垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達~
第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 29
閑話休題。
ドナム保持者同士が結束して事に当たらなければならない。
そんな状況が発生した時は、問題解決を企画した主催者が直近のデータベースに協力を仰ぐ。
そうして隣接するデーターベース沿いに情報の伝達を頼むのだ。
情報の伝達は通り道のブランチ内に、任務に相応しいドナムをもつ人間が見つかるまで続く。
適任者が見つかったら主催者がその人間を、自分のブランチにリクルートするとのことだった。
シスター藤原はここでボランティアという言葉を強調した。
問題解決のために遂行される任務は、あくまでボランティア活動なのだそうだ。
事実OFUや桜楓会ではいくつかのブランチが集まって慈善団体=クラスターを形成している。
大抵の問題は小さな規模で解決できる。
そこで、様々な工作や作戦も表向きは慈善団体のボランティア活動の様にふるまうのだとか。
桜楓会も児童養護施設や老人介護施設、病院などをブランチの集合体=クラスターとして傘下に持っているのだと言う。
この病院も修道会が母体ながら桜楓会の息がかかっている慈善団体ってこった。
なんて事はない。
修道会がそっくりそのまんまOFUの一部なのだろう。
OFUにはこまごまと組織を独立させる方針がある。
更には独立した組織は極力相互に交流を持たない。
そんな大前提も存在すると言う訳なのだった。
各組織が独立して存在するのは、いざ敵対者との戦いになり敗色が濃くなった時の保険だ。
敵対者に負けたブランチやクラスターは、データーベースである結節事切り離せばよい。
そうすればトカゲのしっぽ切りよろしく、他のブランチやクラスターに影響が及ぶことを最小限に防げる。
どうやらそう言う理屈らしい。
知らないことは喋れないという原理を徹底している。
それがOFUという臆病な組織なのだね。
ちなみに僕らのブランチは、当面他のブランチから完全に独立した紐になるそうだ。
大きなネットの結節であるシスター藤原からぶら下がる、他と繋がりを持たない宙ぶらりんの紐と言うことだ。
そして僕らのブランチでシスター藤原と繋がるリエゾンには橘さんが指名された。
萩原さんと同じ役回りだね。
ブランチ内での年長者であり、若くして会社役員で元自衛隊員とくれば言うことはないだろう。
橘さんってば、シスターが束ねる数多のクラスター内でも一二を争う貴重な人材だろうね。
誇らしいことだよ。
けれども、橘さんは僕と言う起爆剤が破裂したら、無条件で終末装置を起動するトリガーでもある。
僕が死んでしまったなら、アンゴルモアどころではない世界の破滅を約束するお嬢さんなのだった。
シスター藤原は千年以上生きてきたせいか、この世界線の存続と言う一点に強い拘りを見せる。
まぁね。
僕にとっては死んじゃった後の話なので、どうでも良いっちゃどうでも良いことなんだけどね。
橘さんに言わせれば、今僕らが乗っかっている時間線はヴィンテージものらしい。
僕としては他でもない橘さんの為に、シスター藤原の願いを最大限に尊重したいと思っている。
その気持ちは皆も同じだ。
橘さんが二度と再びつらい思いを繰り返さないで済むように。
皆んなで結束して時を渡っていこう。
そう誓い合っている。
橘さんは僕より五秒早く死ぬのが生涯の目標だと言うので、その線で僕も頑張ることにしたんだ。
もっとも橘さんが先に死んだら僕が何をしでかすか。
僕自身にも全く見当がつかないんだけどね。
僕の中には、他にもまだ未知の力が眠っていそうな気がするしな。
そのことはシスター藤原も凄く心配してるよ。
橘さんも自分が死ぬなんて体験はしたことがない。
そう言ってることだしね。
シスター藤原にしてみれば爆弾娘と起爆剤や時限タイマー達は、しっかり自分の手の内に収めて飼い殺しにしたい。
それが噓偽りのない本音だろう。
そう思うだけではなく「どうせ内緒にできないのだから」と、僕らの前で公言しても見せた。
もちろんそのシスター藤原の本音については、三島さんと先輩がちゃんと裏を取った。
僕と“あきれたがーるず”の面々は、当分の間どこのクラスターにも編入しない。
シスター藤原子飼いの社中“マドカズエンジェルズ”として、ボアランティア活動に従事することになる。
当分の間と言うのが一年なのか千年なのかは謎だよ。
“マドカズエンジェルズ”なんてセンスを疑う名称はシスター藤原しか使わないけれどもね。
シスターは“マドカズエンジェルズ”を「他のブランチへは貸し出しません」どころか「当面その存在を秘匿することにします」と言い切った。
当面が一年なのか千年なのかはやはり謎だ。
「いいわね、ふたりとも」
萩原さんとヒッピー梶原に厳命したシスター藤原は、長く桜楓会を牛耳ってきたお局様の顔だった。
たかが数百年生きてきたくらいじゃオッサン二人。
シスターにとっては鼻垂れ小僧扱いがせいぜいだってことはよく分かった。
とすると、僕らは“恐るべき子供たち”ってことだろう。
千年女王が顔を引きつらせ、涙目になって下手に出るくらいだからね。
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