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臨床推論~先輩PTからの教え~⑩おわりに

最後に実際の経験を交えお話します。


僕の担当患者さんにTさん、70代女性の方がいました。

右視床出血で麻痺は上下肢とも重度。感覚は重度鈍麻しており、半側空間無視やプッシャー現象が強くみられていました。

本人、家族ともに杖歩行以上での自宅退院を希望されていました。


介入当初は端座位保持をするのがやっと。歩行は長下肢装具を使用しなんとか、、というレベルでした。

基本動作も当然重度介助。

やはり基本動作、歩行獲得のためには麻痺側随意性の向上、麻痺側支持性の向上が必須であると考えました。

麻痺側へのアプローチを重点的に行い、長下肢装具で積極的に歩行練習をしました。


継続的な介入により、発症から4か月後(僕が介入してから2カ月くらい)には短下肢装具とT字杖を使用し中等度~軽介助での歩行が可能となりました。

しかし、肝心のADLには変化がありませんでした。

基本動作には依然として介助が必要であり、病棟では常に車椅子介助での生活を余儀なくされていました。


この現状を先輩PTに相談したところ、

その介入は本当にゴールに寄り添っているのか、

と、

麻痺側へのアプローチだけでなく、非麻痺側を中心とした動作練習が必要な時期なのではないか

ということでした。


HOPEを考えれば、歩行獲得は理想でしたが、あまりにも現実離れしていました。

最低限として基本動作、特にベッドやトイレへの移乗動作の獲得が必要だと再確認できました。


そして、非麻痺側を中心とした動作を獲得すべき時期なのでした。

片麻痺がある以上、正常でない形でもそれが正しいことは多くあります。

例えば、端座位保持中に非麻痺側へ大きく傾いている姿勢、これはこれでいいのです。麻痺側へ押し込み、倒れてませんから。正中位でわざわざ保持しなくても良いのです。


その日から動作練習へと切り替えました。

まずは端座位保持し、前方にキャスター椅子やバランスボールを置き、骨盤前傾を伴う、前方への重心移動を学習してもらいました。

次は前方に支持物を置き、前方への重心移動から離臀までを練習しました。

重心を常に身体より前で保持することを反復しました。

その後は方向転換、ピボットターンの練習です。これは非麻痺側を使うことを常に意識してもらいました。

非麻痺側を使うのは悪いという固定概念を捨て、非麻痺側を中心とした動作練習を繰り返し行いました。

今現在進行形で介入を進めています。

このように、患者に本当に必要なことは何なのか、そのためにはどのような介入をすべきなのかを改めて考えさせられる一例でした。

これからも、自分の行っていることに満足してしまうのではなく、患者に寄り添った介入を、そして固定概念を捨て、柔軟な思考を持ち日々と向き合う必要があると思いました。

臨床推論編はこれにて終了です。

長い間お付き合いいただきありがとうございました。

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