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【ありがとう♡】

伯母が亡くなる数ヶ月前のこと、93歳のお誕生日を迎えた時に「93年も生きるつもりはなかったわよ。」と幾分寂しそうに話していたそうだ。私の従兄弟にあたる伯母の長男が話してくれた。「いろんな親戚やたくさんの友人を見送ってきて、母は寂しかったんじゃないかと思うんだ。」と彼は目を赤くしていた。93年も生きられれば大往生だが、実の母親を失うことは幾つになっても辛いことだ。彼は早くに父親を癌で亡くし、数年前に弟を病気で亡くし、元の家族は母親と二人だったところに、今回、母親が亡くなり、その悲しみと寂しさは深いものだろう。ご自分の家庭があり、奥様と三人の子どもに恵まれて、みな立派に成長しているが、幼い頃の思い出を共有できる家族は皆いなくなってしまったのだから。
私には、従兄弟の寂しさに寄り添いながら、大きく頷いて彼の言葉を丁寧に聞くこと位しかできない。

式が始まるまで待っている間、「こんな時にしかお会いできないとはね。」と他の親戚と挨拶したり、それぞれの大きくなった子どもたちを紹介されたりした。93歳の伯母には可愛い小さなひ孫ちゃんもいて、こうやって、新しい世代へと順繰りに交代していくのだなぁと頼もしくも感じた。

結婚式場のプロの司会のような、斎場の女性スタッフの滑らかなアナウンスに従って、式は滞りなく進んでいった。本当に流れるように、あっという間に出棺となり、同じ敷地内にある焼き場へとお棺を先頭に歩いてみんなで移動する。
炉の前で手を合わせて最期のお別れをしてから別室に移り、精進落としをいただきながら火葬が終わるのを待つ。
弟と私は端っこの席に座り、静かに伯母との思い出などを話していると、先ほどの従兄弟がやって来て、お互い子どもの頃に一緒に遊んだ時の話しなどをして盛り上がった。殊に私の亡くなった父がまだ若くて、従兄弟がやんちゃな男2人兄弟だった頃、父がうちの庭に穴を掘って大きな鯉の池作るのに父一人では無理だと思ったのか、元氣な甥っ子たちを呼んで、手伝わせた時の話で盛り上がる。随分昔の話で記憶の奥底に眠っていた出来事だったが、一瞬のうちに当時の感覚が甦り、目の前の従兄弟の顔が真っ暗に日焼けしたやんちゃ坊主に見えてくるから面白い。話しているうち、芋づる式にいろんなエピソードが出てくる。こんな思い出の掘り起こしができるのも、お葬式ならではなのかもしれない。赤い目の従兄弟の顔に笑顔が戻って、少し安堵する。

そして、最後に収骨。93歳の女性とは思えない程、お骨がしっかりしていた。いつも明るく、強く、前向きに生き切った伯母の生き様が伝わってくるようだ。本当に長い間お疲れ様でした。ありがとうございました。(合掌)

全てを終えて外に出ると、爽やかな青空が広がっていた。寂しさを感じつつも、何かを見届けられたような、すっきりとした氣持ちになった。

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