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小規模病院が向かうべき先

こんにちは、医療経営コンサルタントRe-FREE代表の梅木です。

「医療構造改革、地域医療構想、病床機能再編」、「競争よりも協調の時代」。頭ではわかっているけれど耳をふさぎたい、あるいは自分には関係ないと聞き流している……そんな方は少なくないのではないかと思います。

開業医を対象としたアンケート調査によると、開業の動機は「自らの理想の医療を追求するため」が全体の4割でトップ。開業5年以内に絞ると6割にも達しています。「自らの理想の医療を追求するために開業したわけだから、人からとやかく言われたくない!」 医療政策に対する無関心や反発の背景には、そうした心の動きがあるのかもしれません。

ただそうは言っても、「頭ではわかっている」それらの動向を無視することはやはりできません。医療政策をはじめとする環境の変化にはきちんと対応し、その対応と両立させるかたちで、経営者が思い描く理想の医療を追求していく必要があります。

この記事では、医療業界をとりまく最近の動向について簡単に考察したうえで、小規模病院が向かうべき未来について述べていきます。

小規模病院を取り巻く環境の変化

近年の医療業界の大きな転換点といえば、地域医療構想が打ち出されたことでしょう。ポイントは4つ、「高度急性期・急性期病床の集約」「回復期病床の拡大」「慢性期病床の削減」「在宅医療の拡大」です。これらは2025年にピークを迎える医療の問題、そして2040年にピークを迎える介護の問題に対応するための重要政策です。簡単に言えば、大規模な総合病院は高度急性期と急性期を、中規模病院は急性期の一部と回復期を、小規模病院は在宅医療を担うべし、ということです。そしてその方針に沿って、診療報酬を通じた政策誘導がなされています。

超高齢社会における医療の課題は、介護が必要になっても生活できる場所の確保慢性疾患への対応です。急激な高齢化を迎えた我が国には、この2つが圧倒的に足りていません。そのため患者さんたち(およびその予備軍)は、急性期医療よりも介護や慢性疾患に課題感を持っています。地域医療構想は、この問題への包括的な対応策として打ち出されたものです。

そしてもう一つの大きな変化は、医療法人のグループ化・大規模化です。地域医療連携推進法人を皮切りに、国としてもグループ化の方針を固めています。超高齢社会の切り札である地域包括ケアシステムを実現するには、点在している施設がバラバラに機能するのではなく、一体的にサービスを提供する必要があります。そのため、医療法人のグループ化が解決策として取り上げられているわけです。

ところで、この動きは小規模病院やクリニックの統合を意味します。「競争から協調へ」と言われる背景です。しかし地域医療連携推進法人は、いわば船頭多くして、という状態を生みがちです。山を登るまでは行かずとも、そうこうしているうちに大型の資本を持ったグループ法人が買収または参入をしかけてくることが予想されます。つまり「競争よりも協調の時代」とは、一つの施設(事業体)だけで生き残ることが難しい時代とも言い換えることができるのです。

新型コロナウイルス感染拡大の影響

次に、昨今の新型コロナウイルス感染拡大に伴う医療業界の変化について確認していきましょう。

まず、収益面について。2021年度の医療経済実態調査によると、一般病院の損益率は0.4%の黒字となっています。しかし、病床確保料などのコロナ関連の補助金を除くと6.9%の赤字。19年度の3.1%と比較して、さらに悪化しています。興味深いのは、国公立を除いた場合、急性期一般入院基本料2~3においては補助金なしでも黒字だったことです。また、黒字を保っている病院は介護収益を持っている場合が多いことも注目に値します。クリニックも黒字でしたが、これはワクチンによる影響と考えられます。

次にオンライン化について。テレワークが働き方の標準となるなどの趨勢のなかで、診療を含む医療サービスの提供方法についても変化の基盤ができてきました。オンライン診療はまだ十分普及していませんが、今後確実に増えていきます。また、データ共有の必要性も大きく高まりました。ICT化がよりいっそう進んでいくのは間違いありません。

