続「放課後探偵団2」の感想。

残り3つの短編の感想。

"黒塗り楽譜と転校生"「辻堂ゆめ」
合唱練習をしているクラスメート全員の、楽譜のとあるページが、全て黒く塗りつぶされるという事件が起きる話。完全に個人的な理由だが、合唱練習をしている描写が心に刺さる。経験者やリーダー格が頑張っているが、強制参加だからやってるだけのやる気のないクラスメートに対して、空回っていく様子はそこそこリアルさを感じる。頑張って分かりやすく伝えたり、やる気を出してもらうための案を出したりするが、如何せん、経験者特有の慣れ親しんだ専門用語を使ったり、本質的に何故やる気がないのかが分かってないことによってちょっとピントのずれたことを提案するなど、空回り方が痛々しいまである。文句言っても仕方がないので頑張り続けるリーダー格と、だんだん愛想を尽かしていく経験者っていうのもつらい。探偵役は歌が下手なのを気にして口パクをしている、やる気がそんなにない側であるが、まさしく中学、高校の頃の僕と同じなので、気持ちが痛いほど分かる。残念ながら、自分が一生懸命だからと言って、他人も一生懸命になってくれるとは限らない、とか何とか自分に言い訳しながら、口パクをしていた時期を思い出した。まあ、合唱というよりそもそも音楽自体をあまり好きになれなかったので、特に後悔とかはない。ともかく、合唱の練習パートに、青春のリアルを感じた。
事件は、普通。事件を通してみんながまとまってよかったなあ、という感じ。真相とか関係なくみんなが、合唱をやりきったという達成感を得た。そして蛇足のように、真相が語り手の主人公と探偵役の間でのみ明かされる。真相がみんなに明かされたところで、何かが起きるということはないだろうし、起きる必要もないだろうっていう感じの終わり方は、とてもよかった。動機も甘酸っぱい感じで、青春を感じる。やる気ない勢筆頭の矢上君は、そこそこ不幸に見舞われたが、他人に細かい配慮の出来ない男なので、仕方ないのかもしれない。悲しいなあ。明確に悪いと言えることは、別にしていない。悲しい。
転校生は、よく分からなかった。ミスリード感たっぷりだったが、実際そうだった。転校生の秘密についても、おまけ感がある。

"願わくば海の底で"「額賀澪」
震災で生死不明になった祖父の足取りを探る男に付き添う中で、同じく震災で生死不明になった先輩や当時のことが語られていく話。個人的に、この短編集の中で、一番好きかもしれない。既に、主人公は大学に進学しており、就職を目前にしている。なので、過去の先輩との思い出とそれを押し流した津波や地震の話が中心になっているので、現在進行形の学園モノではなく、過去を辿る話となっている。男(三浦)の祖父が最後に見た景色を見つけ出すことが行動の目的だが、もはや、三浦という男の納得、引いては人生の区切りのための儀式のような行動でしかない。ミステリにおける推理も、残った人間の納得のための行動でしかないともいえるので、対象が天災によるものであるか、個人間の事件による死亡であるか、の違いしかない。誰だって、親しい人の死の詳細は気になるものだろう。ただ、主人公と生死不明になった先輩に恋心を抱いていた、女性の先輩は、当時、実際に被害に遇い、その後を知っているからこそ、少し冷めたような視点で、男の行動に付き添う。
その後、色々な事実が判明するが、知りたかったことだけではなく、知られたくなかった事実も明らかになる。大規模な地震、そしてそれに続く津波による大災害という大事件の中では、個人間の事件は、組み込まれて消えてしまうし、何なら真相どころか、事件ごと津波が流してしまっている。そして、死ぬ直前の景色や、詳細が分かったとしても、どうしても生存を心のどこかで信じてしまうからこそ、区切りを無理やりにでもつけている、というのはあまりにも辛いが、真相を明かす行為の無力さを感じる。別に真相が判明したところで、何かが劇的に変わるわけではないが、誰だって知りたくはなってしまうという、悲しさがある。そして、とある事情のために、区切りをつけるどころではない主人公は、あまりにも救いがない。主人公の行為がなかったからといって、生存していたとは限らないが、だからと言って、「もしかして」と思うことを払拭する手段がない。真相を知ったところで、どうしようもないという虚しさが、痛々しくてよかった。

"あるいは紙の"青崎有吾
裏染天馬のシリーズ、といってもほぼスピンオフ。学校に推理力の高い変人がいるという世界観を共有しているくらい。あと過去シリーズのキャラが出てくるのと、思い出したようにアニメの小ネタを挟むくらい。新聞部が、学内でのタバコのポイ捨てにまつわる問題に関わっていく話。学園ミステリにおいて、学校の問題ごとがよく持ち込まれるのは生徒会であろうが、それに肩を並べるくらいには新聞部もよく関わっている。毎度思うが、学内の問題に先生の影が見えないレベルの自治が行われている。そして、ネタバレではない気がするので書くが、犯人は先生。犯人を知ってしまった新聞部の主人公が、どうやって追い詰めるか、もしくは記事にするのを諦めて学内新聞程度にやっていくかというのが主題になっている。…やっぱり自治していくしかないのかもしれないと書いていて思った。
凡人(自称)の主人公が、天才の裏染のやり方を真似つつ、自分の強みを生かして手がかりを探っていこうとする展開がよかった、と思う。実際に見つけた手がかりは、見えないんだって言われるとそうですね、としか言いようがない。主人公くん、この光景を映像として記憶できているとかなら、さすがに凡人とか言うのは無理がある。テストの点数やばそう、社会とか満点取ってそう。
そして、なんやかんやあって先生を追い詰め、新聞を出すが、そこからメディアのパワーで先生を糾弾する、なんてことにはならず、ささやかな我を通したという勝利で、この話は終わる。人が死んだり、なにか盗まれたりといった、刑事罰が下るような事件ではなく、学内の規律違反程度の事件でしかない。しかし、高校生の間は、高校が世界の大半を占めているともいえるのだから、そこで起きたことは、世間的には小さいものでも、本人たちにとっては大事件なのだろう。だからこそ多少無鉄砲な行動に繋がっていくのは青春感がある。でも、ある程度分別のついてしまった高校生だから踏んでしまうブレーキ的な立ち位置が、主人公になるわけだが、一言では説明しきれないような感情をきっかけに先生と対決する決意をするのは、割りきれない感情的なものを感じて学園ミステリ感があってよかった。

全体を通してみると、学園ミステリの様々なパターンを取り揃えていてとても満足感は高かった。どの短編も、短いながらしっかりと学園ミステリを読みたいという気持ちを満たしてくれたので、とてもよかった。
そして、色々感想を書いてみたが、いつもよりしっかりと細かく読んでいる気がする。感想を書こうかな、という気持ちがそうさせている感じがする。長いし、何を言いたいのかよく分からない文章なので読み返したくもないが、割りと楽しかったように思う。出来れば習慣化していきたい。

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