13階段

折り畳んだメモを開く。
十数名の名前が並ぶ。すでに三人の名前には、赤い線が上から引かれている。そのうちの一人の名前を確かめるように指でなぞる。ふと、時計を見ると約束の時間まで30分はある。鞄の中を確かめる。それは、鞘に収められていても冷たく禍々しい。

娘の顔を最後に見たのは、7年前。娘の遺体には性的暴行の後があり、首を刃物で切られ、出血多量で殺害された。犯人は、見つかっていない。証拠がなかったわけではない、むしろ多すぎたのだろうか。現場には、いたるところに痕跡があり、容疑者の特定は容易だった。特に現場からは精液が検出された、それも12人分。先のリストは、警察時代のツテを辿って、ようやくかき集めた12人の名前と連絡先だ。身内の死ということで、早々に捜査の蚊帳の外に置かれた私には、この12人がどのような理由で、容疑から外れたのか知る術はなかった。知るつもりもない。私には、もうあまり時間がない。

「すみません、お待たせしました。」

男が、話しかけてくる。今日、会う約束をしていた、リストの一人だ。記者として、世間では埋もれてしまった事件の話を取材したいと伝えて、アポを取り付けた。
挨拶を返しながら、ナイフの所在を感触だけで確かめる。

「ここでは、何かと話しにくい話題ですし、場所を変えましょうか。」

あまりに時間が経ちすぎた。誰が犯人かを特定することは、もはやできないだろう。7年という月日は、私の精神を擦りきるには十分で、私の意識から事件を薄れさせるには足りない。探偵の真似事をする気はない。この12人の中に実行犯が紛れているであろうという事実で十分だ。すでに自分が殺した三人の遺体が発見され、捜査が始まってもおかしくはない。何としても、全員に会わねばならない。

「歩くのも何ですし、車で移動しましょうか。裏に私の車を停めていますから。」
何としても、全員殺しきらなければならない。
❬続く❭

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