大喰いこそ男の浪漫なり(3ー3)

さて今回も、僕が出会った大食漢の話しですが、大食いの話しではなく、
ほんの僅かな時間でしたが楽しい時を過ごさせてくれた、
大食漢で有名だったレジェンドのお話しです。
全3回の3回目


3,さらば愛しきレジェンド

最後の登場人物は、テレビで良く見る食レポなどをする「デブタレ」と
呼ばれる太ったタレントの先駆けと言われている方で、
今でも「デプタレ」の人たちからレジェンドと呼ばれている人のお話です。

そのレジェンドが残した歴史に残る名言があります。
「カレーは飲み物」
きっと誰もが知っていると頷く言葉ではないでしょうか。
この言葉が生まれたきっかけは、収録中のアドリブだったらしいのですが、
レジェンドは全盛期に、一皿のカレーライスを3口3秒で食べたそうです。
つまり、カレーを盛った皿を持ち、皿の手前に口を持っていき、
右、中央、左と3回、右奥から口にザーっ、真ん中ザー、右側ザー、
はいごちそうさま、です。

今では「カレーは飲み物」と言いますが、実は「カレーライスは飲み物」
だったらしく、当人は「そう!カレーライスは飲み物なんだよね」と
笑っていました。

僕とレジェンドと会った回数は多くありません。
酒場で一緒に飲んだのが7〜8回、そして仕事が1日、それで全部です。
どこで、誰に紹介されたのかすら覚えていません。
でも新宿で出会い、なぜかかわいがっていただき、短いながらとても楽しい時間をすごさせていただきました。

その当時レジェンドは、身長が170後半、体重は110とも115とも聞いた
覚えがあります。とにかくパッと見て「デカい!」と口から出てしまう
大きさで、なおかつ強面。でも話すととても優しく、それを物語るような
パッチリした瞳がとてもキレイな人でした。

その巨体にもかかわらず、バリバリの体育会で運動神経はバツグン。
ダンスが専門だった時期があって、軽やかなステップのダンスは
115㎏の巨体と思えないキレ味で、その当時の大人気のTV「オレたち
ひょうきん族」でマイケルジャクソンのスリラーを完コピして人気を
博しました。

レジェンドは出会った日からボクを「しゅんちゃん」と呼んでくれて、
「さん」付けで呼ぶボクに「〇〇ちゃんでいいよ」と言ってくれて、
それからずっと年下のくせに「ちゃん」付けで呼んでいました。
上下関係が厳しい芸能界だったら許されないでしょうが、
ただ街であった友だちとしてはOKだったのでしょう。

レジェンドの大食いはとても有名でしたが、目の前で見た!とか
これという記憶はありません。
でも一度だけこんなことがありました。

どこかで呑んでいる時のこと、焼き鳥が出てきました。
するとレジェンドは「しゅんちゃん!見てて」と焼き鳥を手に取り、
横に持ち、口と平行にセット。串の一番下の肉をパクッとくわえ、
横に一気に串を引き抜く・・・と、手に残るのは串だけ、すべての肉は
口の中。そう焼き鳥一気喰いです。
大げさじゃなく、一瞬にして焼き鳥が消える一秒必殺の神業でした。
カレーライス3口というのが本当なんだと思い知らされた瞬間でした。
「本当はこれを連続五本いくんだけど、五本は今度ね」とニコリ。
デカい体がますますデカく見えたのを覚えています。

レジェンドは料理上手でもとても有名で、その頃はご自分で調理する
居酒屋をやっていました。
会う度に何度も何度も「お店に来てよ!」と言ってくれたのに、
結局一度も行かずじまい。

その頃のボクは、CMの制作会社で働く社会人なりたての小僧。
一年中お金がなくてピーピー言ってるガキでした。
レジェンドのお店は庶民的な居酒屋でしたが、そんなボクにとって、
「ちゃんとお金が払えなかったら・・・」という不安や、
「お金いらないよ〜〜」と言いそうなレジェンドのことを考えると、
気が引けて行くことができなかったのです。
でも一度お店の前まで行ったことがあります。
意を決して行ったのですが、沢山のお客さんが入っているらしく大きな笑い声が響いてきます。やっぱりボクが行く所じゃないとそのまま帰りました。

人と人の縁とは不思議なもので、あんなにいつどこに行っても会えて
いたのに、その日を境に二度と会えなくなったのです。

それから3年後、別の制作会社に転職していたボクにイベントの運営の
会社命令が下りました。どこかのショッピングセンターで2日間、
歌手やゲストを呼んでのイベントです。
その1コーナーとしてレジェンドをゲストにトークショーをやることに
なったのです。もちろんレジェンドを提案したのはボク。
ここで久しぶりに会いたいという思いがあってのことでした。
控え室で会ったレジェンドは大きい目をさらに大きくして
「しゅんちゃ~ん!元気だった?」
その一言がとても懐かしく嬉しかったのを覚えています。

でも結局その日が最後になりました。

それから10数年後レジェンドは亡くなりました。
長年にわたる鯨飲馬食からの糖尿にくわえ、他も色々悪かったようです。
記事の載ったスポーツ新聞を何紙も買い込み、目を皿のようにして、
隅々まで半泣きになりながら読みました。
でもきっと「泣いたらダメだよ」と言われる気がして、ひとり空を見あげ、
ありがとうございましたの言葉とともに笑顔で天を仰ぎ、見送りました。

今でもレジェンドのやさしい笑顔や声の記憶を思い出しながら、大食いの
エンターテナーへ、一人だけのカーテンコールを贈り続けています。


大喰い。
それは常識を簡単に越えてしまう驚愕の世界を見せることで、
人を驚かせ、そして大いに喜ばせ、笑顔にしてしまう魔法を持っています。
でも、どこかもの悲しく、哀愁や孤独を感じるのも事実です。

チャップリンは数多くの映画で
人という存在が持つ、愛、生きる歓び、そして哀しさを描き続けました。
そして形を変えてはいるものの、同じような人が持つものを表現している
のが「大食い」なのかもしれません。

今回ボクが青春期に出会った3人は、ボクにとっての偉人です。
「まっすぐに生きる」
そんな大切なことを、見せて、教えてくれたのだと思えるのです。


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