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倒され、のこぎりで切られた木

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【詩】
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#不思議

【詩】海に一色だけ残るとしたら

  Ⅰ おまえのことならよく知っている、あめふらし 海浜の浅瀬に生息し 時折はその海へ紫の雨をとりとめもなく 柔らかな筋肉の奥の一箇所に 祖先の貝殻を捨てきれずに宿し 泥塊さながらの姿で 岩砂の起伏を緩慢に越えゆく雨虎 あめふらしに生まれた不思議 シンデレラウミウシ/ガーベラウミウシ/シロウサギウミウシ 見目良くその名さえ麗しいウミウシに生まれなかった不思議 おのれの名さえ知らない不思議 宝玉のようなおまえの近縁者を羨むでもなく誹るでもなく 平然と海中を這い 必要とあらば煙