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【皆既月食♡】

職場から地元の駅に戻り、駅ビルでちょっと買い物をしてから、バス停に向かう途中で駅のデッキに出てみると、たくさんの人たちが空を見上げて、スマホを構えていた。
何事かと見上げてみると、くすんだ茶色の丸い月が浮かんでいる。そうか。今日は皆既月食だったことを思い出す。電車の中で観ていたYouTube動画の中で「442年振りの天体ショー」とタイトルが付いたLiveの動画がアップされていた。

美しい月や星空や、キラキラの朝日を見るのは好きだが、元々「天体ショー」にはそれ程興味がある方ではない。これまでの人生で、「〇〇年振りの皆既月食!」「〇〇年振りの皆既日食!」と世間で騒がれた「天体ショー」に何回か出くわしていると思うが、「あら、そうだったの?」といった位で、ロマンや、有り難みは感じられないタイプだ。

いつものようにバスに乗って自宅の最寄りのバス停で降りた。自宅まで歩く道すがら、再び空を見上げると、くすんだ茶色の月がさっきよりよく見えた。普段の明るい月とは随分ようすが違っている。ゆっくり歩いて月を見ていると、どこかの家から、白髪の女性が赤いガウンを羽織って外に出て来たところで、パッと目が合った。街灯の薄明かりではお互いの顔はよく見えない状況で、白髪の女性が空を指差して、何やら声をかけてくる。私は慌てて、音楽を聞いていたイヤホンを外しながら立ち止まり、「珍しい月ですね〜」と応えると、女性は「本当に。家の中からではちょうど見えないから出てきました」と、よく見えなかったが多分笑顔で言葉を繋いでくれた。その後、2つ、3つ言葉を交わしたのちに、「では失礼します」と言ってその場を去ろうと歩き出すと「お氣をつけてお帰りくださいね」と見送ってくれた。

また一人歩き出し月を見ながら、あぁ、マスクなしで、見知らぬ人と何氣ない会話が出来るっていいなぁ。こんな感覚は久しぶりだなぁとしみじみと思った。

スマホて撮影した月
どこにあるかわかるだろか

夜、歩いていて、犬の散歩をしている人とすれ違うことはあるが、あの風邪騒動のおかげで、相手の方がマスクをしていたり、マスクをしていなくても、お互いに氣を使ってマナーとして距離を取ってみたりすることが多いので、普通に自然に会話できたことがとても珍しく、いい氣分だった。
まさしく、皆既月食の怪奇現象と言えるのでは?それ程珍しいことになっていることにちょっと驚いた。

そういえば…不意に思い出したが、英語教師をしていた頃の夏目漱石が、「I love you」を「我君を愛す」と翻訳した教え子を見て、「日本人はそんなことは言わない。月が綺麗ですねとでも訳しなさい。日本人にはそれで通じる。」と言ったとかいう逸話があった。なんか素敵だな。


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