除梗をしない醗酵Vendange Entière

『除梗(じょこう)』とはその名の通り『梗』をとること。『梗』とは果梗、つまりブドウの茎、粒がついている軸の部分のことです。
原語ではegrappageエグラパージュと言ったり、destemming(英語)、eraflage(フランス語)と表記されることもあります。

『全房発酵(ぜんぼうはっこう)』とは除梗を行わずに、この茎がついたままワインを醸造することを言います。
Whole Bunch Fermentationと表記されることもあります。

除梗はブドウを収穫し、破砕の前に行われます。
日本の食ブドウで見かけるような青い茎を入れる生産者はいません。

全房発酵に用いるには「成熟していない」からです。

ブドウには2種類の成熟があると言います。「分析的成熟」と「生理的成熟」です。そして「生理的成熟」の方が後に訪れます。

ブドウは主に開花からの積算温度によって、糖度があがり酸度が下がっていきます。それらが数値で表せる「分析的成熟」です。通常はこの分析的成熟を指標に、「糖度21度になったら収穫しよう」などと決めるのです。

しかしその段階ではブドウの茎は青いまま。それが次第に茶褐色になり、ブドウに十分なフェノール成分が蓄積されると、「生理的成熟」を迎えます。タンニンの質が高くなり、量自体は少し減ります。香りにも深みが出ます。

なので生理的成熟を「風味の成熟」と呼ぶこともあります。

全房発酵にはこの「生理的成熟」を迎えたブドウのみを用いる必要があります。でないと茎に由来してメトキシピラジンという青臭い風味をもつ物質が、ワインに移ってしまうからです。

カベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランという品種はこのメトキシピラジン由来の青い風味を感じやすいのが特徴です。適度なら品種の個性として魅力的ですが、過剰であれば明らかな欠点です。なのでカベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランではまず全房発酵は行いません。100%除梗してしまいます。

主に全房発酵を用いるブドウは、シラーやガメイ、そしてピノ・ノワール。特に醸造家の哲学やテクニック、ヴィンテージの影響が大きく表れるのはピノ・ノワールなので、今回はピノ・ノワールに絞ってご紹介します。

ブルゴーニュのスター生産者で、高い全房発酵率が特徴のドメーヌ・デュジャック。そのジェレミー・セイスは「全房発酵の方が風味の複雑さとタンニンのシルキーさが増す。ブドウの強い酸味をまろやかにし、強すぎる果実感をフレッシュにしてくれる。」と語ります。

しかし「茎を入れればいい」という単純なものではなく、ジュヴレ・シャンヴェルタンの畑では少な目にするなど、状態を見ながら工夫しているようです。

「スパイスのような風味を感じる」という生産者もいます。また、アントシアニンが他のブドウに比べて少ないのがピノ・ノワール。果梗からでるタンニンはそれを支えて、味わいのストラクチャーを補強してくれるとも言われます。

醸造に積極的に果梗を使う生産者は、先のデュジャックのほか、ルロワやドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)などが有名です。そのDRCで修業したリッポン・ヴィンヤードのニック・ミルズもまた、積極的に梗を使う生産者です。

またエリック・エキシエは「全房発酵をすると少しアルコール度数が下がる」と言いますが、これに関しては「そんなことはない」という専門家もいるので真偽は定かではありません。しかし、果梗が果汁のなかにあることで、酸素が通りやすくなり発酵中の温度を1~2℃下げる効果があるのは確かです。

逆に果梗を全く、もしくはほとんど使わないという生産者も多くいます。

完全除梗をするタイプの生産者のなかにもトップドメーヌはたくさんいて、どちらが上ということはありません。どちらの生産者も、「テロワール、その土地の味わいを忠実に表現してるだけだ」と言います。

そのワインに関する哲学が、それぞれ異なるだけなのです。完全に除梗をする生産者の最重要人物だったのが、ブルゴーニュの神様といわれるアンリ・ジャイエ氏です。

アンリ・ジャイエ氏が嫌った青い風味・未熟なタンニンは、過剰に恐れる必要のないものとなってきたのかもしれません。

ただ、それはブルゴーニュの恵まれた畑の話や、温暖地域の話。

例えばフェルトン・ロードでは、毎年試験的に1樽は100%全房発酵していたのを、近年もうやめたといいます。「ワインが青臭くなりすぎて、ジュートのような香りがつく」のだそうです。

『全房発酵』と『マセラシオン・カルボニック』

『マセラシオン・カルボニック』という醸造方法があります。

その名の通り二酸化炭素をもちいた発酵方法です。

収穫したブドウを除梗も破砕もせず房のままタンクに入れ、そこを二酸化炭素で満たします。

無酸素状態になることで、ブドウのなかで勝手に発酵が始まり、少量のアルコールが生成されます。

それに伴ってさまざまなワインの香り成分が生まれます。

それによりアルコールが生成されるとともに、リンゴ酸が分解されます。

これは酸素のない状態で糖分が分解されるから。さらにマロラクティック発酵も起こるので、ワインの中のリンゴ酸は減少し、酸味が弱くなります。(マロラクティック発酵についてはこちらでより詳しく)それと同時に桂皮酸エステル(イチゴやラズベリーの香り)やベンズアルデヒド(サクランボやキルシュの香り)が特徴的な香りとして生成されます。

通常の赤ワインの発酵と比べ、トータルの発酵期間は短くなります。

無酸素状態の影響で赤い色合いはしっかり抽出されますが、タンニンはあまり含まれません。

酸味の弱さと合わせて、ワインができあがってすぐ楽しめる味わいとなります。

新酒として販売するにはとても大切なことです。

実はこのマセラシオン・カルボニックの最中、同時に全房発酵が起きています。

房のままタンクで醸造するといっても、底の方は上からの重みで大部分がつぶれてしまいます。

皮が破れれば、酵母が入り込んで発酵がおこります。

なのでこのタンク内では、徐々にブドウがつぶれていき、絶えず糖分を供給されながらの断続的な発酵が起きているということです。

逆に全房発酵の中にも、破砕されず無事なままタンクに入り、マセラシオン・カルボニック状態になるブドウもあります。

全房発酵ゆえの複雑な香りは、このマセラシオン・カルボニックによる香りが少量混ざることも影響しているのでしょう。

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今日の知識Vendange Entièreとは除梗を行わず醗酵する醸造法のこと。


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