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倒され、のこぎりで切られた木

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【詩】
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#恋

【詩】幢幢白白

雪は炎 なぜなら炎は 千切れゆくいのち その無限 雪は心臓 なぜなら心臓は 今よりあふれる 柔らかな衝撃 雪は花 なぜなら花は 目的地をもたない 旅のとちゅう 雪は声 なぜなら声は いく重にもかさなった 一つの景色 雪は毛布 なぜなら毛布は 忘却されゆく時間 そのやさしい匂い 雪は肌 なぜなら肌は もどってくる時のために のこしておく温もり 雪はあなた 雪を見つめるあなたの中に あなたが積もる 雪は明日も降り積もるでしょう となりであなたを見ている ぼくがいても

【詩】知っていることを書きつづけよう、知らないあなたのために

ぼくが知っているのは 風化の流砂にさそわれた一対の喉仏 ぼくが知っているのは なにも開けられない鍵の冷ややかな稜線 ぼくが知っているのは 明日ここを立ち去っていく あなたという肉体の重量 あなたのそのか黒き先端は 今はもう あなたではなくなった或る男 過去にしか存在しない所作が  生きたいあなたを末端から蝕む壊疽となる すでに不要となったその男を あなたは 襤褸となった肌着できつく縛り  切り落とせと  ぼくに命じる ぼくが怯えるのは 肉体上の痛苦と醜悪 腐肉 血みどろ