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大阪「医療崩壊」の経験から②・必要な医療が受けられないのは感染者だけじゃない!「国民皆保険崩壊」の危機


■感染拡大が止まらない…大阪「医療崩壊」再現になってしまうのか??


関東の医療逼迫が「災害級」「過去最悪」と報じられ、今日8月17日には非常事態宣言地域がさらに拡大、既に神奈川県では病床逼迫のため通常手術の延期に踏み切らざるを得なくなっています。
ついにここまできてしまったか、と暗澹たる思いです。

新型コロナが災害級に 関東の医療逼迫が過去最悪  倉原優 8/15(日)
神奈川県 “医師が延期できると判断”入院や手術 延期を要請 2021年8月6日 

通常手術の延期は、既に2021年5月、前回の非常事態宣言下の大阪「医療崩壊」で起こっていたことです。
まさにその時、大阪在住の母は、手術が必要とされたにもかかわらず病床逼迫で転院先が20時間決まらない状態に陥っていました。

その時、大阪で何が起こっていたのか?
「医療崩壊」を再現させないためには何が必要なのか??

期せずして大阪の医療崩壊の当事者となってしまった母の体験と、社会福祉協議会職員としてコロナ緊急対策窓口を担った経験にもとづき、とにかく1ミリでも現実の改善に繋がることを願って書きます。


■感染者に救急車の中で命の選別が


当時、大阪のコロナ病床使用率は連日100%越え、5月中旬には106%に達していました。


一般病床・ICU・産婦人科等を潰してコロナ病床を絞り出しても、感染者の入院待機ステーションを2か所開設しても、それで追いつかず、入院率は1割。90%の人が入院できない状態が慢性化し、救急搬送されても受入れ先が見つからず、ベットの空きを待ちながら亡くなられる方が続出しました。受入れ調整に72時間かかったという報道もありました。

すべての救急車が出払ってせっかく駆けつけて救命を施しても、「救急車トリアージ」つまり病院に着く前に救急車の段階で命の選別をするしかないギリギリの状態に追い込まれていたのです。

行き場のない救急車をトリアージ 大阪 生と死 狭間の現場より


■通常医療は救急・入院停止、手術延期→大手術に


一方、病床を削られた通常医療・一般病床などへの影響も甚大で、大阪の多くの病院では「当面、救急・入院の受入れを停止、一般外来のみ受付」となりました。母がいた病院も同様でした。
仮に外来で重篤と診断されても入院する先がない。感染者でさえ救急搬送されても受け入れ先がない中で、一般の急患は搬送すら困難となっていたのです。

さらに、通常手術が延期されると何が起こるのか?

ウチの母を例に見てみます。
まさに”医師が延期できると判断”したケースでしたが、リスクがゼロだった訳ではありません。

母の疾病名は大動脈解離。漫画家の三浦健太郎さんが亡くなられたのと同じ、血管が裂ける病です。心臓や太い血管に近い箇所が裂けた場合、一発アウトで死亡することもあります。

母が発作を起こした時は心臓に近い箇所だったのですが、血管が完全に破裂していなかったので緊急手術ナシとの判断となりました。「9割は血管が破裂して亡くなるが、1割は助かる。その1割に入っていた」と。

ありえないくらいの確率で助かったのですが、血管がいつ破裂してもおかしくない時限爆弾を抱えた状態なので、人工血管に取り換える手術をすることになりました。

全身麻酔で開胸し一旦心臓を止めて行う6時間にも及ぶ手術で、簡単ではないが、成功すれば日常生活を取り戻せる。ただし100%安全ではないと。それもすべて合意した上でのことでした。

しかし手術日直前、今度は入院先でコロナ感染が発生して、手術は延期に。


時限爆弾を抱えた状態で、とにかく再発作で血管が破裂しないことをひたすら祈りながら、手術日を待ちました。ようやく手術が受けられたのは6月中旬、発作から2か月が経っていました。

実際に11時に手術開始されてから術後の病状説明に家族が呼ばれたのが夜の9時半過ぎ、実に10時間に及ぶ大手術になっていました。
発作から2ヶ月経過した間に裂けた血管が癒着してしまっていたため、それをひとつずつはがさねばならず、はがした箇所から出血が滲み出てなかなか止まらなかったので時間がかかったとのことでした。


良い医療機関と執刀医に恵まれたことは幸運でした。しかし手術まで再発作なく死なずに済んだのは運が良かったにすぎません。運が悪ければ手術を待ちながら死んでいるところでした。

通常手術の延期によって、患者は負わなくてもいいリスクを負わされることになるのです。


■「もう二度と治療が受けられないかもしれない」という不安、国民皆保険制度崩壊の危機


母の病気の場合、血管が破裂したら緊急手術が絶対必要だったのですが、一分一秒を争うその時にオペ室と病床が空いている保証はありませんでした。

一番しんどかったのは、「もう二度と病院で治療が受けられないかもしれない」という不安とたたかわねばならないことでした。

「当たり前と思っていた医療が、当たり前じゃなくなってしまった。何かあった時、どうすればいいのか」。

あの時、大阪中の人たちが感じていたのではないかと思います。


こうした事態が意味するところは深刻です。 


感染者もそうでない人も、「健康保険証を持っていれば、誰でもいつでもどこでも必要な医療が受けられる」という国民皆保険制度が事実上利用できなくなっていたということです。


そしてこのままでは、全国的に当時の大阪と同じ事態に陥りかねません。そうなれば国民皆保険制度の崩壊です。国家的危機と言っても差し支えないでしょう。

こんな危機に対して、国の対策がワクチンと外出自粛と飲食店締めつけくらいしかないというのは、国策としてあまりにも貧弱すぎる。引き換えに失おうとしているものがあまりにも大きすぎます。そのことを国はわかっているんでしょうか??


■「自粛してください、金は出しません」では人流は減らせない。医療を守るためにも給付金交付を!


もはや自粛レベルの対策をやってる場合ではないでしょう。


どんなに医療に負担をかけたくないと思っても、気持ちだけでは生活していけません。生きていくためには仕事や求職などで外出せざるを得ない。
感染予防のために人流を減らす必要があるというなら、仕事や求職で外出しなくてもいいように生活を保障するべきです。

どんなに緊急事態宣言を出しても、「外出自粛してください、でも金は出しません」では人流は減らせません。むしろ、収入減や倒産や解雇などで金策に走り回らなくてはならない人達が増えることで、違う人流が増えてしまいます。

例えば私がいた社会福祉協議会が窓口となったコロナ緊急対策貸付には、通常の200年分の申請が殺到しました。まさに緊急事態宣言によって収入減や倒産や解雇に追い込まれた人たちがです。通常の200倍の人流を政策的に生み出してしまったのです。生活が保障されるとわかっていれば、わざわざ外出しなくても済んだのに。

実際、ロックダウンで感染封じ込めに成功したニュージーランドも、日本同様に国民皆保険制度をもつイギリスも、給付金補助金によって安心してステイホーム出来るように生活を保障し、雇用の安定を図ることで人流抑制を機能させました。


日本政府も緊急事態宣言を出すなら、同時に「給付金を交付しますから、お願いですから皆さん安心して家にいてください!」と明確なメッセージを出すべきだと思います。




詳細は次回書きます。



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