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100日後に描くゴルゴ

2020年4月、5月。全国民に時間の余裕ができた。ステイホームをしなければならない状況。皆が家にいようぜを合言葉にした期間中、沢山の人ができる範囲で何かをしようとしたと思う。仕事、趣味、家族、のんびり過ごす。

僕は落語家なので、人前で落語をするのが仕事。移動制限に密がダメとなると仕事がみるみる減り、暇になった。一方でその逆風に負けじと多くの若手がオンラインで落語を配信してハツラツとしていた。

僕も若手だが、ハツラツさが欠如しており、絶望的にネット環境が整っていなかったことも後押しして、落語配信という新しい時代の幕開けをぼんやり眺めていた。

江戸時代が急激に終わり「え!?まってまって!ウソウソ!?刀いらないの!?明日からどうしよー」状態の侍の如しである。侍が聞いたら、おぬしと一緒にするでない!と斬り捨てられそうな失礼な妄想をした後、ふと我に返る。

あれ?これ、何かしたほうがよくない?この状況長くなるよな。うん、僕も何かしよう。何かを発信しよう。みんな何してんだろ?調べてみよう。

有名人も、そうでもない人も、皆こぞって何かを発信していた。うちで踊ろは最たるもので、ポップアイコンならではの盛り上がりをみせていた。これを期に名を知られた人もいた。バリトン歌手の池田ハッピーバースデーさん。毎日、有名人の誕生日を歌って祝うという事をされていた。面白い。調べれば調べるほど、自身のできないことばかりで自信を失い、何を発信するかわからなくなった。無駄に韻を踏んでみました。

肝心の落語を発信するということを忘れてしまっている僕は、あるニュースを知る。ゴルゴ13が連載52年目にして初めての休載。驚いた。連載を52年続けていること。しかも、あのクオリティ。ゴルゴ13は、主人公のデューク東郷というプロの暗殺者が、世界を股にかけ見事な仕事をするハードボイルド漫画の傑作。主人公はムダ口を叩かず、プロとして100%仕事を成功させる。

ムダ口を叩き、プロなのにすべることもある僕とは、真反対の男である。自分とまるで違うからこそ、夢中になるんだなと、現実をできるだけ前向きに捉えて思う。僕もゴルゴ描いてみようかな。本家が、休むならその間、僕が描いてみようかな。

ステイホームは、時に人を狂わす。暇というのは、人を馬鹿な道にいざなうのかもしれない。謎過ぎる使命感を持ち始めた僕は、ゴルゴを描く事を脳内会議で即決した。だけど模写するだけじゃ面白くないな。ステイホーム期間中に毎日できる遊びとして何かないかな。

僕はある事を思い出す。100日後に死ぬワニ。令和に流行ったワニ4コマ漫画。僕の頭の上に電球が光る。これだ!1日ずつゴルゴを描き、100日後にゴルゴを描けるようになるというのはどうであろう?再び脳内会議。描くこと即決。題して100日後に描くゴルゴ。

早速Amazonで24色の色鉛筆を注文した。この間抜けな企画から、僕の目を醒めさせない程のスピードで翌日に届く。物流業の方とAmazonの社長に感謝をして段ボールを開ける。

スケッチブックに、人生で初めてゴルゴを描く。これから100日続く挑戦の初日。その道具となる色鉛筆。いや、相棒となる色鉛筆を開ける。24色の色鉛筆は美しい。本棚のゴルゴ13を取り初日はどのゴルゴにするか、パラパラめくり、決める。コレだ。まずは鉛筆で描く。人生でこれほどゴルゴに向き合うのは初めてだ。

普段は信じられないぐらい集中力にかける僕が、信じられない集中力をみせた。心なしか眉毛もいつもより、キリッとしている。主人公デューク東郷の眉毛のようだ。後ろに誰か立とうものなら、瞬殺するぐらいゴルゴが憑依していたと思う。ほぼ迷い無く描きあげ、驚いた。

あれ?思っていた以上にうまくかけてるよコレ!?ん?初日のできじゃない。10日目の出来だ。ま、とりあえず完成させよう。相棒の24色の色鉛筆から、控えめに5色を使う。完成して思う。あれ?やっぱり思っていた以上にうまいなコレ!?色を入れたら14日目ぐらいの出来になった。

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僕は、その日から、1週間ゴルゴを描き続けて気づく。すごいスピードで上達してしまった。もはや「100日後に描くゴルゴ」じゃなく「8日目に描けたゴルゴ」だコレ。

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どんな事もつくづくうまくいかないものだと改めて気付かされる。ゴルゴの模写が得意という落語に活かしづらい事を習得し、僕のステイホームは過ぎていった…ただ、どんな事でも学べる事はあるもんだ。

まずひとつ目。ゴルゴ13の良し悪しは目で全て決まるという事!もうひとつは、色鉛筆は24色も使わないという事!



#春風亭昇市 #不定期マルシェ  

#100日後に描くゴルゴ



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