていた。

ロケの休憩時間に入った喫茶店で、ATG作品の話題となり、詳細は全く話されなかったが、根岸さんは、
「これが流れたら、夏をどう過ごすか・・・」
と言っていた。
『朝はダメよ!』が終わったら、スグ入る予定なのか? とは聞けなかったが、上目使いに様子を伺う助監督。もっと、教えてくれないかなあ・・どうしたら、他社作品をやれるのか。

だが、やはりこの年は、事情は分からないが、本格的製作には至らず、『遠雷』は、根岸さんが神波史男さん脚本による『狂った果実』でまた評判を取った翌81年(4/24公開)、日活を出て、フリー第1作として撮影、公開(10/24)された。

2年前のスタジオ祭りにはカノジョを呼んだが、別れて半年以上経ち、「一般女子」とはもう出会いの無い状況になっていたので、撮影所の近所に住む三鷹高校同級生女子を久しぶりに呼んで、スタジオ祭りを案内して見せた。

高校では8ミリ映画を一緒に作って、萩尾望都のマンガを「金子くん読みなさいよ」と言って教えてくれた人だ。超一流企業のOLになっているので、OLの実態を取材する気持ちもあった。

性格は変わってないスルドイ教養人で、今でも頼りにしてる友人だが、この時は目を引く美人に華開いていて、スタジオではスタッフからはニヤニヤ見られて、フフフとなった。
英語が得意なので、『ピンクカット太く愛して深く愛して』の時にも、また来てもらって、伊藤克信が聴いてるラジオの英語を喋ってもらった。
彼女の結婚観なども聞き、実際の丸の内エリートOLと、いま撮っている映画のOLとは随分違うもんだな、と思ったのである。

撮影とアフレコが終わっての5/16朝10時から試写室で行われた第一回編集ラッシュでは、「なんだ、このダラダラした展開は」と思うほど、退屈なものになっていた。
やっぱりダメなのかぁ・・

ところが、根岸さんが、「あそことここを入れ替えたい」というシーン入れ替え案と、何ヶ所かの編集直し案、カットしたい箇所(主に小松方正)を言って、その作業が「今日の何時かには終わるだろう」という編集・山田真司さんの見通しを言われ、では、「夕方からもう一回編集ラッシュを組む」ということを那須さんが決定し、え〜!、それまで帰れないの?とゲンナリしたのであった。

ところが、この夕方からの編集ラッシュを見ると、突然面白くなっていたのだった。あれ?面白いじゃん・・・

これは、今日、二回目だから、前のを記憶しているから、テンポが早く感じるのでは?と思って、スクリプターの秋山さんに聞くと、「お前、分かってないね」とは言われなかったが、そう言いたそうな感じで「編集で、印象が変わるのだよ」と言われた。

二回目で、前のを記憶しているのが理由だったら、先が読めて退屈になるだろ。そうでは無くて、シーンの入れ替えによって、主人公の気持ちが繋がって分かるようになって、その気持ちに乗れるように見れるので、テンポが良くなったと感じ、面白くなったのだった。

美希の場合、快楽だけのセックスがエロジジイとのもので、隣の浪人生ともやってしまったうえ、本当に好きな相手と、やっと最後に10分間やりまくるのに共感出来るかという、実は綱渡り的な物語だったのだ。
セリフも気持ちとは裏腹だし。
実際の性行動とは、そういうものだろうが、映画物語では、観客の共感を得なければ、ただの淫乱女になってしまうが、この場合、ラストで本当に好きな相手と最後に思う存分出来て、すっきり爽やかな印象になった。
辻本がニューヨークへ行って、この恋がどうなるだろうか、とかどうでも良い、今が良ければキモチいい、という快感が残る。

映画の仕上げは、編集ラッシュを見終わった時の印象が重要で、何故そうなったかを分析し、あそことこことを直す、と次のラッシュでは印象が変わる。そして、また問題点が出て来たら、記憶を遡って、分析する。
監督になってから、そのようにして編集を直してゆく、という基礎を学んだのが、この『朝はダメよ!』の1日二回の編集ラッシュだったのだな・・・
第一回編集ラッシュは、ダラダラして見えても、いいんですね。
むしろ、その方が、編集の楽しみが増えるので。

翌日は吉祥寺で、評判の『クレイマー、クレイマー』を見たが、「離婚て辛い、離婚したくないもんだな」という想いしか感じなかった。結婚て、離婚する場合があるから、リスク高い・・・

ダイアリーには、以後、日々、「ポーの一族」など、少女マンガのタイトルが書かれている。再読したり、新たに買って読んだようだ。
これは、高校同級の彼女が、盛んに少女マンガの話をしていたから、読まなきゃいかん、と思って読んだのだった。
「トーマの心臓」も再読している。これが後に繋がる・・・
いろいろ、刺激を受け、シナリオも更に書き続けている・・・

『朝はダメよ!』は、6/21、日向明子主演・伊藤秀裕監督『若妻官能クラブ 絶頂遊戯』と同時上映で公開され、好成績を収めた。

助監督修行はまだまだto be continued....

( チャリンの方にはスイマセン、特に何もありません。ネットで拾った写真で金儲けするのか、という人もいるんで・・・そんな儲かってなんかいませんよ)

(『狂った果実』の件など、荒井晴彦さんからの指摘を受けて、修正しています)


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