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舌下免疫療法


子どものときに、細菌や寄生虫に感染するような不衛生の環境で育つと、
その後アレルギーにかかりにくいと経験的に言われてきた。
これを証明したのは、
オーストリア・ザルツブルク大学のヨセフ・リーデラー教授。
10年以上にわたって農家と非農家の子どもたちの
アレルギー発症率の比較調査を行ってきた。
この結果、農家の子どもは非農家の子どもに比べて、
花粉症の発症率は三分の一、喘息は四分の一しかなかった。
生活環境、食事などを調べたが大きな違いがなかった。
非農家の子どもでも家畜に接する機会が多いとアレルギーが少ないことが判明して、
家畜小屋のように細菌に接触する機会が多いと
アレルギーにかかりにくいという結論にたどり着いた。
―――――『感染症の世界史』石弘之


▼▼▼慢性鼻炎の治療▼▼▼


2020年の後半から2年ほど、
僕は「舌下免疫療法」という治療をしている。

慢性のアレルギー性鼻炎がひどくて、
市販の点鼻薬をいつも持ち歩き、
食事の前には必ず点鼻していた。
そうしないと食事の味が分からないから。

あと、夜寝る前に点鼻して寝るんだけど、
夜中に鼻が通らなくなり目が覚めるので、
毎晩夜中に起きて点鼻して、
また寝る、ということもしていた。

2010年頃から悪化したんですよね。
多分僕が獣医の現場から身をひき、
日常的に牛や豚と接する機会を失ったからじゃないかと思ってます。
アレルギーって「清潔病」でもあるから。

最も困ったのは、
2019年ぐらいから僕はYouTube/Podcast配信を始めたのだが、
基本的に鼻の調子が悪いので、
鼻をすする音とかが入ってしまい、
非常に聞き苦しい音源になっていたこと。
今も咳払いとか普通に入って聞き苦しいとは思うけど。
プロのラジオパーソナリティの人とかって、
咳払いや鼻すすりどころか、
息してる音すら聞こえないよね。
あれ、本当にどうやってるんだろ、といつも思う。
喉とか鼻のケアーに余念がないのと、
やはり発声法とか技術とかが卓越しているのでしょう。
ここがプロとアマチュアの違いです。

上達したいなー。

でも上達しないなー。

とにかく、
「治療しないとまずい」と思ったのは、
YouTube/Podcast配信と、
教会でのメッセージですね。
本当にこれは悩みだったから。
メッセージ中に鼻水垂れてくるのも怖いし、
聞き苦しいしで。


▼▼▼粘膜を焼く▼▼▼


そんで、いろいろ調べた結果、
「レーザー治療」というのがあることを知る。
これは鼻の粘膜を焼くことで鼻水が出るのを止める、
ってやつで、別に嗅覚がおかしくなるとかそういうことはないらしい。
鼻血を頻繁に出す人もこれで焼くことがあるらしく、
知り合いにもその処置を受けた人がいた。
日帰りで終わる治療だそうだ。

興味深い。

かくして僕は、
2020年の秋に、
Googleの検索バーに
「慢性鼻炎 レーザー治療 西東京市」と打ち込んだ。
2件の耳鼻科が出てきた。

そのひとつに電話した。
「あの、アレルギー性鼻炎の、
 レーザー治療っていうのがあるって聞いたんですけど……」

お忙しいところ申し訳ないなぁ
と思いながら恐る恐る聞く。

受付のその女性は、
「レー…ダー…?」
「いやレーダーじゃなくてレーザーです」
「レー…ザー…ですか?」

オレはそんな変なこと言ってるだろうか?
「スカンピン酸ナトリウム式ジェットバスについて聞きたいんですけど」
ぐらいな新語を繰り出されたぐらいのテンションで、
受話器の向こうの受付の女性は固まっている。

いやいやいや。

……

……

いやいやいやいやいや。

さっきその病院のホームページを見た。
「私たちは慢性鼻炎のレーザー治療もしてます!」
とホームページで打ち出していた。
オレが打ち出した新機軸じゃないんだ。
あなたたちが自分のサイトで打ち出していることなんだ。

僕は食い下がった。
「いや、ホームページに、
 鼻炎のレーザー治療をしてます
 って書いてるから電話させていただいたんですよね」
「あ、院長に代わりますね」
「早よ代われい!!!」
↑これは言ってない。

「お願いします。」

……

「お電話変わりました。レーザー治療ですか。
 大丈夫ですよ。
 今から来ますか?」

まったく心の準備ができてなかったけど、
こっちはさっきのやりとりで前のめりになってるから、
「はい今すぐ行きます」

ガチャ。

あ、行きますって言っちゃった。

どうしよう。

めちゃくちゃ痛かったらどうしよう。

やだなー怖いなー。

怖いなーやだなー。

オレの中の稲川淳二がうずいたが、
意を決して1万円を財布に入れ、
チャリで10分のその病院に行った。

30分ぐらい待って診察を受ける。
さっき言った、
「夜中に二回ぐらい起きて点鼻薬入れる」
って話したら。
「それは酷いですね。焼きましょう」
「焼くんですか?ホントに?(痛くない?)」
だいぶ弱気になっている。

やだなー怖いなー。

痛そうだなー。

「レーザーもできますけど、
 酸で焼くっていう方法も当院ではやってます。
 こっちのほうが侵襲性が少ないのでお勧めですよ。」
「じゃあそれで」

まず、リドカイン剤を鼻の粘膜に塗りたくる。
気休め的な麻酔ね。
そんで、綿棒にしみこませた、
pH「1.5」(多分)とかの、
強酸をしみこませた綿棒を鼻の奥にぐりぐり突っ込む。
普通に、痛いよね、そりゃ。
酸で焼いてるわけだから。

痛すぎて声が出ない。

本当の地獄はそこからで、
会計を待つ間、
どんどん痛みが激しくなっていく。
鼻の奥を、がんがんボクサーに殴られ続けてる感じ。
会計は1万円を超える。
財布の中はすっからかんになる。

会計を終えると、
痛み止めが処方されていることを知る。

でも、現金がない。

向かいの調剤薬局に行っても金がないから、
一度家に帰ろう。
そして現金をピックアップして、
家の目の前にある調剤薬局に行こう。

これだ!

