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倒され、のこぎりで切られた木

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【詩】
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2022年1月の記事一覧

【詩】ひみこ、ひめみこ、ひなたのこ

坂をてこてこ下りて来る 山がべろんと垂れたべろ 熊と遊んで下りて来る ころころ坂を帰り来る 手毬なくして戻り来る ひみこひめみこひなたのこ 熊を騙して下りて来る 熊をしばって逃げて来る てんてんてまり、追いかけて 洞に入った。蓋された。 熊に姦られて下りて来る 熊を悲しみ下りて来る 峪を鴉が騒がしい あの白い花、摘んでみて そうお願いの、すみれちゃん 崖に手をつき手を伸ばす すみれちゃんから押される寸前 入れ替わる 後ろの正面だあれ。 わたしが ひみこひめみこひなたのこ

【詩】大扉の壊れた城を賢者はmeditationの来るべき段階だと言ったが、わたしには表紙の取れた古い日記にしか見えなかった。

真夜中に研ぐものは 骨までを切るナイフがいいに決まっている。 雲の奥に引っ込んで光る気もない雷の モノフォニーにのせ ナイフで斬るのは、 あなたや あなたや あなたや あなたや あなた、ばかりではありません。 わたしを わたしを わたしを 伐って、 早三百年。 あの谷の村をわたしが追い出された夕方から 燃えさかる西空美しいあの暮れ時から ナイフ遣いがだいぶ上手になりました。 大扉の壊れた城を、賢者はmeditationの来るべき段階だと言ったが、 わたしには表紙の取れた古い

【詩】遠くへは行かない

煉瓦はいいよ。 頑固だし、重いけど ふれると案外やわらかい あたかそうな色だけど 冬の朝なんか 僕を拒絶するみたいに ちゃんと冷たい むかしむかし 世界のあちらこちらが 立派になろうと ちいさなものを押しのけていた頃 あなたはそういう振舞いを 護る外壁として大英帝国印度領に 七千七百七十七階建てのバベルの塔 角が毀れ 色がくすみ ひとはあなたを 中年の(もしや初老の?) くたびれた、どこか 粋な人だと見るでしょう その虚ろがかつて、銃眼だったとも知らず 僕はあたかくなるま