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陽だまり。

行こうかなと迷っていた九州行きを、前日の夜に決心した。急いで航空券の予約を済ませて、明日は6時前には起きなくては、と思ってベッドに横たわった。起きるのだと思い込んで、横たわった。今日は目がまだ冴えている。歩いて帰って、シャワーを浴びて、すこし火照った身体でそう思った。そう思い込んだ。明日は早く起きなくてはな。そうして、朝。目を覚ました。枕元の時計を手に取る。きっかり7時。保安検査場締め切りは後数分。ああ、やってもーた、と呟いた。ああ、やってもーた。まあるい朝の始まりに包められて、もう一度枕に頭をのせる。どうにも回らない頭で今日1日の行程修正を考える。

昨日の夜をぼんやりと後悔しながら遅々として進まない準備に、短い時間で重ねて後悔する。もう急いで飛行機に乗るのも億劫になり、新幹線に決めた。外は雨。贅沢にも通勤の人で溢れかえる駅に、タクシー。贅沢だな、乗り過ごした身分で、と思いながら、場違いな格好で人の流れに逆行しながらホームに降りる。5時間後に、九州。長いな。

すでに午後2時。ほとんどを眠って過ごした新幹線を降りて各駅停車に乗り換える。静かな車内にのんびりとした陽だまりを抱えて列車は走る。途中で高校生が乗ってきて、少しまだ甲高い声が車内を鋭敏に飛び交う。平日午後の各駅停車。もうすぐ3時。

様子を覗いた地域の縁側のようなカフェスペースで、どうぞと声をかけられる。のそのそと入って、進められるがままに畳に腰掛ける。かわいい靴履いてるね、とぼんやりつぶやいてくれた。それは僕が返事をしてもしなくても、大丈夫だと安心させるような、そんなやわらかな言葉だった。行程では滞在時間の終わりが迫っていたけれど、予定を少し変更して、たまごサンドとアイスコーヒーを頼んだ。今日はまだ何も食べていない。
やわらかい時間とは、このことなんだろうなと、思い返している。外にはどこまでも、まあるく明るい陽の光で満ちている。

お礼を言って、レジ横にあったドーナツを買って頬張りながら駅に向かった。温めた方が美味しいよと、そう言って温めてくれたドーナツは、湯気を含んでしっとりと身体を暖かくする。
次の目的地まで2時間。ひたすら列車に揺られた。ついに5時半を過ぎた。陽が沈んでも、まだ陽の光が残っているうちに行かなければと急いで目的地を目指す。駅から走った。走れることに少しうれしくなりながら、地図が示す方向に向かうと、突然それらしきものが現れた。地図を再度確認する。観たかったものが目の前に現れると、いつも軽い感動に似た感情になる。まだ少し明るい。間に合った。

帰りは飛行機。少し余裕を持って空港に到着。お土産を買って、ラーメンを食べる。勢い余ってはしごした。急いで保安検査場に向かうと、雷で飛行機が遅れている、とのアナウンス。iPhoneの充電が残り1桁だったので充電してのんびり待っていたら、名前を呼ばれた。今度は空港で乗り遅れるところだった。謝りながら、慌てて搭乗する。まだ人の列の最後尾がボーディングブリッジにあったので少し安心する。
非常口横の座席だったので、少しだけ緊張する。その代わり足元は広くて快適だった。

羽田からのバスはすでに最終が行ってしまったので、モノレールと列車を乗り継いで帰った。

1時近くに家。
シャワーを浴びて横になったらすぐに眠った。

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