バーの華②

前回、ビアバーが繁盛する為には魅力的な女性が働いている事が大事であると書いた。

だが、一口に魅力的な女性と言っても、バーの立地や客層によって求められる像は当然違ってくるだろう。

東大の学生だったバイトのアヤナについて書いたが、彼女はこのバーに似合っていた、というより彼女の世界にバーが寄って行った気がする。ただ、これはあくまで特殊なケースで、家庭教師で時給4000円以上が期待できる東大生(特に女子)は、普通はビアバーでは働かない。

文京区の、繁華街とは言えない場所に位置し、外国人客が多く、お客さん同士の交流が自然と生まれるバーのカウンターの中にいることが相応しい女性とは。

パッと思いつく人もいないし、なかなか悩ましいと思っていたが、ある日G店長から「バイト候補として、会って欲しい女性がいる」と連絡が来た。


「どんな人?」と聞いたら、「俺が六本木のバーで働いてた頃に知り合った元キャバ嬢。名前はA子(仮名)。小さい子供2人いてシングルマザーで、最近文京区に引っ越してきて仕事を探している。英語は喋れる」との事だった。

これを聞いて、俺は正直、多分イメージとは合わない人だろうと思った。どう考えても文京区のビアバーには六本木界隈の人間や、港区女子は似つかわしくないだろう。


だがまぁ、とりあえずG店長の頼みでもあるし、一度会ってみるか、、、、

そう思って、一度バーに来てもらい、3人で話す事にした。


数日後の平日夜、本業の仕事を終えた後、バーで待っていたA子さんに会った。第一印象は、結構派手目の美人で、おそらく相当遊んできたのは間違いない。
外見は、純日本人だがアリアナグランデ似で、顔が恐ろしく小さい。多分夜の仕事では相当稼いでたのだろうと推察する。

だが、俺もロシア暮らしが長かったこともあり、ただの美人が来ただけでテンションが上がる事はないし、それだけで採用はできない。


まず、俺からはバーのオーナーになった経緯とこのバーのメインの客層(外人が多い、割と上品で六本木のような場所ではない、等)、これから店を一緒に作ってくれるような人を探している事などを話した。

その話をふんふんと頷いたり、質問をしたりするA子さんを見ながら、俺は、A子さんはおそらく育ちが良く、地頭が良いのだと感じた。

これは、元六本木のキャバ嬢ってことで色眼鏡で見すぎてたかもな、と思い始めた。

そして、彼女の話を色々と聞いたら、俺より2,3個年下、渋谷区の某高級住宅街で育ち、都内の女子校出身で武蔵の学園祭にも来たことがあることが判明し、すごい偶然だが俺が結構お世話になっている、今は高級料亭の支配人をしている先輩と学生時代に付き合っていた事が判明した(ちなみに彼女と先輩は今でも親交があり、その場で2人から先輩にビデオ通話したら先輩がおったまげていた)。

更に、大学生の時にロシアに1か月程ホームステイしていた経験もあるとのことで、滅多に会わないレベルで俺の経験とシンクロしている。


特に、滲み出る育ちの良さというものは中々一朝一夕で身に着けられるものではないし、オジサン達は意外と敏感にそれを見分けるものなのである。

大人になってからはずっと港区に住んでいたが、文京区は子育てするのに教育環境が良いと思って引っ越してきたらしい。

このバーがキャバクラとは違い、あからさまにお客さんにお金を使わせるような下品な接客は求めていない事も良く理解しており、マーケティング関連の仕事もしていた事もあるので、その点についても出来る事があれば手伝いたい、と言ってくれた。



と、いうことで、アヤナとは大分タイプが異なるものの、多くの人を惹きつける魅力がある女性であることは間違いないし、
先輩の元カノ、ロシア経験ありという縁もあるので、毎週金曜日に働いてもらう事になった。

こうして、仲間集めの最後のピースである、「バーの華」が決まった。

最後に余談だが、G店長は昔六本木のキャバ嬢界隈で「六本木で一番人が良い外国人」と言われていたらしい。

曰く、仕事終わりのキャバ嬢が集うバーで働いていた彼は、飲みすぎたキャバ嬢には酒を飲ませず水を飲ませ介抱し金をとらない、そのお陰で安心して溜まれる場所だったようだ。

G店長はG店長で、色々な過去があり、昔は六本木のニューハーフバーで働いていたり、今も映画のプロデューサーを片手間でやっていたりと、実は謎が多い人物なのだ。

まだ俺もすべてを聞いたことがないので、いずれ話す時が来たら話したい。



次回のテーマは未定。もしかしたら唐突にウクライナでの過去の仕事の話を書くかもしれない。

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