と思い、僕は自転車にまたがった。
鼻の奥をボクサーに殴り続けられながら、
10分間自転車をかっとばし、
家で現金を財布に充填し、
今度は走って目の前の調剤薬局へ。

計算外のことが起きた。
調剤薬局って、
基本的にその守備範囲(多くは半径50メートル)にある病院で、
よく処方される薬の類いを取りそろえている。
もちろん越境しても良いのだが、
耳鼻科が近くになければ、
当然耳鼻科関係の薬剤は在庫にないのだ。

なんか、薬剤師の方が困っている。
相談している。
鼻の奥を殴られ続ける。
痛い。
すごく痛い。
激しく痛い。

耳をそばだててると、
どうやら処置した場所を洗う、
「生理食塩水」がないらしいのだ。
「あれ! そんぐらい!」と思ったが、
親切なその薬剤師の方は、
「近くの薬局にはあると思うから、
 そこまで今から取りに行きますね」
と言ってくれる。
きっと薬局同士のそういったネットワークがあるのだ。

「ご親切にありがとうございます。
 ただ、
 ちょっと今処置したところが痛すぎるので、
 先に痛み止めだけ処方してもらって良いですか?」

時はマスク時代なので、
薬剤師さんはやっと僕の苦境を察してくれた。
あ、今すぐ水と薬用意しますね。
用意してもらった水で痛み止めを飲み込む。

その薬局で結局、
その後20分ぐらい待って、
痛み止めと生理食塩水を処方され、
家に帰った。

翌日ぐらいまでちょっとズキズキしたが、
すぐに痛みはおさまった。
痛み止めは2、3日飲み続けた。


▼▼▼舌下免疫療法▼▼▼


翌週、焼いたところの予後を見るために同じ耳鼻科に行く。
「うん、いいですねー。
 でも、この治療はまた粘膜が再生すると効果がなくなるから、
 今症状が治まっても2年ぐらいなんですよねー。
 根治したいですよね。」
首をブンブン縦に振る僕。
「じゃあ、『舌下免疫療法』っていうのがあって……」

、、、要約すると、
この治療はかなり新しく、
認可されたのは2015年、
しかも世界で日本が初めてなのだそう。
さすが花粉症大国。

ようは、毎日微量の「アレルゲン(アレルギーを引き起こすタンパク質)」
に暴露しつづけることで、
身体を慣らさせ、アレルギー反応をなくす、
という治療法なのだそう。

3~5年ぐらい、毎日、
1~2分間、
小さな錠剤を舌の下で溶かす。
それだけ。

ただ、保険適用外になってて、
小学生以下ならば自治体によっては無料で受けられるが、
大人だと毎月2500円~3000円かかる。

悩んだ。

悩んだけど、やる、と思った。

これは投資だと。

折しもそのとき、
新型コロナの給付金の10万円が届いた。
これを全部、この治療にぶっこもうと決めた。
妻に相談すると「良いんじゃないの」とのことだったので、
やり始めた。

まず血液検査をする。
一週間後、
「スギ
 ハンモク
 ヨモギ科
 イネ科」
などの花粉やら、
様々な物質にアレルギーがあるかどうかが、
一目瞭然の表を見せてもらう。
僕の場合、思った通り、
「ダニ
 ハウスダスト」
この2種類が突出している。

典型的なハウスダストのアレルギー性鼻炎なので、
ダニの死骸のタンパク質を成分とする、
ミテキュアという錠剤を処方することとなった。

治療を始めて2年ちょいが経つ。

マジで鼻は良くなってきている。
まだYouTubeで話してると鼻水出てくるが、
2年前と比べたら雲泥の差だ。
夜中に鼻炎スプレーする必要もなく、
鼻の通りが良いからきっと睡眠の質も上がっている。

願わくば保険適用になってほしいし、
もっと言えば僕は小児ぜんそくもちだから、
あと40年生まれるのが遅ければ(!!!)、
4歳ぐらいでこの治療を始めることで、
ぜんそく発症の予防にもなる。
あんなに苦しむ必要がなかった。

でも良いじゃないか。

ちょっとでもクオリティ・オブ・ライフが上がるなら、
今日より早い日はない。

あと、毎月自転車で耳鼻科に
薬もらいに行くのだけが大きな難点だったのだけど、
去年の秋に、オンライン診療ができることに気づき、
マジで快適になった。

あれは良い。

そんなわけで舌下免疫療法の話しでした。
僕ほど重度じゃなかったり、
人前でしゃべるとかそういう事情がなければ不要ですが、
真剣に悩んでいる人には結構お勧めですよ。



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参考文献および資料
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・『感染症の世界史』石弘之
・ホームページ「舌下免疫療法」安部医院



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