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日記⑩――「スキップとローファー」について――

今回の日記で、「スキップとローファー」というマンガの素晴らしさを語りたい。
まず「スキップとローファー」の簡単なあらすじを記しておく。石川県から高校進学のために上京してきた岩倉美津未(いわくら・みつみ)は、イケメンで女子生徒からの人気が高い志摩聡介(しま・そうすけ)と交流をもちながらクラスのみんなと人間関係を構築していく物語である。
主人公の美津未は「Scene②そわそわのカラオケボックス」というエピソードにおいて、美津未が江頭ミカという女子生徒から馬鹿にされていたということに気づかされる場面では美津未は内心で次のように語る。

難しいな/中学校は8人きりだったから/人間関係がこんなに難しいなんて思ってませんでした

『スキップとローファー』1巻

人間関係の難しさを感じた美津未は、携帯電話で石川県の幼なじみと電話をした後、再びカラオケボックスに戻ると次のような台詞を口にする。

同級生の女子「気になっていんだけどさ――/そのピンってオシャレ?」
美津未「(・・・どういう意味?/いやわかるわけないか出会って2日だもん/こんなこと考えたって仕方なかったんだ)うんオシャレ!」

『スキップとローファー』1巻

美津未は同級生の女子から胸ポケットに差していたヘアピンについて嫌味とも取れる台詞を言われるが、なにも考えずに「うんオシャレ!」だと答えるのである。
ここに美津未の人間関係におけるありようが表れている。それは、人間関係において「変な分析」などせずにありのままの人間対人間の触れ合いを重んじる姿勢である。このマンガにおいて美津未は様々な友人と人間関係を深めるが、彼女は相手の容姿などによって相手を「値踏み」したりしないように努めているのだ。相手の容姿などによって相手を「値踏み」したりしないで人間関係を構築していくということは、つまり、相手の人物の内面と向き合って真摯に人間関係を構築していくことである。これが、このマンガのテーマだと言ってよい。
他の主要登場人物たちも、同級生の内面を理解して、人間関係を構築していこうと努めていくのである。例えば、村重結月と久留米誠というふたりの女子生徒は容姿や雰囲気は全く異なるかもしれないが、友情の関係性を深めるのだ。村重結月と久留米誠というふたりは、互いに「美人」や「地味」といったレッテル張りをしないで、相手の内面を理解しようと努めているのだ。高校二年生になった村重結月と久留米誠は別々のクラスになってしまい、村重結月は新しい二年生のクラスになじめないでいる。その村重結月と久留米誠は公園で次のような会話を交わす。

久留米誠「私さ/学校じゃゆづといちばん仲いいの私かなーとか/勝手に思ってて/だからなんてのかな/私らタイプ違うし?いちばんの理解者にはなれないかもってことはわかってんだけどさ/でも聞きたいんだよ苦しいことも」
村重結月「ん・・・・・・/ねぇ友達ってさ/いっぱいいないとダメかなぁ・・・」
久留米誠「んなこたないよ」

『スキップとローファー』7巻

この場面では、苦境に陥った村重結月の悩みを少しでも分かち合おうとする久留米誠の様子が読みとれる。ふたりは容姿や雰囲気といったものではなく、相手の内面をどこまでも理解しようと努めるのだ。

そして、志摩聡介はかつて俳優の子役をやっていて、俳優に嫌気がさして子役は辞めてしまったが、高校生になって演劇部に入部するという人物である。このマンガにおいて、演劇部の人気者で、容姿が良い志摩聡介に対しても、美津未は彼の内面を理解しようと努めるのだ。一度志摩聡介と付き合った美津未であったが、美津未は再び志摩聡介と友人に戻りたいと告げる。その直後に、次のような会話を美津未と志摩聡介は交わす。

岩倉美津未「私/恋じゃなくても/志摩くんが男の子でも女の子でも/小学生でもおじいちゃんでも/この人好きだな~って思ったと思う/だから友達になりたいの」
志摩聡介「ほんと?」
岩倉美津未「うん/ほんと!」

『スキップとローファー』8巻

この場面での美津未の台詞とは志摩聡介にとって「救い」の言葉になっている。子供の頃から子役の俳優をやってきて、母親から演技することを強制されてきた志摩聡介にとって、内面をきちんと理解しようとする美津未の台詞は「救い」の言葉になっているのだ。
このようにこのマンガに登場する人物たちは、マンガという手法で描かれ、記号的な身体をもっいているのにも関わらず、「イケメン」や「美人」や「陽キャ」や「陰キャ」といった記号的な内面には還元されえないものを抱え込んでいることが示されているのだ。この作品では、マンガという手法によって登場人物たちに記号的な身体を与えるが、その登場人物たちの内面は記号的には処理されないのである。それは、記号的な身体を与えるマンガというジャンルへの批評的なアプローチであると言える。

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