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『プロミスト・ランド』【過去メルマガPick Up】

主催するメルマガ
『陣内俊の読むラジオ』の、
過去記事からピックアップして、
読んだ本や見た映画を紹介していきます。

今回は、、、、

●プロミスト・ランド

監督:ガス・ヴァン・サント
主演:マット・デイモン、フランシス・マクドーマンド
公開年・国:2012年(アメリカ)
リンク:
https://tinyurl.com/y7l7eu9s

▼140文字ブリーフィング:

この映画、めちゃくちゃ面白いです。
かつて『壁の向こうの住人たち』という本を、
メルマガで紹介しました。
あと『ヒルビリー・エレジー』も。
この2冊は、田舎に住む米国の白人中産階級の没落という、
トランプ現象の原因となった背景を語る名著です。
分断はトランプ現象の原因であって結果ではない、
というのがとても大切なポイントです。

そこには明らかに構造的な問題があって、
数あるそのような構造的な問題の一つが、
共和党のかかげる規制緩和に乗じて、
エネルギー系の多国籍企業が、
米国の田舎の資源を食い物にし、
なおかつ公害により田舎の人々の健康を損ねている、
という欺瞞があります。
このあたりは『壁の向こうの住人たち』に詳しい。

米国でオイルシェールが見つかったことは、
世界史的な大事件で、
国際情勢と地政学を塗り替えるような出来事です。
これって日本の国家安全保障にも関係がある。
アメリカが近年、
「日本(韓国)は米国に頼らず、
 自国の安全を自国で担保せよ」
という態度をちらつかせている背景には、
実はオイルシェールが関係している。

アメリカはテキサスで石油が出るものの、
それでも世界最大の化石燃料需要をまかなうために、
相当なウェイトを中東諸国に負っていた。
アメリカがイスラエルにあそこまで執拗に肩入れする、
大きな原因は石油です。
中東にアメリカは自国の出張所を持っておきたいのです。
それほどアメリカの国家存亡にとって、
中東の石油は重要です。

オイルシェールというのは、
それが過去形になるかもしれない、という話なのです。
つまり近い将来、
シェールガスを最大限利用できるようになり、
採掘コストが下がれば、
自国で石油を自給できる見通しが立ってきた。
この話って00年代以降耳にするようになりましたが、
私の父は日本の石油会社(いろいろあって現在ENEOS)の、
技術者として仕事してましたから、
90年代には既に、
「石油のピークアウトについて、
 アメリカは大丈夫だ。
 シェールっていうのが見つかったから」
って言ってたと母が父の死後教えてくれました。

話を戻します。

安全保障の分野で現在もっとも戦略的に重要なのは、
「海峡」です。特に二つの海峡が重要で、
それはマラッカ海峡とホルムズ海峡です。
この二つの海峡が死ぬと、
日本やアメリカと中東を結ぶメインの石油の経路が死ぬので、
安全保障上の大危機が訪れるのです。
ところが先ほど申し上げたように、
もしかしたらこの海峡、
近い将来安全保障において、
米国にとって今ほど重要ではなくなる可能性がある。

、、、となると、、、ということですよ。

映画からずいぶん話がそれました。

オイルシェールです。

そう。
オイルシェールって、
世界のパワーバランスの拮抗が崩れるほど、
重要な事件です。
同じくらい重要なのが、
「北極海ルート」といわれる、
温暖化により夏だけ使えるようになった、
ロシア→カナダという海路なのですが、
これが北方領土と関わってるんですわ。
国と国の関係って、
けっこうそういう地理的要因が背景にあって、
イデオロギーの衝突とかって、
実はあとからつけられる理由だったりする。

また話がそれた。

そんで、オイルシェール。
これって確かに夢のような話なのです。
埋蔵量がすごいことが分かってるから。
ただ、採掘するときに、
水圧で岩を粉砕することによって回収するのですが、
そのときに発生するガスが大気や水を汚染します。
その汚染をエネルギー系企業が隠蔽してきた。
また、「共和党的な規制緩和」を隠れ蓑にしてきた。
規制緩和を党是とする共和党にもっとも多額を献金しているのが、
彼ら多国籍企業ですから。
まぁ、そういうことですよ。
つまりこれらの企業群は共和党へのロビイを巧みに使い、
米国の田舎に住む共和党支持者をある意味騙し、
採掘地域を広げてきたという黒い歴史があるわけです。

『壁の向こうの住人たち』に描かれているのですが、
非常に皮肉なことに、
この環境汚染を指弾し、
規制を強化せよ!と政府に訴えているのは、
都市部にいるリベラルな民主党支持者なのです。
田舎に住む共和党支持者は、
自分たちの健康を害することになる政策を支持し、
都会に住む民主党支持者が、
自分とは離れた田舎に住む人々の健康を蝕む、
野放図な多国籍企業の開発をやめろと訴える。
自分たちを守ろうとする民主党支持者を、
田舎の共和党支持者は罵倒し軽蔑する、、、、。
彼らが普段ニュースを取り込む、
FOXニュースや保守系言論人のツイッターでは、
「環境破壊という問題など民主党とCNNが創り出したフェイクだ」
という情報発信がなされているからです。

すごーく倒錯してるでしょ。

本作を観ると、
そういう構造がよく分かります。
監督は、名作『グッド・ウィル・ハンティング』や、
『エレファント』のガス・ヴァン・サントだと後で知って、
なるほど面白いわけだ、と思いました。
あと、なるほどマット・デイモンなわけだ、と。

あと『スリー・ビルボード』や、
『ファーゴ』に出演している、
フランシス・マクドーマンドがでていて嬉しかったです。
彼女とアメリカの田舎の風景が掛け合わさると名作になる説を、
私は唱えたいと思います。
(1,698文字)


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