褒めると運動学習が促進する?!?!

 誰もが,褒められると嬉しいと思います.学習中や練習中に褒めることは,学習者の自己効力感や有能感を向上させたり,ポジティブな感情や,良い結果を導くことが多くの研究からわかっています.私たちが,実際に褒められた場合も似たようなことが起こっていると感じると思います.

 運動学習においては,褒めることによってやる気や自己効力感が向上することによって練習参加がより意欲的になり,学習が促進されます.つまり,褒めることは,モチベーション(やる気)をあげることによって運動スキルの向上に寄与するというメカニズムだと言われています.

 しかし,運動学習過程においては,練習していない時間(例えば寝ている時間や休憩時間)などにおいても,学習が進んでいることがわかっています.このような学習過程は,スキルの長期的な保持にとても重要な役割を担っています.(練習していない時間に学習が促進することをオフライン学習と言います)

 もし,褒めるという行為が,オフライン学習に寄与し学習を促進するのであれば,褒めるという行為はやる気をあげて学習効果を向上させるだけではなく,学習効率を直接的に向上させる効果があることが証明することが可能でしょう.

そこで今回紹介する研究はこちらです.

Sugawara et. al.,(2012)Social Rewards Enhance Offline Improvements in Motor Skill. PLOS ONE 7,11:e48174      https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0048174

目的 運動学習トレーニング後の社会的報酬(褒め)がスキルの定着を向上させるかどうかを検討すること

方法


被験者;男女48人(22.8±5.17)

グループ

self group; 自分のパフォーマンスを賞賛する動画をトレーニング後に鑑賞

other group;他人のパフォーマンスを賞賛する動画をトレーニング後に鑑賞 (動画を見たという要因を排除するための条件)

No-praise group; 動画鑑賞なし

課題 ; The sequential finger tapping task(非利き手であらかじめ決められた1-4の数字の配列をできるだけ早く押す課題)

画像1

Day1 ; 30秒試行-30秒レスト12回のトレーニング後に動画鑑賞

Day2 ; 30秒試行-30秒レスト5回のトレーニングと同様の内容を実施ののち,NEW(新規の配列)とRAN(ランダム配列)を実施.さらに,モチベーションの測定にWM課題を実施.

結果

トレーニング終了時のパフォーマンスはグループ間で有意な差は認められなかったが,Day2のretest時には全てのグループで有意なパフォーマンス向上を示した.さらに,selfグループにおいて他の2つのグループよりも有意に大きなパフォーマンスの向上を示している.さらに,動画参照後は,実験参加者たちの幸福度が通常時(4)よりも高値を示しており,significantly

ことがわかる.

画像2
画像3


*注意力,疲労,睡眠の質と量はグループ間に差はなかった.

考察

トレーニング後の賞賛は運動学習を促進することがわかった.この効果は,今まで言われているようなやる気の向上や,練習参加の向上のみならず,オフラインでの学習に直接的に働きかけ,学習を促進する効果あることがわかった.

今回の実験では,トレーニング後に賞賛しているため,賞賛によりモチベーションの変化は練習態度や質に影響を与えないが,練習していない時間での学習の統合という過程に直接的に働きかけトレーニング効果を促進するものでしょう.

 今回の結果は、賞賛は線条体でのドーパミン伝達を誘発する「社会的報酬」として機能し、運動能力の統合を強化することを示唆しています.

 例えば,活性化された脳の部位は(例えば記憶力を鍛えた場合など)は同じ部位が睡眠中に再び活性化することがわかっている(睡眠学習の可能性?).

 つまり,賞賛することによって運動学習で必要とされる脳部位が活動することによって,寝ている時に同じ部位が活動することによってオフライン学習が促進された可能性が考えられます.

 多くの指導者が,欠点に目を向けて注意することが多いと思うが,できていることを賞賛することによって練習中以外の時間での学習効率が格段に向上するでしょう.特に,多くの人が賞賛することはやる気をあげることくらいにしか効果がないと思っていたと思うが,運動学習自体に直接的に作用を及ぼすことはとても意外な発見ではないかと思う.

 今回の論文を読んで,”褒める指導”の重要性がまた一段と上がったように感じます.特に子どもの運動指導では,”褒める”というのは大人以上に重要な要素であると思います.子どもは日々新たなスキルを獲得しており,新規な動きに触れる機会がたくさんあります.さらに,このような新規スキル獲得は,脳の発達にも重要な要素です.今まで以上に褒めることにより,やる気が上がり,学習意欲が向上するのみならず,スキル獲得や技術の向上にも効果があるので一石二鳥です.これらのことは,学習場面にも応用できると思います.悪い場面ばかりに目が行きがちですが,練習や学習の進歩や過程をできる限り褒めてあげたいものです.

賞賛して学習効率をあげよう!!!

主に,スポーツ医学や子どものスポーツに関することについて配信します.