あとり

Blogmas(3), Dec 5th - latutitude&migration&evolution+bird song complexity

遅くなりましたーバイト先の先生に食事に連れて行っていただき、帰宅が12時を回りました。眠いが電車の中でさらっと読み切ったので少し短めで駆け足ですが今日の論文の内容を書き留めていきたいと思います。

今日の論文の題は"The relationship between latitude, migration and the evolution of bird song complexity"です。IBIS (International journal of avian science)という雑誌に2018年8月に掲載されたものになります。

テーマは緯度と鳥の歌の複雑性の関係。実際にデータ採取等を行っているわけではなく、既出の論文をメタ分析した形になっています。

実は鳥 (この論文では特にスズメ目) の歌って高緯度になればなるほど複雑化するというのが定説らしいんですね。知りませんでした。一行目から新規の知識突っ込んでくれる辺り好感が持てます。加えて渡りも歌の複雑性に影響している可能性があるらしく。筆者はその潜在的理由を整理して説明してくれます。

1)緯度

a) Ecological Hypothesis : 高緯度に行けば行くほどその他の雑音が無くなる。虫の絶対数が減少するため。音の絶対量が減少するため、"sound space" が生成される。よりspaceが生まれるため歌も複雑化する余裕が生まれる。

b) Sexual Selection Hypothesis : 高緯度に居住する鳥は傾向として繁殖期間が短い。繁殖期間が短いということは競争もより激化するので同種内での優劣を決定する為に歌が複雑化する。

2)渡り

a) Ecological Hypothesis (1) - temporal isolation hypothesis : スズメ目の鳥には、渡りをする集団と定住する集団が同種内で分かれていることも多々ある。その場合、渡りをする集団は定住する集団に比べて営巣時期も営巣地域もずれることが考えられる。この母集団からの孤立 ('temporal isolation') がまるで「人間が地域ごとに方言を発達させるように」鳥にも歌の複雑性をもたらす。広く解釈してしまえば母集団との分離により元の歌+彼ら独自の歌が形成される。

a) Ecological Hypothesis (2) - panmictic migrants hypothesis : 渡る集団は定住集団よりより広く分布するので、歌の複雑性は逓減する。これ実は定説に逆らった説。この論文では詳細は省かれているためどのような理論かは不明。Bolus (2014) が論文で書いているらしいので後日確認したい。

b) Sexual Selection Hypothesis - good migrations hypothesis : 鳥の渡りは遺伝子に強く影響されていると考えられている。より良い営巣地点を発見する能力のある個体はより’質の高い’換羽を行う。これと同じことが歌にも言える可能性がある。より能力の高い個体は営巣地に到着してからも時間とリソースが比較的多く、その間自らの性的魅力 (=歌の複雑性) を磨き上げることができる。

b) Sexual Selection Hypothesis - ranging hypothesis : 前述のとおり鳥の集団は'方言'を形成する。縄張りを持つ個体は、その方言を聴き分けることによって別個体がどれほど遠くから来た個体であるのか、自分の縄張りとどれほど近く、どれほどの脅威と成り得るのかを判別する。渡りの個体はそれを妨害する為に自らの歌を発達させる。縄張りの個体はそのさえずりが一体どこからきているのかわからない為(近隣の方言とは似つかない為)労力をそこで使ってしまうことになる。所謂歌の複雑性による縄張り保持の妨害工作である。(個人的にもあまり納得していない説。関連文献等でもっと調べてみたい)

b) Sexual Selection Hypothesis - territory lottery hypothesis : 定住し縄張りを持つ個体群が常に自らの縄張りを守り続ければならないのなら(渡りの個体が次々に襲来するのだから)定住個体群は自らの歌を更に発展させていく。より魅力的なアピールをするために。

という感じで7個ほど仮説が提示されます。この時点で読者はもうわくわくなんですけど実は結論としてはどの仮説が本当なのかは「わかりません」。

問題点はいくつかあり、まずは一つの現象が単一の原因によって引き起こされているとは限らないということ。複数の仮説が組み合わさって現状を作り上げているのかもしれない。そして比較された論文が手段の面で統一されていないこと。代表的な例でいうならば、歌の複雑性の定義の曖昧さ、スズメ目のバラエティ。色々な要因があって結論は出ないまま終わる。少し肩透かしなんだけどこれでも面白い要素は沢山あったからOK。そろそろ眠いので締めに入ります。

高校時にウグイスの方言で研究もどきをやった身としては色々と身につまされる論文だった。あのペーパーを書いているときにこの論文を見つけていたらと思う。歌の複雑性というのは非常に定量化した計測が難しく、種によって異なった測り方になってしまうのが実情。ウグイスで僕がやった時は、あの有名な"ホーホケキョ"を使用して地域ごとの比較を行ったが、ウグイスにはそれ以外にも谷渡りと呼ばれる鳴き方の種類もある。それを含めて分析を行えていたらよりよくなっていたのかもしれない。とは言えどもデータは足りず四苦八苦していたのでそれはそれでいいんだけれども。

高校時に書いたもう一枚のペーパーではクロオナガムクドリモドキの歌の種類について分類を行ったのだけれど、種類が多すぎて途中で挫折しかけたのを覚えている。それくらい一定の種は多種多様な歌を持つ。ウグイスのような主に二つほどしか特徴的な歌のない種とそれらを比較した際、基準がぶれるのは必然的なことである。難しい。

この論文で面白かったのは、失敗していること。最初に関係性を解き明かすと銘打っておきながら結論は出ずに終わり、なぜ結論が出ないのか、なぜ結論を出すのは難しいのかの説明を2ページに渡って行い、もっとこれらを考慮に入れた後続研究に願いを託して終わってしまう。

僕なら純然たる結果が出ない時点で諦めてしまいそうである。いわゆるpublished paper biasという奴であるけれど。それをここまで詳細に失敗の原因を分析してまとめ上げているのは素直にすごいと思った。

参考文献はこちら↓

Najar, Nadje, and Lauryn Benedict. "The relationship between latitude, migration and the evolution of bird song complexity." Ibis 161.1 (2019): 1-12.






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