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高橋源一郎『誰にも相談できません みんなのなやみ ぼくのこたえ』

私は実は(?)好きなものをたくさんの人におすすめしたくないんです。
自分にとって大切な、色鮮やかで確かな気持ちは、空気に出すだけで酸化してしまうから。
「こんな気持ちになったんだよ」ということを、相手と自分にだけ分かるやり方で、なんとなく示すことが多いです。
とくに本ともなると、内容を説明するっていうのがどうもやぼな気がして、うーーん、となります。

でもこの本は、そういうことをやってみてもいいんじゃないか、やってみるか、という気持ちになるものでした。

高橋さんが毎日新聞で5年間答えてきた「人生相談」を100本選んだものです。
1問の回答600字。見開きで足りる長さです。
でも、ゆっくりとしか読めません。
私が特に好きだったのをいくつかあげると、
「Q 『恋愛』の感情ないのは異端?」
「Q 母に仕事を辞めたことを責められつらい」
「Q 高2の息子、視力を失う恐れ」
の答えです。

100問を通して読むと、
高橋さんがどんな人生を送ってきたか、
人生をどう受け止めているのか、
そういうことが骨にしみるようにじわじわ分かってきます。
めちゃくちゃ切れ味するどい、歪みやごまかしへの切り捨てが見事。
その切れ味を目の当たりにしたあとでも、
この人はどうしようもなくやさしい、
本当にやさしい人なんだということがよく分かります。
人生を歩いて、歩いてきて、
他の人生をこういう眼差しで見られるなら。
代え難い豊さを育んできた高橋さんの姿勢を、100問通して読むことで体で分かる、
そんな本でした。

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