最後に病床機能再編支援について。これは医療機関が病床機能を再編する場合に支援金が支払われる制度です。新型コロナウイルス感染によって影響を受けた急性期病院が、病床機能を再編・返還することを後押しする仕組みになります。これにより、急性期病床の集約が進み、低密度医療の解消(高度急性期への集中)、在宅機能の強化へ動きはじめました。

病床再編と在宅シフト、ICTによる効率化。これらは以前から議論や検討がなされてきたことです。そのため実は新型コロナウイルス感染拡大は、変化を後押しこそすれ(「医療業界の再編を10年早めた」という評言に見られる通りです)、まったく新しい変化を生み出したわけではないのです。

これからの小規模病院のあるべき姿

ここまでの内容をふまえると、小規模病院がとれる選択肢は以下の3つとなります。

・地域の基幹病院となるべく、急性期病床を拡大する。
・在宅を支援する中間施設(回復期リハ病床、地域包括ケア病床)へ病床機能を転換する、または病床を返還して外来に特化する。
・介護事業所(介護医療院も含む)を併設させて、収益構造を拡大する。

どれか一つに絞る必要はありません。たとえば、急性期病床を拡大するためにM&Aを行いつつ、外来・在宅訪問に特化したクリニックを設立、さらに介護施設などの介護事業所を併設して収益構造を拡大する、といった同時並行的な対応も可能です。

医師の中にはまだまだ急性期を偏重する向きがあります。しかし、超高齢社会に暮らす国民が本当に不安と不足感を抱いているのは、むしろ在宅医療・在宅介護に対してです。だからこそ、小規模病院が中間施設としての病床機能を有しつつ、外来診療を中心に在宅医療を支える。また介護事業所へと展開し、川上から川下まで一体的に医療・介護サービスを提供する。そのようにして、在宅を支援する機能の中心を小規模病院が担っていく必要があるし、それは小規模病院だからこそできることでもあると私は考えています。

経営の観点から言っても、これは決して悪い話ではありません。診療報酬改定の流れにも沿っているため、収益は拡大するはずだからです。地域に最大限貢献し、収益も拡大しながら、自らの理想の医療を追求していく。そこに小規模病院の生き残りのカギがあります。

あるべき姿に近づくために

小規模病院を取り巻く環境の変化は急速に進んでいます。そのため小規模病院は、急性期病床を拡大するのか、在宅支援機能へシフトするのか、介護事業所を併設するのかといった経営判断を迫られています。的確に判断するためにも、経営力の向上は必須です。「忙しくて時間がとれない」「重い腰が上がらない」といった気持ちはよくわかりますが、目を逸らしつづけるのは賢明とは言えません。

先にも述べた通り、医療機関は一つの事業体だけで生き残ることが困難な時代に入りました。グループ化、つまり拡大の流れは避けがたく、取り残されれば事業売却の憂き目も免れません。

また、新型コロナウイルス感染拡大に伴う一時的な収益増も遠からず期待できなくなります。補助金は確実に細くなりますし、ワクチン接種による収益も小さくなります。のみならず、新型コロナウイルス感染症が落ち着いても、従前と同じ来院者数が期待できるとは限りません。ICT化に柔軟に対応した競合施設に、患者を根こそぎ奪われてしまう可能性は大いにありえます。

変化に対応して生き残っていくには、地道な経営改善を常日頃から進めていくことが第一です。現状を真正面から見つめ直し、方針を固め、核心を突いた小さな改善策からスタートしていくこと。そこから日々小さな変化を積み重ねていければ、一見どうしようもなく思われる大きな変化にも対応できる力が必ずつきます。

あるべき姿を日々体現できていれば、理想の医療の実現にも着々と近づいていけるはずです。私もいち医療経営コンサルタントとして、みなさんの思い描く理想に近づくお手伝いをしていければと思っています。

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