歌スズメ

Blogmas(2), Dec 4th - Tutor-tutee Relationship in Bird Song Learning

二日目ーさえずりの話を引き続き読んでいきます。記事のタイトルは "Bird Song Learning is Mutually Beneficial for Tutee and Tutor"。ウタスズメの研究で得られたひな鳥と成鳥の関係性についての論文です。

ひな鳥は産まれたときはもちろん囀ることは出来ない為、他個体の歌を真似て歌うことによって徐々に自らのさえずりを完成させていきます。従来はこのさえずりの習得の過程は一方的なものだと思われていました。ひな鳥は他個体の歌を聴いて学習する、他個体はそれぞれ雌を誘惑したり縄張りを守るために歌い続ける。いわばひな鳥の盗み聞きです。(一般に考えられているのとは違い、ひな鳥がさえずりを学ぶのは主に親からではなく近隣の他個体かららしいです)

この論文の中で、筆者はそれに対する二つの仮説を提示します。

仮説①: ひな鳥と他個体は競争関係にある。ひな鳥の学習によって他個体は不利益を被り、ひな鳥の生存率と他個体の生存率は負の相関を持つ。

仮説①はかなり納得しやすく、普通に考えればそうなのではないかという仮説になります。ひな鳥が学習によってさえずりを上達させることにより、他個体は競争相手が増えることになります。雌を奪い合うとき然り、縄張りを奪い合うとき然り。ひな鳥が生存するということは他個体にとっての生存の可能性が低くなるということなので、相関は負になります。

仮説②: ひな鳥と他個体は相互に利する関係性にある。ひな鳥の生存率と他個体の生存率は正の相関にある。

仮説②はすんなりとは納得し辛いところもあります。ひな鳥は自らのさえずりを上達させられるという利益を他個体から得ます。ここまでは仮説①と同じ。他個体は、ひな鳥と”同盟”を組むことによって自らに利益をもたらします。他個体はひな鳥に近隣の縄張りを任せることによって自らの競争相手と成り得るような個体が近辺に住み着くのを阻害します。自らの歌をひな鳥に伝播させることで周囲の個体にも自らの存在をアピールすることができます。この場合、ひな鳥と他個体は共に生きていくので生存率は正の相関を持つことになります。

データはウタスズメのコロニーから収集したようです。若鳥と成鳥の歌を比較し、相似する歌を割り出してPrimary Tutor(一番さえずりの学習に影響を与えた成鳥)を見つけます(50%以上の共有率)。そして追跡調査によりprimary tutorとそのtuteeの生存率を分析しています。結果がこちら。

にどめ

画像2

簡単に言うと若鳥が歌を学べば学ぶほどどちらも生存確率が上がる、という感じ。それにしても綺麗な図ですよね。こんなの自分のデータで出たらほんとにもうねえ、ねえ。

ということでひな鳥と他個体の関係が相互に利するものであることはデータより裏付けが取れました。ここからは理由の考察になります。

仮説②をより詳細に組み立てていきます。筆者はここでDear Enemy Effectという現象を導入します。Dear Enemy Effectとは縄張りを持つ動物の中で、ある個体は隣の縄張りの個体より完全な新個体に対して強い攻撃性を示す、という現象です。お隣さんとはいったん縄張りを決めて棲み分けができてしまうとあまり敏感にはならないという現象みたいです。ただしその”信頼関係”を裏切って近隣個体が自らの縄張りに入って来た場合には非常に強い攻撃性を示します。("an intrusion by a former ally violating the agreement is taken as a greater threat - a 'double cross' - and so evokes a stronger response, than an intrusion by either a stranger or even a familiar bird with whom the subject has a weaker dear enemy relationship", p.10)。このDear Enemy Realtionshipがさえずりの形成過程で構築されることにより、若鳥はさえずりを上達させられる、成鳥は縄張りへの危機が減る、こういったwin-winな関係が出来上がっていました。

因みにこの論文の本題とは外れますがDear Enemy Effectの反対としてNasty Neighbour Effectというものもあります。これはある個体が、近隣の個体をより大きな脅威と見做し(はぐれ個体や流れ個体よりも)、攻撃性を高める現象です。既に縄張りを確立している個体の方が単体の脅威というのは大きいのは確かに自明にも思えます。マングースや蟻で観察されている行動形態で、傾向としてはNasty Neighbour Effectの方がDear Enemy Effectより頻繁に観察されるようです。

さて、筆者は更に議論を発展させて「教育」の可能性を示唆します。ヒト以外の動物での「教育」の現段階での定義は、

1)教師は生徒の目の前で行動/教示を行う。
2)その行動/教示は教師への即座の利益をもたらさない。
3)その行動/教示の結果生徒はその習慣をより早く受け継ぐ。

の3つです。筆者は数点の状況証拠から鳥の教育の可能性を示唆しますが、これの追及は今回の研究のメインではなく、またさらなる行動観察が必要となるために後続研究へと期待を託しています。

中々面白い論文でした。個人的にもあまり突っ込んで考えたことのないテーマで色々周囲を掘って考えることも出来ました。あとはデータ分析の手法(mixed-effect model)がわからなくて検索したのですけれど、説明に使われていた単語が(response variable, coefficients, fixed factor, etc)丁度今期のデータ分析のコースで扱ったところであったので頭に入ってきやすく有難かったです。将来こういった研究をすることも考えたらより発展的なデータ分析も履修していった方がいいんだろうなあ…二年生になったら選択肢の一つとして考えてみようと思います。

論文自体は面白かったものの。利益不利益の話をする際に議論が縄張りの問題だけでしか展開されなかったのは残念でした。Dear Enemy Effectが効いていても実際雌の奪い合いとなったらどう変化していくんでしょう、そのあたりの論文も見つけられれば読んでみたいところです。

今回の論文は非常に参考文献、資料の使い方が上手く、美しく自分の説をサポートしてくれるように展開させていっていたのでそこも参考になりました。過去の自分にこれを読ませてやりたい。ということで今回の参考文献はこちら↓

Beecher, Michael D., Caglar Akcay, and S. Elizabeth Campbell. "Bird Song Learning is Mutually Beneficial for Tutee and Tutor." BioRxiv (2019): 774216.


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