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着流しで会社に遊びに来るヒト

同居人が20代後半にパートタイマーで働いていた頃、職場にユニークな人物(正社員)がいる、といくつかエピソードを話してくれました。

彼(A氏とします)は年齢40歳前後で、家庭には子供がおり、会社では主任のような立場 ── ごく普通のサラリーマン像でした。
その職場は電池やカセットテープの製造企業の営業所で、20人ぐらいの社員・パートが働いていました。

A氏の営業所内における物理的存在確率はかなり低く、ドアの横にあるホワイトボードの彼の名前の横には、しばしば、
・外回り→直帰
・10時出社( or 11時出社など)
と書かれていたそうです。
『外回り⇒直帰』の方は本人の筆跡、『#時出勤』は女子社員の字で書かれていました。
── というのは、前者は外回りに出る時に自分で書き、後者はたいてい朝、本人から電話が入り、事務担当の女性(その時代ですので…)が取ると、
「ちょっと**の調子が良くなくて、医者に行ってから出社するので#時頃になる(**には体の一部名称が入る)」
などと連絡が入るからです。
営業所のいい加減なところで、後者は別に遅刻扱いなどになるわけでもない。
電話をとったメンバーも、
「あ、そうですか、お大事に……」
となど応対していた。

彼は年休もしっかり消化する。
それ自体はもちろんいいのだけれど、年休取得日に、しばしば会社に遊びに来る ── それも、着流し姿&雪駄せった履きで。
── 大正時代の話ではない。
「よう」
てな具合に営業所に現れ、菓子などつまみ、30分ほど駄弁った後で引き揚げる。

(休みをとっても他にすること、ないのかしら……)
(それにしても、ひとりだけ着流しでリラックスって……)
── 女子社員はお茶室で噂したそうです。

ある時(おそらく2月ぐらいでしょう)、営業所長がメンバー全員を集めて言いました。
「会社の健康保険組合から連絡があった。この職場にひとりだけ、昨年1年間、1度も保険を使わなかった人がいます。これは、日頃から健康に気を配り、病気や怪我をせず、規則正しい生活をしているからこそ、達成できることだ」
そして、A氏の名前を挙げ、拍手した。
「健保組合からの表彰状です」
他のメンバーも拍手する。
この時はさすがにA氏、気まずそうに賞状を受け取っていたそうです。

(外回りっていうのも、たぶん……)
その日、お茶室ではこの話題で盛り上がったとか。

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