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倒され、のこぎりで切られた木

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【詩】
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#海

【詩】絶海の囚人

目醒めれば 絶海の囚人であった 樹々はなく 草もなく 屋根もない 荒れた岩肌だけの孤島に 置き去りにされていた 見上げれば 微動だにしない太陽 夜は来ず 月もなく星もない 空と海とが 青々とした口を開く 灼熱のいがみ合いに 延々と眼を焼いた 千万年と続く青と青との争いに 放り込まれる刑罰なのか 両手で顔を覆い 岩肌に縮こまっても 目裏に押し付けられるのは 真青なる焼鏝 聞き覚えのない声が 番号を発し それが僕のことのようだと 目を開けば 絶海を背にして 真っ白なキャンバ

【詩】海に一色だけ残るとしたら

  Ⅰ おまえのことならよく知っている、あめふらし 海浜の浅瀬に生息し 時折はその海へ紫の雨をとりとめもなく 柔らかな筋肉の奥の一箇所に 祖先の貝殻を捨てきれずに宿し 泥塊さながらの姿で 岩砂の起伏を緩慢に越えゆく雨虎 あめふらしに生まれた不思議 シンデレラウミウシ/ガーベラウミウシ/シロウサギウミウシ 見目良くその名さえ麗しいウミウシに生まれなかった不思議 おのれの名さえ知らない不思議 宝玉のようなおまえの近縁者を羨むでもなく誹るでもなく 平然と海中を這い 必要とあらば煙

【詩】海風へ、生まれる。

抱卵の姿勢なら 燕 卵の上に水平にその身を置いて それは 抱くというより 水平線の水平を 文字通り卵上に保ち この季節は だから 燕は 一艘の船となる おのが卵の中にも 海が眠ると 海をわたった燕は 知っている 吊革の下が一時の アサイラム わたることが出来ない 空の為 地下鉄のトンネルの闇は 車窓をたよりない鏡にかえて 人ごみを歩くのが苦手なのに 人ごみを歩くのは得意そうな 顔 映し出さないのは 虚/実 どちら 身体の中を 光が 走り抜け 昔むかし 豊蘆原瑞穂国の葦の群