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光だ。

泥のように、と書き出して、違うなと思っていくつか文字を消した。ホラー映画の中に出てくる(とは言ってもホラー映画など、ほとんど観たことないのだけれど)ホワイトキューブの眩い光に照らされて、突然目の前で捲し立てられては置いていかれるような季節を過ごした。冬が好きなはずなのに、今年に至ってはそんな僅かな楽しみも、クリスマスを過ぎた年末にならないと訪れなかった。時間がするりと逃げていく。

今年。

初日の出を、生まれて初めて見た。もしかしたら初詣の境内で年越しを迎えた高校生の時に、初日の出の光を浴びたかもしれないが、僕は初日の出を目視したことはなかった。

病院に(そこそこ)きちんと行くようになった。基本的に怠惰なので行くことを渋っていたところもあったけれども、行ってはいけないような強迫観念も抱えていたのも事実で、それを少しは払拭できたように思う。

(病院を言うついでに、そう言えば)採血にそこそこ慣れた。歳月を重ねるとはこのことかと思いながら、今年は人生で一番採血をした。ワクチンもあったから、もしかしたら人生で最も針を刺した(刺された)。

6年ぶりにパンを焼いた。学生の頃はよく手作りしていたけれど、オーブンを手放してからは遠のいた。ついでにラザニアも初めて作った。院生の時に、隣の研究室の留学生の子が仲良くしてくれて、ラザニアを作ってくれた。あのラザニアを思い浮かべる。いつだって、あの大講義室の暗がりを思い出す。

24時間エアコンをつける生活をやめた。適度に消してつける生活も特段支障がなかった。ペットボトルで水を買うのではなく、浄水器を買った。完全栄養食(だけを食べるの)ではなく、おにぎりを食べた。一人旅も、宿泊することなく日帰りにした。

Bluetoothのイヤホンを買った。音楽を聴いた。ライブに出かけた。レコードを買った。相変わらず本はたくさん買う。美術館は時々出かけた。ギャラリー間は学生時代よりも少しだけ近しく感じた(それは東京に住んでいるからだろうか)。ポスターをいくつか買った。写真を(これまでと変わらず)たくさん撮った。インスタグラムは少しさぼった。

たくさん、横顔を眺めた。たくさんの感情を持って、横顔を眺めた。朝には、今日がよい一日であることを、たくさん祈って、夜には、よく眠れることを、たくさん祈った。ふとした瞬間に泣きそうになることを、僕は全く堪えなかった。

たくさんの、光だ。


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