「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」のネタバレ感想

「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」のネタバレ感想を書きます。
読んでない人は今すぐに読んできましょう。4000文字の小説なので、あっという間に読めちゃいますよ。

城南小学校運動会午後の部「マルチバース借り物競走」 | VG+ (バゴプラ) (virtualgorillaplus.com)

ということで、読んできましたね?
ではネタバレ感想を書きます。
この作品、最初に「こりゃただ者ではないな」と感じたのは、タイトルです。
もうこれ、タイトル公開されたときから「やられたわ」と思っていました。「未来のスポーツ」がテーマで、小学校の借り物競争。しかも午後の部。
参りましたと言うしかない。ありがとうございます、ニガクサケンイチさん(という予想です、ぼくの予想はよく外れます)。
で、これは絶対に面白いに違いないからと思ってて、だから後回しにしていたんですよね。
それなりに心の準備をしておいて、深呼吸して、読んだんです。面白いに違いないから、そう簡単には負けないぞ、と思って。

紙を開くとそこには「アインシュタインが作ったピラミッドの写真」と書かれている。

「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」より

……ダメでしたね、いくら身構えていても、見えない角度からのパンチは避けられない。ここを読んで、あっという間に笑ってしまいました。笑ったらもう負けですよ、はい。

で、新しい競技「マルチバース借り物競争」とはどのようなものなのかは実況によって説明されるんですが、注目したいのはここに至るまでの文字数。
「ここでマルチバース借り物競走のルールのおさらいをしておきましょう」という台詞に入るまで、400字未満なんですね。原稿用紙1枚も使ってない。その短さで、登場人物を紹介し、何人いるのかをさっと示し、どんな道具を使うのか、道具を使うとどうなるのかを手早く伝えてくれる。ここでもたついてしまうと、説明がするっと入ってこないんですが、テンポよく畳みかけられちゃったので、あれよあれよと実況を聞いてしまう。
ここまでテンポがいいのはタイトルの力も大きくて、笑いだけではなく、すべては計算されつくしているのを感じるんですね。
恐るべし、ニガクサケンイチさん(という予想です、ぼくの予想はよく外れます)。

んでもって、説明をふんふんとうなずきながら聞いていると「歴史を改変してそのアイテムを生み出してもらいます」とか言い出しやがります、ヤバいだろう、マジで、どんだけ笑わせるんだよ、と思いました。今、二回目読んでいるのに笑ってます。たぶん三回目も笑う。
で、「歴史に干渉をくわえた場合の解説をしていただくために社会科担当の野村先生をお迎えしています」を食らって、再びダウンします。もちろん実況といえば解説がつきものなんですが、歴史改編のインパクトが消えないうちに、次のハードパンチが来るとは思わないじゃないですか。
ほんとすごいよねえ(ため息)。

ここから先は、スポーツにおけるルール内の作戦と、その失敗を描いていて、ぼくはここのパートが一番好きです。思う存分、歴史を改変しているSFなんて、そう滅多にあるもんじゃない。借り物のお題もよく練られているのも相まって、読んでてとてもわくわくしました。「歴史の妙を狙っているのでしょうか」は、古舘伊知郎の「藤波よ、猪木を愛で殺せ」に匹敵する名実況だと思います。

ラストはオチの理屈よりも、最後の絵がとてもいいんですよね。
ちょっとさみしい感じがして、それがとても素敵だ。

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